「だから大丈夫だから…」
もう何度目かわからない。
何度手を押し返してもヒョンはその手を止めない。
俺がよろけようものなら瞬時に抱えられてしまう。
仲直りしたのかどうかもわからない。
だいたい仲たがいしていたのかもわからない。
とにかく、ヒョンは俺にしたことで俺に負い目を感じてるわけで
俺は別にそれを求めてはいない。
心も体も痛まないわけではないけど
あまりにも過剰反応されると、反対に自分が悪いのではと思ってしまう。
ヒョンが片時も離れない。
しまいにはトイレにまでついてこようとするので
さすがにそれには怒って見せた。
『本当に大丈夫か?もう、行くのやめよう。』
ヒョンがまた同じことを繰り返す。
「だから大丈夫だっ…あっ」
『危ない!』
俺は足がもつれて前のめりに倒れるところを
ヒョンがとっさに腕をつかんで支えてくれた。
大丈夫だといってるけど、実際そうじゃないらしい。
ちゃんと足を上げて歩いているつもりなのに
つま先が引っかかり倒れそうになるから多分ダメなのかも。
でも…
「行かなかったらユジンに殺される。」
俺はそう言って俺の腕を掴むヒョンの手をまた押し返した。
靴を履き玄関の取っ手に手をかけたところで
ふと思いついたことがあった。
「ヒョン、先行って車回してて。ちょっとトイレ。玄関横づけでお願い。」
『え?あぁ。わかった。あっ、でも大丈夫か?』
「大丈夫だってば。お願いだから、車。じゃないとタクシー呼ぶよ。」
『あ、あぁわかった。気を付けてくるんだぞ。』
わかったからと言ってヒョンを先に送りだして
俺は書斎へと向かった。
☆
「うわぁ~すごい人だねぇ~。本当に僕ここにいていいの?」
「何言ってんだよ。お前ここの院長の子だろ?
この際ここでバーン!とみんなに公表しちゃったりしたらどうだ?」
「ちょっと。冗談は顔だけにしてくれてる?」
「あっ、それひどくないか?このイケメンの顔のどこが冗談なんだよ。」
「ヒョク。いつから世の中のイケメンの定義が変わったの?
え?昨日から?それとも今日から?」
「言ったな~こいつ!!」
病院について会場に向かうとヒョクとウギがなんだか
楽しそうにじゃれあって…いた。
「あっ、キュヒョン。遅かったな。来ないかと思ってヒヤヒヤしたぞ。」
「ほんとだよぉ~。ユジンさんのこっわーい顔が浮かんじゃったよ。」
そういうとリョウクが両手で目を吊り上げておどけて見せた。
それをみてヒョクが”そっくりだ~”と指差し笑う。。
「あら。リョウクさん。それ。誰の真似かしら?」
凛とした声がした。
笑っていたみんなが一瞬シーンとして声のする方を見た。
そこにはユジンとシンドンそしてダニエルさんが立っていた。
「あっ、えっと、その…こんにちはユジンさん。今日もきれい!!」
リョウクがそう言いながらユジンにピトッと抱きついた。
「お、おい、リョウク!」
イェソン先生が慌ててリョウクを引き離すと
みんなが庇おうと言い訳を口ぐちにした。
険しい顔をしたユジンがリョウクの前に立った。
みんなが息をのんだ。
するとユジンは
「リョウクちゃん…後でケーキの差し入れよろしくね。」
そういってリョウクを優しくハグした。
「え?なんだよ~ユジン姉ちゃんはリョウクに甘いよなぁ~」
ヒョクが思わずうらやましがると
「あら。あなたもじゅーぶんかわいいわよ。」
と言いながらヒョクの頬をギュ~とつねり、
その頬をペシペシと2~3回たたいた。
「ねぇ、これってかわいいってこと?なにこの扱い。
違う気がするんだけど…」
ヒョクが膨れながらそういうとユジンが朗らかに笑った。
「キュヒョン。あなた…大丈夫?」
黙って傍観していたところで突然ユジンにそう聞かれて
ちょっとあたふたした。
「え?うん大丈夫だけど…」
俺はなるべくユジンの目を見ないようにしながら答えた。
「キュヒョン…」
ユジンが俺を見てスッと目を細めた。
一瞬の緊張感の中”ユジンそろそろ…”とシンドンが声をかけた。
ユジンは俺を一瞬ギュッとハグした。
「大丈夫よ。大丈夫…」
ユジンがそう言って俺を見る。
「え…あの…えっと…」
何を持って何を大丈夫と言ってるのかがわからない。
俺はユジンにハグをされて戸惑った。
みんなが俺たちを見つめる中、
俺はヒョンとダニエルさんを交互に見つめるしかなかった。
そして。
何がどうであろうと個人的な事情ってやつはさて置き
大きな波が動きだした。