『なんか




回転するミラーボールの下でバカみたいな顔して




自分を取り巻く様に壁回りを一定の規則で浮遊し続ける、数えきれない小さな光の粒達を見ながら



必死に思い出そうとするんだ。



「どうやってたんだっけな」



って。




久々に踊りに行ったら、





どうやってどんな風に




踊っていたのか





忘れてしまったんだ。






…っていう




最近の






自分。』






お元気ですか…



ミキキです。



暫く病院へ行っていない。




夜。



新宿三丁目で地下鉄を降りて、地上の階段を昇ったらいつもと違う出口だった。




『ミキキ、踊りに行くの久し振りだね!』




携帯ストラップのキキララは鞄から顔を覗かせた。




『最近は朝五時前には起きてヨガをやっているから、しばらくクラブは遠退いていたわ。』



久々にクラブへ行った。



年に一度の仮装の日だったらしく、いつもと違う雰囲気だ。



『わあ!ミキキ!見て見て!亀仙人がいるう!オジイチャン大好き!!!』



キキララは大はしゃぎだ。



『キキ、ララ。駄目よ、私から離れないで!』



飛び出すキキララ。



『あれは何の仮装かなあ??面白いなあ!!』



キキララは言うこと聞かずに走り出してしまう。




ドリンクを注文して待ってたら、



さっきまでDJをやってた男の子が近付いてきて、話をしてくれているんだけど



(本当に全く誰か分からないわ。)



『…ぅあ~!!!(やっとで分かった。)』



『ハハ!今日は誰が誰だか分からないでしょ?』



彼は、まるで別人の様だ。



『今日は何かのパーティなの?』



バカな質問をした私に対し、



ミラーボールの下で仮装し踊っている人々を背に、彼は両手を広げおどけて答えてくれた。




『毎日がパーティさあ~!』



『ハハハ!!』




まるで文化祭の様だと言っていたが、本当にそんな感じだ。




仮装は、フロアにいつもと違う空気を作り出した。




皆いつもと違う姿。




不思議な空間。




いつもと違うせいなのか、


久し振りだからなのか。



あまり馴染みの無い曲が偶々続いたせいなのか…



どうやって踊っていたのか忘れてしまった。




上手く体が動かない私の前で、アロハシャツの亀仙人が楽しげに踊っている。



(どうやってたんだっけな)



思い出そうとする。




(音楽をどんな風に聞いて感じていたのだっけ…)



皆、思い思いに楽しそうな気持ちを表現している。



(思い出せない…)




室内を浮遊する無数の小さな光の粒達。



いつも躍りながら見ているお馴染みのミュージシャンのポスターは相変わらずそこにあり、いつもと変わらぬ表情をしている。




ミラーボールは回転し続ける。



(どんなか、忘れた…。コンビニ行ってアイスクリームを買って食べてこよう。)




取り巻く光の粒達の行方を凝視しても、何も始まらない。




地下から地上へ出た。




目の前の靖国通りは、この先のずっと向こうのその先までも夜が広がり続いて伸びてゆく事を感じさせた。



遠い昔に見ていた夜の深さやその質、夜というものに見ていた何かをそこに見出だそうとしたが、



そこで止めた。



コンビニで買ったジャイアントコーンを食べながら、



もっと遠い夏を思った。




(あの時、アイスクリームなど食べていなかったなあ…。)



『今年の夏の一冊』的な本すら、読む時間も無かった…。



ただただ子供達と遊んだ夏を、思った。




ネパールに正確に滞在したのは一ヶ月半。




私は若く、目に写るもの全てから何もかもを吸収したがり、また学びたい年頃でもあった。




どんな瞬間であれ、全ての事に対し『将来に役立つ何か』を見出だそうとしていた…。







テラス



強い日差し



夏休みの子供達




一人の時間を過ごす事を止めた私は




毎日村の大人や子供達の似顔絵を描いていた。





ペンはボールペン一本しか持ってきていなく、毎回が一発描きの一発勝負だ。





ドキドキするあの緊張感。




ノってくるまでは変な線を描くし、間違った場所に筆を置いてしまうが、一度ノってしまえばこっちのモノだ。




ある感覚に行き着く。引く線が自信に満ちてくる。





どんな間違った線も、補う線が存在する。




その時の感覚を、そこへ行き着くまでの感覚を道程をしっかりと感じ取り覚えておく。





一度そこへ行き着けば、その勘が解れば、もう、こっちのものだ。




一日、一人か二人。




日本から持ってきた私の日記帳には、覚えたネパール語と、村の子供や大人の似顔絵がどんどん増えていった。





毎日の様に描いていた。




本を読んだり日記を書いたりしたかったが、




早寝早起きの大家族の中で暮らし



皆が眠る時間には、私も一緒に真っ暗な大部屋へ行くので



隣の部屋からもれてくるテレビの音を聞きながら、窓ガラスの無い窓から見える夜空を見つめ、ベッドでぼんやりするだけだ。




その夏、私は、ネパールの色々な名所など行かずに



ずっと子供達といた。




鬼ごっこ、子供達の家一軒一軒訪問ごっこ、ダンス、歌、羊飼いとの散歩、おしゃべり、アンマの手伝い…。




ただただ、遊ぶ、夏休みの子供達と過ごした夏を





まるで宝物の様に大人になって振り返った。






ジャイアントコーンを食べ終え、クラブへ戻った。



(どんなかな)



(どんなだっけかな)













(つづく)



機会あれば、その時の似顔絵を載せるつもりです。
(誰かが呼んでいる。)




海底。



私は、海の中でユラユラ浮遊してて



遠くで誰かが呼んでる。



その声はずっと上にある水面のそのまた上から聞こえるみたいだ。



『ミキキ…』



『ミキキ…』



私は気泡になっている。



まあるい気泡の私は、思う。



(起きなくては)



遥か遠くの水面を見上げる。



明るい光が見える。



水面の上へ。



気泡の私は上へ上がって行く。


どんどん…



あともう少しで



水面の上だ。



水面の上の世界が視界に迫ってきて



あともう少し…。



水面の上…へ…。



遠かった外の世界の音がハッキリ聞こえてくる。



もうすぐ…。





『ねぇ、ミキキ!』




そこではっと目が覚めた。






枕元の携帯ストラップが音をたてた。


『なに、キキララ?』


ストラップのキキララの顔を覗く。


『ミキキ起きた?ねえ、自分がいなくなるってどういうこと?』



『何?寝起きに…。そんなの、いないとしか言いようがないわ』



『じゃあ、いなくなった自分はどこにいるの?』





暫くぼんやりした。






渋谷。


帰り道。


ぼんやり考える。



ある日、突然自分がいなくなってしまったような感覚になった。



いなくなった自分というのは一体その間に何処へ行ってしまったのだろう。






渋谷から原宿までの道。



数人のスケートボードに乗った男の子とすれ違った。



軽いような低いような音が通り一帯を覆うように響き、段々と遠ざかって行く。


(いなくなった自分は、どこへいったのか。)



手にしているペットボトルのキャップを外す。



涼しげに透き通るジンジャーエールは通りの向こうの街明かりを映し、喉を心地よく刺激した。



夏の夜の予感の様なものが空中に浮遊している。





『♪雨降りの朝で今日も会えないや

なんーとーなーくー

でもーほっとしてー飲み干したジンジャーエールー


気がー抜けーて


安心な僕らは旅に出ようぜ

思いきり泣いたり笑ったりしーよーおぜー』




お元気ですか…


ミキキです。



最近は深夜の散歩よりも朝方に散歩をするようになりました。


近所の猫によく出会します。


サイダーやジンジャーエールが似合う季節です。





ペットボトルを見つめる。


ジンジャーエールの小さな粒の気泡が底から上がって行き、弾けた。


小さな可愛らしい粒をなんとも言えない気持ちで見た。


いなくなった自分は、一体何処で何をしているのだろうか。



遠い所を旅でもしているのだろうか。



それとも人生を休み、どこか美しい場所でゆったりと美味しいお茶でも飲んでいるのだろうか。




(自画像を描いていた自分は、あの時何を見たのだったっけ…)



あれこれ考えるうちにジンジャーエールを飲み干し、渋谷から新宿まで辿り着く。



ヒールで足が痛くなった。


(私は、何か凄いものを見た…)



待っていたバスがこっちへ向かってやってくる。



(龍なのか、未来の自分の姿なのか、自分自身だったのか。)



入り口ドアが開き、乗り込んだ。



『今日の夜は何か違うわ。』



夜の空気の中に、遠い何かを感じとる。



何かを思い出しそうな気持ちになる。



流れる風景を見つめる視線が変わる。



風景が一転する。



平らな風景に命が吹き込まれる。



目の前の世界が変わった。



『そして、私は新宿の夜に龍を見たんだ。』





(つづく)



ガサゴソ袋の中を探す音がする。



『ミキキ。何コレ?』


『何よキキララ?勝手に漁らないで頂戴!』


『ミキキ…このペットボトル…』


『何?ミネラルウォーターよ?私の大好きなイタリアの』


『ミキキ…』



『ジンジャーエールじゃなくてミネラルウォーターを飲んでたら、気泡を見たのよ…。そしたらくるりの歌が浮かんで…あら?ってなって、』



なんか色々繋がって



くるりの歌をどうしてもここで使いたくて



ミネラルウォーターを



ジンジャーエール飲んだ事にしたのを


ここで



告白します…。





(つづく。)





『なんか…



商店街歩いてて



季節は、夏の始まりで



サンダル履いて



近くのコンビニまで行こうとしたらさ




前からメチャメチャ『イイ男』って感じの人がバイクに乗ってこっちに向かってくる!!大変!!!




って思って髪の毛直そうとか思ってよく見たら




一緒に暮らし始めた恋人だったんだよね…』





っていう





昔の





記憶。





お元気ですか…



怠過ぎて何もしたくない



ミキキです。






誇らしい様な、照れ臭い様な、そんな記憶



懐かしいです。




今日は怠いので、このへんで。