喫煙が嫌われるようになったのは、いつ頃からだろう。
一昔前なら、喫煙はアルコールと並ぶ、大人の嗜みだったのに。

今や、喫煙所を探す「喫煙ジプシー」が、街を彷徨っている。
デザインのフロントラインだったタバコのパッケージも、
「あなたの健康を害する恐れがあります」と、
味気ない警告文が、面積の半分以上を占拠してしまった。

国連組織である、WHO【世界保健機関】の主導かな。
医学的データの分析も進み、肺がんのリスクが明確化した頃。
90年代に入ってから、日本は本格的な喫煙対策が取られるようになった。


大人への羨望。
僕は馬鹿な少年だったので、お酒やタバコを嗜む姿が憧れだった。
トレンチ・コートを羽織り、バーボンを飲みながら、紫煙を燻らせる。
H・ボガードが格好良かったんだ。
J・ディーンも、S・ヴィシャスも、松田優作も、舘ひろしも、チバ・ユウスケも。
ツッパリとかヤンキーとかに憧れたことはないな(笑)

もちろん、嫌な景色も覚えている。
子供の頃の市役所や警察所は、燻製所のようだった。
バスや新幹線で旅行に行けば、タバコの煙で乗り物酔いしそうになった。

親は吸わない人だった。
父親は、20代の頃に吸ってたらしいが止めた人。
母親は、70年代から健康被害について吠えていた人。

祖父は渋かったな。
キセルで吸ってた姿を覚えてる。
種を入れ替えるのに、手の平の上で火種を転がすって技を持ってた。
「あれ、やってみたい」って、大人になってから叔父に言ったら、
「あれは、農作業で働き続けた者の手だからできるんだ」って、たしなめられた。


僕は現在、喫煙者だ。
もちろん、タバコの害について、それなりの知識も得ている。
マナーについても、違反をする気は毛頭ない。
お行儀良く、タバコを嗜んでいる。


パリは、喫煙文化が根強く残っている。
ただし、近頃、建物内は全面禁煙という法令が出たそうだ。
公共施設、地下鉄、ホテル、レストラン、カフェ。どこも室内禁煙。

美術館はもちろん、ホテルも全室禁煙だった。
カフェも喫煙したかったら、どんなに寒かろうがテラス席に座る。

されど、だ。
街は喫煙者の方が多いんじゃないだろうか。

日本では毛嫌いされる “歩きタバコ”。
キスと同じで、当たり前なんだ。
パリジャンもパリジェンヌも、堂々と咥えタバコで歩いてる。
通勤も、買い物も、デートも、タイミングがあれば火をつける。

勤務中も、皆抜け出してる(笑)
ショップ店員も、シェフも、美術館のスタッフも、外へ出て一服するんだ。
しかも玄関前で堂々と。・・・日本企業なら大目玉。

スーツ姿のエグゼクティブも、お洒落なレディーも、
買い物カーゴを引いたお婆ちゃんも、喫煙者。
喫煙者の僕すら、日本の状況を考えると、驚くくらい。
ただ、未成年っぽいのが吸ってるのは、まったく見かけなかった。

マナーも驚く。
未だに、ポイ捨てが横行してる。石畳は吸殻だらけ。
僕が携帯灰皿を使ってたら、皆不思議そうな目で見てた(笑)

あと、喫煙者のくせにライターを持ってない人が多い。
「火、貸して」って、何度言われたことか。
ブロンド美人から声をかけられたのは、その時くらいだ(笑)
フランス語で、旅行者の日本人に頼むんだから、かなり所持率低し。
図々しいのになると、「タバコくれ」とも平気で言ってくる。

街には「TABAC」の看板が、あちこちにある。
生活雑貨を置いたタバコ屋が、まだまだ生きてる。
途中でライターが切れて、€1ライターを購入したが、
世界の有名ブランドは揃ってた。マイルドセブンも健在。
以前吸ってたGITANES買えばよかった~。本場なのに。


芥川龍之介の短編に『煙草と悪魔』というのがある。
煙草の伝来は、悪魔によって日本にもたらされたという話。
西洋の神と同時に悪魔もやってきて、
牛飼いとの間抜けなトンチ対決の結果、
煙草という堕落を日本に広めてしまったとか。

パリの誘惑に、堕落を伴わないよう、気をつける次第である(笑)


ノートルダム付近の歩道。雨宿りしつつ、一服。・・・僕が捨てたんじゃないよ(笑) 


ホテル前の木。毎日、これを見ながら煙草を吸ってた。毎度、わざわざ着替えて・・・。
何の木だろ?小さい栗みたいな、まっくろくろすけが付いてた。


行きの飛行機。北極圏だから、昼間なのに夜明けのよう。
 
座席モニターのナビ。北極圏なんだって分かりやすかった。
この画面が面白くて、10時間フライトの間、煙草吸いたいって思わなかったな(笑)