宿舎の駐車場についてやっと恋人から来た返信は、実家にいるから今日は会えないというつれない返事だった。

「…実家に平日は帰らないだろ?」

地球の裏側から帰って来たばかりで、韓国に着いて早々にキュヒョナに何度連絡をしても面白いようにスルーされた。

いや、全然面白くなんかないが。

出発前に少しキュヒョナを怒らせてしまったのはわかっていた。

そんな事はよくある事で、大抵は時間が経てばキュヒョナはちゃんと自分で自分を立て直して来てくれるし、いつまでもグチグチ怒っているわけでもない。

今年またあっちに行くならキュヒョナが帰って来てからのSS8だと思い込んでいたせいで、必要以上にその話に触れてしまったのが返っていけなかった。

こういう時は1日でも早く直接会って抱きしめるのが1番効果的に仲直りする方法でもある。

明日からのスケジュールがドラマの撮影でまた詰まっているのは紛れもない事実で、だから今日一目でも会いたかったし仲直りしたいのが本音だった。

でも何となく部屋にいるんじゃないかという変な確信があったから、行ってみて本当にいなければこのお土産を置いて帰ろう、という結論に俺の中で至った。

その勘が当たっていたのは嬉しかったけど、悪い方で当たってしまっていたんだ。



「…キュヒョナ?こんな所で寝たらダメだろう?」

ソファにうつ伏せでクッションに埋もれているキュヒョナに声をかけると、ほとんどなんの反応もなかった。

やっぱりいたんじゃないかという少しの苛立ちと、嘘をつかれた事への不信感にため息をつきながら身体に触れると。

思ったよりずっと熱かった。

「……キュヒョナ?どうした…?」

抱き起こして身体を支えると力無くぐったりしていて、軽くパニックになりそうな自分を落ち着かせようと周りを見渡した。

テーブルの上に置いてある体温計に気がついて手に取ると、履歴を見て少しほっと息を吐く。

熱があるのか…風邪か?

表示は37.8℃で、でもキュヒョナの身体の熱さはそんなものじゃないような気がして、脇に手を入れて体温計を挟める。

いつもみたいに身体に触れても嫌がらないのがほとんど意識がない証拠で、こんなに具合が悪いのなら何故俺を呼ばないんだと眉間に皺を寄せる。

1人でどうするつもりだったんだ?
俺に頼るのがそんなに嫌だったか?
いや違う…こういう時はそうじゃない。

きっと俺に風邪を移したくなかったんだろ?

思わずおでこにキスをして呟いた。

「俺が来たからもう大丈夫だからな…」

倒れたのが昨日でも明日でもなく今日であった事に神様に少し感謝した。

体温計の表示は39℃を越えていて、キュヒョナは熱を出すと割と高熱になってしまう子供みたいな体質である事を思い出す。

抱き上げて寝室まで連れて行き、起こさないようにとゆっくりと寝かせた。

さっきから俺が抱き上げても何してもほとんど起きなかったキュヒョナの目が少し開いて、何故か俺の掌に手を伸ばして子供みたいに手を繋いだ。

「起きたか?苦しいか?キュヒョナ」

キュヒョナは何か言おうとしたけど、うまく聞き取れずすぐにまた寝入ってしまって、動けないから仕方なくその手を剥がして布団にしまう。

全然起きない所を見ると、きっとしばらく眠れてないんじゃないか?
目の下のクマが酷い。

赤くなった頰にひとつキスをして、急いで頭を冷やす為のものを取りにキッチンに行き、リョウガに電話をかけて来てくれるように頼んだ。




「わぁ、何?その腰に巻きついてる生き物…なんでそんなになっちゃったの?シウォニヒョン」

俺は結局寝ぼけて俺の腰に抱きついて動かなくなってしまったキュヒョナを引き剥がす事も出来ずにいる所にリョウガが入って来て苦笑いした。

明日の朝早くからの撮影がありどうしても朝までいてあげられない俺は、リョウガに代わってもらうしかない。

「やっと寒くはなくなったみたいで汗もかいてきたから着替えさせたから…朝までこのまま寝てくれるとは思う」

引き剥がそうとすると少し抵抗して、いつもと反対みたいで可愛くてこのままずっと側にいたかったけど。

とにかくすごく機密性の高そうなマスクをしてるリョウガは、僕だって仕事あるんだけどね、と文句を言いながらも代わってくれた。

「…知ってる?ヒョン。あっちにいる間酔っ払って毎晩僕に電話して来たんだよ、キュヒョニ」

そうなのか?気がつかなかったけど…あ、時差が12時間あるからな。

「喧嘩してたんでしょ?だってほぼシウォニヒョンの文句ばっかりだったもん。夜眠れないって言ってたし、1人できっと寂しかったんだよね…」

いつも意地っ張りで俺には頼ってくれないけど、リョウガは本当にキュヒョナにとってかけがえのない存在なんだな。

「……ヒョン」

起きないけど何度かヒョンと呼ぶ恋人に、本当に俺だとわかっているのか怪しいなと心の中で呟いた。
お前にはヒョンはたくさんいるから。

名残惜しいけど手を離そうと優しく手に触れると、少し悲しそうな顔をしてキュヒョナが何か言ったので、ん?と耳を近づけてみる。

「……シウォナぁ…」

少し苦しそうに息をするキュヒョナの頰をそっと撫でて、キスしたい衝動にかられる。

それは反則だろう?
だってキュヒョナがその呼び方するのは…身体を繋げてる時だけじゃないか。

「ちょっと。なんでそんなに顔赤くしてんの?キモいよひょん…。
ぎゅぎゅがシウォニヒョンに移したんじゃないかって気にするから、マスクしてた事にしてあげるからね」

そう言いながらキッチンにわざと立ってくれたから、キュヒョナの唇にそっと触れて髪を撫でる。

移るからほどほどにしといた方がいいよ?っていうリョウガの声は聞こえない振りをして、ただ時間が許す限り可愛い顔を眺めていた。








キュヒョナは素直じゃなくて、きっと結構面倒くさい。

でも俺の常識を全てひっくり返しても、誰よりも大事だと思ったからお前に踏み込んだ。

本当に俺を選んで良かったのか?という迷いを感じさせないのは、きっとキュヒョナだからだ。

やっと目が覚めて来た現場で恋人からのメールを開いて笑いが零れた。

…ああ、これはきっと今日は雪が降るな。

滅多に送って来ない言葉に心がじんわり暖かくなった。

言い慣れた言葉だけど伝わればいい。
送信した後明るくなって来た空を見上げて口に出して呟いた。


「俺も愛してるよ…」


















end.































おはようございます、奏(かなで)です。

寒いですね。
ぎゅったんは風邪引いてないかな…?
あ、ぎゅったんはいびきかくんでしたっけ。

シウォンさんはありのままのぎゅぎゅを好きでいてくれるって事で。←まとめた


シウォンさんは風邪移らなそう(笑)←偏見







読んでくださってありがとうございます!



※画像お借りしました。