僕はタバコを吸う。
紫煙を燻らせる時間は、
至高の時間だと思っている。
喫煙歴はもう20年になるのか。

その間に5年間と2ヶ月の2回、
禁煙期間がある。

1回目は、結婚式の当日からの5年間。
妊娠している妻と共に暮らす為、
生まれてくる子供の為、
式の朝からタバコを止めた。

ブーケを花屋に取りに行った際、
式の途中でクジケるかもしれないと、
一箱だけ買ったタバコは、
5年間未開封のまま、御守になった。

日々の閉塞感や仕事のストレス、
「制限される」ことへの抵抗から、
5年後、再びタバコを吸い出した。
正月の当直室で一人、御守を開封した。

子供も自分もアレルギー持ち。
罪悪感はないと言ったら嘘になる。
けれど、「自分らしさ」を失うようで
止めたくなかった。
くだらないけど、しがみつきたかった。

2回目は、離婚前の2ヶ月。
妻の最も具体的な不満は、
「子供の近くでタバコを吸うこと」だった。
失望が希望になるなら容易いと、
再びタバコを止めた。

僕の具体的な不満を、
妻は「止められない」と言った。
希望は、もう、なかった。

また僕は、タバコを吸っている。
「止められるのに、もったいない」と
優しい人たちは言う。

誰の為に止めるのか。
何の為に止めるのか。
また僕は、タバコに火をつける。