ドラクエはね、製作者すべてが素晴らしかった訳だけれども、何よりキャラクターデザインが秀逸だったからね。「スライム」って聞いたら水色のアレをみんな思い浮かべるもの。鳥山明は、やっぱり偉大。

 

 

 「無双」は、天下無双、無敵状態。チートとは、

【チート】cheat (英)

 ①ごまかし。ずる。いかさま。また、そのようなことをする人。詐欺師。

 ② コンピューターゲームで、プレーヤーがプログラムを不正に改造すること。オンラインゲームなどで、不正な手段でゲームを有利に進めるアイテムを入手することも指す。

 要するに「異世界転生」とは、「中世に現世の知識や経験を持って生まれるってことはチート状態なんじゃね?」ってことで、その世界に在ってはいけないような無敵の存在になれる訳だ。

 タイムマシーンという発想が生み出されて「過去の未熟な世の中に現代の最先端技術を持ち込んだらエラいことになるよな」「未来人が現代に来たら「なんて未熟で野蛮な世界だろう」と思うだろうな」みたいな発想が次々と生まれた。『ターミネーター』とか『戦国自衛隊』とかが分かりやすい。誰もが一度は見聞きして、ワクワクしながら色々と空想したことだろう。

 現世の記憶残しも、「100年前の史実を3歳児が話した!」とか「前世は殿様の姫でした」みたいな前世占いとかの転生オカルトや、「今のままの記憶で3歳に戻れたら女湯はパラダイスだろうなぁ」とか「今の経験があれば青春時代のコジらせ黒歴史はなかったのに」とかの小市民妄想と相まって、誰もが一度は空想したことだろう。

 

 

 で、だ。

 まず「現世で死んじゃって」ってのが物語の始まりなんだけれども、その死に方の多くが「不遇の死」が多いのね。事故死、通り魔に殺される、過労死、とか。「何の取柄もない私の、何も良いことのない人生が、突然終わる」という絶望からのスタート。「のほほんと生きてたら急に召喚されちゃいました」のパターンもあるけど。

 そりゃ報われたいよね。次の人生があって欲しいよね。もしあるのなら一目置かれる無敵な存在になりたいよね。欲しいよね、希望が。

 「異世界転生もの」が大流行りしているということは、それに多くの共感を寄せる、現世にうんざりしている青年たちが大多数居るということに他ならない。と思う。

 

 そして、その転生先が「コンピューターゲームのような世界」なわけ。

 例えば、天変地異や飢饉、流行り病、戦乱などで、生きることが本当に艱難辛苦な時、人は救いを求めて天国や極楽浄土に行くことを願ってきた。何の苦痛もない、何の苦役もない、ただただ平穏で安寧な世界へ行きたいと。

 それが、違うわけ。色々やりたいの。剣や魔法で戦って英雄になったり、可愛い子に囲まれて暮らしたり、令嬢になってサディスティックに命令したり、静かに農園を築いたり。

 しかも、チートで。時間をかけて、苦行して、成長するんじゃないの。生まれつき無敵。加えて「現世で自分が覚えた知識や経験を活かせば…」なの。現世では成功に結び付かなかったスキル、評価されなかったスキル、会社にこき使われるだけだったスキル、何の役にも立たないけど誠意と人当りだけは取り柄だと思ってきたスキル。報われたい。もう一度、やり直したい。

 何もしない極楽浄土は、つまらない。もっと自分が活かせる世界で活躍したい。その世界で自分を示したい。しかも、チートで。と、思われてならない。

 

 チートもそうだけれど、ゲームの世界は「都合の良い世界」。

 温度や匂い、重力や時間などが、有るようで無い。すなわち、現実に感じる不快感が無い。

 例えば、返り血を浴びるシーンはあっても、次のシーンではもう消えている。現実には、擦りむいて血液がちょっとでも着いたシャツを洗濯するのがどれほど大変か。死体もすぐに消える。何なら宝石やお金になったり、レアアイテムに変わる。不快感どころか素敵。「見えない掃除屋さん」の仕事がスゲー。『鬼滅の刃』で最も能力が高いのはどの柱でもなく、「隠」だと僕は思ってます。

 体力やレベルは全て数値化されるってのも都合が良い。てか、全部が数値で出来てるのがコンピューターゲームなのだけれど。現実は、そんなに分かり易くない。

 例えば、「ててれてってんてーん。電話応対のスキルレベルが上がりました」とは教えてくれない。「これでいいのか?」と悩み、同じことをしても別の相手には通じず、「分かんねーよ」と試行錯誤しながら、経験だけで「少しはマシになったか」くらいの把握が関の山。人間関係も誰が良い人で悪い人なのかは探り探り。見た目でモンスターって分からない。

 不快感や不透明や不条理という現実が、ゲームの世界には無い。そんな世界が桃源郷になっている。結局、極楽浄土と同じような都合の良い世界じゃない。と思う。

 

 

 そんなことを考えて、「青年たちよ、大丈夫か」と想う。

 ほとほと現実に嫌気が差しているのだなぁ。分からなくもないけれどもさ。ただ、ちょっと都合良すぎて、現実離れし過ぎなのが、どうもね。いかさまじゃなくてさ。

 

 アニメやゲーム、あるいは小説や漫画や映画、そういう非現実のエンターテインメントは、見て楽しんだ後に「あー面白かった。さ、明日もがんばろう」とか「面白い。なるほど、ふむふむ」とか、現実を生きる糧になって欲しいんだけどな、と思う。

 そう思えるアニメが増えるといいなぁ。