今夜は、雪になりそうだ。
山に低い雲がかかり、ずいぶん冷え込んできた。

雪はやっかいだけれど、僕は好きだ。
白くて、白くて白くて。


パリのモンマルトルの丘は、19世紀以降、多くの芸術家が集まった場所。
1927年、スペイン・カタルーニャ生まれの23歳の若き芸術家も、
新たな芸術運動に導かれるように、ここに赴いている。

Salvador Dali 。サルバドール・ダリ。
シュルレアリストをクビにされたにも関わらず、
シュルレアリスムの筆頭に挙げられる、自称「天才」の芸術家。

奇異な行動の伝説には事欠かない。
潜水服を着て講演に立ち、窒息で倒れたり、
象に乗って凱旋門をくぐったり。
トレードマークのカイザー髭は、歴々たる名将を凌駕してしまった。


彼の絵は有名だから、大抵の人は知っている。
そして、「訳が分からない」、「いやらしく、下品」、「気持ち悪い」と、
素直な感想を聞くことが多い。

たまに、街中などで、「シュールだよね~」って言葉を耳にする。
ん?って振り向くと、どうやら上記のような心持ちを言いたいらしい。
もしくは、「脈絡がない」、「突拍子な」、「不相応な」ものを評すようだ。

これは、あながち外れではない。というか、おおよそOK。
ダリの絵や行動を見れば、そう思うのが当然だ。
ただ、シュルレアリスム【超現実主義】としては、
ダリ本人としては、大真面目に「自分と向き合った」結果だということを、知って欲しい。


20世紀初頭は、
人類学では、G・フロイトの研究である「精神分析」が、
科学では「分子の発見」が、技術では写真・映画が、
大センセーションを巻き起こしていた。

啓示や予言など、神から与えられると信じていた「夢」は、
自分の体験による「無意識」の現れであると、発表された。
神に与えられた体も、神が創造された世界も、
すべては「分子」という、小さな粒粒でできていると、発表された。
創造ではない「記録」により、鏡写しではない、「現実の自分」を見ることが可能になった。

幼少期から、「自分とは一体何者なのか」と問い続けてきた、ダリ。
自分、自分、自分。
答えを見出すための手掛かりは、すべてに食らいついた。

「自分でもよく分からない。なのに、私を悩ませ続けるイメージが存在する。
 これを無意識と言うのならば、私の現実は無意識によって左右される。
 現実を超えた現実が、私の現実なのだ」

ダリはこんなことを考えてた。・・・たぶん。

だから、「訳が分からない」とか「不相応な」ってのは、OK。
他人の夢の話は、他人に伝わりにくいものだ。
ただ、「非現実」ってのは違うと、僕は思うんだ。
彼にとっては、「現実以上の現実」なのだから。


僕は、彼が愛惜しくって仕方がない。
ただ自動筆記などの無意識こそシュルレアリスムだと主張し、
まったく難解なものを純粋と称えたブルトンなんかより、
持てるテクニックを駆使して、写実的・具象的に捉える努力をし、
時には神にもすがりながら、誰かに伝えたいと必死だったダリの方が、
ずっと人間らしいと思うから。

僕は、一目見たときから、
「僕を分かってください」って、
彼の強い思いに、共感し続けているんだ。



ダリ美術館。モンマルトルの片隅にある。

 
地下のギャラリーで、ダリがお出迎え。
鋳造による彫刻と、小説の挿絵などの原画を展示。油彩画は無し(笑)人気があるから、全部売り物になったしね。
もしも、ダリの展覧会が近くに来たら、油彩画はぜひ一度ご覧あれ。天才を名乗るに相応しい超絶技巧。ダリを批判し、抽象画に走った輩は、ダリの技術に嫉妬した末じゃないかと思うほど。「描けたら、お前も描いてたろ?」って言ってやりたくなる(笑)


『宇宙象』。度々顔を出すモチーフ。大好きなフォルム♪

 
『宇宙的ヴィーナス』。女性、古典美術、時計、卵、アリ・・・。彼を悩ませ続けたモノ。



こうやって見ると格好いいけれど、絵を見ようと思うとオブジェが邪魔・・・。展示の仕方に難あり。

  
ロールッシャッハ的な水彩画。なんてね(笑)
左はダ・ヴィンチ、右はイエス。インクの染みにも、意味を見出したくなるのが人間。


教会のミニチュアのような洞窟の奥にダリのフィルムが流されてた。
ダリは映画や映像にも興味津々で、いくつも作品を残している。映画『アンダルシアの犬』を初めて見たときは衝撃的だったなぁ。


女優メイ・ウェストの唇ソファーの亜種だね。家具もデザインするのが好きだった。・・・使い辛そうなのが多いけどね。


『カタツムリと天使』。
後ろは、F・ラブレーの小説『ガルガンチュアとパンタグリュエル』のための挿絵。イラストとしては完成度の高い版画で、大好き。・・・小説は読んだこと無し(笑)
  
こんなの。『不思議の国のアリス』っぽい、滑稽さがあって可愛らしい。



・・・素敵だ。なんてイカす爺さん。出口にあった肖像写真の一枚。
ちなみに、花は水仙だね。水仙は、ギリシャの神ナルシスが自分に見惚れるあまり、変貌してしまった花。ナルシストの象徴と知りつつ、このパフォーマンス。ブラボー。


最後に・・・・

若い時はメッチャ格好良かったんだから(笑)素敵~。惚れてまうやろ。