9月16日の読売新聞に赤ちゃん19人に1人、体外受精で誕生という記事が掲載されました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170916-00050079-yom-soci この数字を見ると体外受精がもはや特殊な治療でななく、一般的な治療であるような印象を覚えます。またこれから不妊治療をされる方々の目には体外受精はもはやトレンディと写り、いざとなったら体外受精をすれば誰でもすぐに妊娠できるという先入観を招かないでしょうか?
 ここで注目すべきは記事で掲載している日本産婦人科学会が公表した体外受精治療件数と出生児数の年次折れ線グラフです。2015年の集計では治療件数は42万4151件で出生児数は5万1001人となっています。すなわち体外受精を8回以上やってやっと1人赤ちゃんが生まれているということを意味しています。体外受精が1回あたり50万円として計算すると赤ちゃん1人世に送り出すのに400万円以上かかる計算になります。
 さらにグラフから読み取れるのは治療件数/出生児数の比率は年々大きくなっていて、治療件数増加の傾きは出生児数増加の傾きよりはるかに急峻になっている事実です。例えば10年前の2005年では治療件数は約10万件であるのに対して出生児数は約2万5千人ほどです。つまり2005年では体外受精4件で1人の赤ちゃんが生まれているのに対して、2015年では体外受精8件で1人の赤ちゃんが生まれており、赤ちゃん1人出生あたりの治療件数は増え続けているのです。
 この事実は出産に結びつかない治療周期が出産に結びつく治療周期よりより高い加速度でもって増加していることを意味しています。簡単に言えば出産に結びつかない治療周期が著しく増えているのです。その理由のひとつとして体外受精を行う施設数が年々増え続けている事実があります。そして体外受精施設が増え続けても、妊娠しなければ施設間を患者がお互いに移動するため、施設同士は競合せずしかもお互いに収益が確保されているということは容易に推察されます。
 体外受精で受精しても、受精卵が5日目の胚盤胞に到達できずに胚移植がキャンセルになり、或はキャンセルを避けて2日目や3日目の妊娠の可能性が低い胚移植をあえて行って妊娠に至らない治療周期にどれだけのお金が費やされているか、本当は国や国民も知らなければいけないのではないでしょうか?
 ところで胚発生の要は精子のDNA integrityです。卵子の老化がよくとりあげられますが、遺伝子損傷は常に細胞分裂をする精子でより顕著になります。そのために男性パートナーは精子を提供するだけではなく、男性不妊専門医のもとで適切な治療を受けながら必要に応じて体外受精を行うことが望ましいと言えます。しかし体外受精施設付属の男性不妊外来では患者のためというよりは体外受精施設の集患対策としての差別化戦略として利用されているだけで、必要にして十分な治療がされているとは言い難い状況です。その背景には男性不妊診療が自然妊娠を目指すものであるだけに体外受精施設の利益に反するものであること、日本では男性不妊治療は単独では収益に乏しく採算性に乏しいという現実があります。これでは男性不妊診療は泌尿器科医にとってはなかなかやる気が出ないということになってしまいます。来る10月1日に男性不妊専門医として高名な米国のTurek教授が仙台で講演をされます。Turek教授のところで治療を受けた男性の65%で自然妊娠が達成され、体外受精が必要になったケースは13%と国際学会で少し前に発表されました。その理由は明瞭で、Turek 教授の治療ではあらゆる男性因子を除去するため、カウンセリング、サプリメント、ホルモン療法、手術療法など実施されます。適切な治療方針に至るにはまずは詳細な問診、診察、検査が必要で、Turek教授の診察を受けるには初診料のみで約10万円です。つまりこれくらい男性には本気になってもらう必要があるのです。いつか女性だけが辛い思いをする不妊治療が変革される時代が日本でも到来することを願って止みません。