『曙に咲く』蜂谷涼著
柏艪舎 2018年 978-4-434-25316-4


お鶴さん。
エドウィン・ダンさんの奥さんになった人の、波乱の生涯を描いたものがたり。
一番の波乱は、物語の一番最後にやって来る。
「エドウィン・ダン妻 ツル   二十八歳   ……慢性胃炎ニ罹リ……病死……」

お鶴さんは、お馬さんに乗ることができたそうだ。けれど、乗馬の練習を始める前から、お馬と仲良くなるのが得意だったらしい。
エドウィン・ダンさんの名前は、日本競馬の歴史みたいな本の中で何度か見たことがあるが、奥さんが日本の人とは知らなかった。
アメリカ人のダンさんは日本の農業にいろいろな貢献をした人らしいが、ダンさんが日本で暮らすことには苦労も多かっただろう。けれどそれ自体は、極めて単純に考えれば、周囲から外国人と見られることから生じるもので覚悟の仕様もあるのかもしれない。
お鶴さんが、そして娘のネーイちゃんが受ける偏見や差別のことは、どうしようもない。
本人たちの悲痛もどれだけのものかと思うが、大切な家族がそんな目にあうことに、ダンさんもどれ程つらい思いをしただろう。
後半のおしまいくらいになって、ダンさんとお鶴さんの婚姻がやっとのことで認められる。
そのときの皇后からの祝いの言葉には、いくらか救われた気になったが、やはりお鶴さんが若くして逝ってしまったことが残念でならない。

代官所の前に繋がれた栗毛の馬。
その馬と触れあう少女の頃のお鶴さんを思い出す。
ずっとそんな時間が続いて欲しかった、と思う。


第一章 ねぷた囃子
第二章 暁天の星
第三章 翼ひろげて
第四章 ミセス・ダン
終章 玉響(たまゆら)の