緊急事態宣言が解除された頃、

面会日に長男と次男は来たものの、長女は来られないという日があった。

理由を聞くと、部活動が再開され、日曜日に練習試合があるからということだった。

 

長女は、地元中学校のバスケットボール部に所属している。

彼女は同年代の中では長身で、バスケットボールをやるには向いている。

けれど、彼女自身はそんなにバスケットボールに興味がある訳ではない。

たぶん、NBAのスーパースターや日本代表女子選手について聞けば、

「誰それ?」と答えるに違いない。

 

じゃ何故、彼女がバスケ部に入ったのかと言えば、

田舎の中学校ではクラブ活動入部が必須であること、

仲の良い友達がバスケ部入部を望んでいたこと、

長身のため、友人や先生に勧められたこと、

以上、3点が主な理由だろう。

 

「じゃ、そうすっかな」くらいが彼女の動機であって、

「バスケ命!S・カリー神!全国中学大会優勝!」なんてことは全くない。

かと言って、楽しんでいないかと言えば、そんなことはない。

スポーツの楽しさやチームメイトとの友情や葛藤など、

「基礎トレ嫌い!疲れるだけでムカツク!」と呪いながらも、

13歳の乙女なりの真心と体力でもって、青春を謳歌している。

 

きっかけや動機なんて、大抵そんなものだ、と思う。

生まれ落ちた時から「我が天命である」と一道に進む者は、そうそう居ない。

自我も芽生えないうちから、親の意図か勘違いによって、

楽器や絵筆などの道具を与えられるなどしなければ、

幼少期から何か一つの道に進むなんてことは、まずあり得ない。

好奇心旺盛、変幻自在、多種多様、

オオカミに育てられればオオカミになるのが、人間という生き物なのだから。

 

そんな長女が、日曜日に練習試合。

兄たちに聞けば、

「顧問の先生が熱心なんだって。自粛解除で練習試合をたくさん申し込んだらしいよ」

とのことだった。

なるほど、そういうことね。と思う。

 

大体、彼女の態度は想像がつく。

「そこまで望んでないし。ま、別にいいけど、ちょっとダルい」。

そんなもんだろう。

活動自粛で寂しい思いをしているに違いない。

成長期の運動不足は健康に悪い。

オトナの思慮に対して、彼女の反応は極めてクールだろう。

 

ただし彼女は、彼女の自発心のままに任せておいたら、

自堕落まっしぐらに突き進むと思われる。

クールでクレバーな所が過ぎるため、情熱や共有心が未完成のままだ。

面白い人間になるには、もう少し経験と知識が必要だと、僕は思っている。

 

「そいつは受難だな。ま、頑張ってもらおう」と僕が言うと、

兄たちは揃って、「だね」と答えた。

長女より少しだけ長く生きている彼らは、少しだけ経験と知識を蓄えている。

 

次の面会日に3人が揃った際に、長女に試合結果を聞けば、

「負け負け。だってウチは強豪校じゃないもん」とあっさり答えていた。

そんな彼女の着ていたTシャツは、

バスケットボール部のネームが入った練習用Tシャツだった。

少しずつ、彼女も経験と知識を得ているようだと、思った。

 

 

昨日の日曜日の記録。

全国で感染者数が軒並み増加している中、活動。

僕は悪い子です。

 

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「ステーキのあさくま」でランチ。愛知県に本店のあるステーキレストラン。

僕はナイフとフォークのテーブルマナーが守れない悪い子です。

先にステーキを細かく刻んで、箸で食べたいのです。

 

爺様が「あさくまでステーキが食べたい」とリクエスト。

なので、愛知県にあるチェーン店の一つに連れて行く。

この店は、爺様にとって、僕の家族にとって、思い入れのある店。

 

僕が幼少だった頃、この店は「ご褒美の店」だった。

ずいぶん前の記事で、クリスマスのことを書いたことがあったと思うけれど、

僕が保育園児だった頃、おもちゃ屋でサンタに欲しいものをお願いした後、

ディナーを食べている時に、なぜか親父がしばらく姿を消し、

翌朝、枕元にお願いしたおもちゃが置いてあるという話。

そのディナー先はいつも「あさくま」だった。

 

その他にも、家族で何か良いことがあった時や、

たまには外食で美味しいものを食べようという時、

若き父母は、この店を愛用した。

当時は四日市市街にあったチェーン店。

今はもうないけど。

 

「お母さんは、ここが好きだったからな」

「母上はいつも“アスパラステーキ”を頼んでた。もうメニューにないけど」

「だったな」

「あとは、このコーンスープ」

「だったか」

「他にはない濃厚さが気に入ってた。市販のパック売りも買ってたし」

「そうか」

「俺が6歳で肺炎起こして入院した時も、これを持ってきてくれた」

「そんなこともあったのか」

「回復期に何でもいいから食べられるものをって。

 美味しかったのは、このコーンスープと梅干しのおにぎりだった」

「お母さんにも食べさせてやりたいな」

「まぁ、ね」

爺様は運転手がいることを良いことに、

ワインの小瓶を1本飲み干していた。

 

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ナゴヤドーム「阪神タイガース対中日ドラゴンズ」公式戦。

三塁側内野席にて感染。おっと、観戦。

 

7月上旬、爺様が「観戦チケットを知人から譲られたから連れて行ってくれ」と言う。

最初の返事は「マジか」だった。

医療介護福祉関係者は、

「一般人以上に不要不急の外出を控えろ」イコール「遊びに出かけるな」という世相だから。

迷った挙句、好奇心と孝行心がナイチンゲール魂や社会的義務よりも勝り、

同行することにした僕は悪い子です。

 

入場での体温チェック、マスクの着用、大声や楽器での応援禁止。

席は、縦は一列空け、横は2席空けて着席。

飲食物やグッズの販売店は半分ほどを閉め、警備員は増員の様子。

注意書きや注意アナウンスが、隙間という隙間を埋めている。

まさに厳戒態勢。我が国は共産党一党独裁政権だったっけと錯誤する。

行ったことないけど。

 

しかし、プロの技を見るには最高だった。

150kmの投球がキャッチャーミットに収まる音。

ヒットやホームランの、ボールをバットで捕らえた時の打撃音。

選手や審判の声。

いつもならドンジャカうるさい、もとい、賑やかな応援団の声援で聞こえない音も、

とてもよく聞こえて、技がより際立って感じられた。

前や隣の客にイライラすることもないし。

トイレや買い物に出る度に「すいませんすいません」って足を畳んでもらう必要もないし。

 

おまけに、我が阪神タイガースは逆転勝利を収め、

気分爽快で帰路に着くことができた。

球場でさらに生ビールを何杯か頂いた爺様も、

「何度かナゴヤドームに足を運んでるが、初めて阪神が勝ったのを見た。

 今日は良い日になった」と、ご機嫌さんだった。

大声出すなというのに、何度か「○○がんばれ!」と叫ぶのには閉口したけど。

かく言う僕も、同点、逆転、ホームランなどの際には立ち上がっちゃったし。

声も出てたと思う…たぶん。ほんと、悪い子だ。

 

 

長所の裏返しは、短所。

慎重は臆病。真面目は堅物。規律は不自由。

てことは、良いは悪いし、悪いは良いでもある。

けれど、何かが、どこかが、なぜか違う、良し悪しがある。

この微妙なサジ加減を掴む感覚こそ、人にとって大切なことだ、と想う。

そしてそれは、時間をかけて、少しずつ、経験と知識を育む他はない、と想う。

 

 

100%の安全を望むなら、全てを100%にしなければならない。

医者も看護師も介護士も救命士も100%ステイホーム。

学校も病院も保健所も市役所も警察も100%閉鎖。

スーパーマーケットもコンビニもドラッグストアも100%営業禁止。

電気、ガス、水道、交通、その他の運営や整備も100%停止。

農業も漁業も工業も商業も、

その他の全ての職業という職業を100%止める。

だって、そこには人がいるのだから。

誰よりも自分を、大切な家族を、守りたいと願う人がいるのだから。

それであなたは生活ができるだろうか。

 

もう一つ、極めて乱暴なことを言えば、

究極は、感染したら100%排除すればいい、に達してしまう。

いつかの養鶏場や養豚場のニワトリやブタのように。

もしもあなたが感染してしまった時、それで納得ができるだろうか。

 

ゼロリスクは、あり得ない。

人との関りを100%絶った人類に、進歩などあり得ない。

オンラインなら関りがない?

何がネット環境を維持管理しているのか。

何がPCを製造しているのか。

何が電力を供給しているのか。

人だ。

 

人が人として大切にすべきことを、微妙なサジ加減を、

時間をかけて、少しずつ、もう一度考え直して、

学び、育む時が来ているのだろうと、

子供たちや爺様婆様と過ごしながら、独り、思う。