ダニエルは点滴を受けながらベッドの上で仕事をしていた。
もろもろの騒動により、予定より滞在時間が長引いているため
PCを持ってこさせどうしても対応しなくてはならない事案に目を通していた。
ブゥブゥブゥブゥブゥ…
微かに聞こえる音。
ダニエルは手を止め耳を傾ける。
…やっぱり鳴ってる
最初は備え付けの冷蔵庫のモーター音だと思っていた。
しかし違うと分かって今度は何か他の機械関係の
モーター音なのかと考えた。
要は仕事に集中していたのでそのままにしておいた。
そして今。
いったん仕事の区切りがついた所改めて耳にする音。
電話?
ふとその音の正体が頭に浮かんだ。
が、自分のスマホはいまここ、自分の手元にある。
…???
ダニエルは顎に手を当て首をかしげた。
そしてベットから両足をおろし、足元にきちんと並べられた
スリッパに足を滑り込ませた。
そしてキュヒョンの代わりに現れ、あっという間に
部屋中きれいに整え、スリッパもきちんと整えて帰って行った
リョウクという看護師を思い出し、頬が緩んだ。
そういえばキュヒョンの傷は大丈夫だろうか…
いったん止まった音がまた鳴った。
耳を澄まし、その音を目指して部屋の中を移動した。
…ここか?
ベットの上で聞くより大きく聞こえた場所は収納棚だった。
腕を組み顎に手をあてふむふむとしばらく考えた。
そしてドアノブに扉を開けると音がますますはっきり聞こえた。
収納棚の左の棚にきれいにリネン類が並べられていた。
どうやらその音はその場所から出ているらしい。
手を伸ばし、順番に覘いていくと5枚目に来たところで
その音の正体が姿を現した。
それは一台のiphoneだった。
そっと覗き込みしばらく見ているとまたなり始めた。
そして止まる。
そしてまた鳴り出す。
きっと無くした持ち主が誰か親切な拾い主が
出てくれるんじゃないかと思って鳴らしているんだろう。
手に取り着信表示を見た。
…シウォン?
ダニエルはiphoneを手に取りそれを眺めながら首を傾げた。
不意にそれは動きを止め、そしてまた震えだした。
…そうか。これはシウォンのものなのか。
ダニエルはシウォンがさぞ困っているだろうと思い
着信のボタンに触れた。
「もしもし?」
電話の向こうの相手はやはりシウォンだった。
「もしもし。シウォンか?え?もしもし?何?
キュヒョン?いや、ダニエルだが…」
電話の向こうのシウォンが何かを捲し立てている。
相当焦ってるようだ。
「キュヒョンくん?え?キュヒョンくん…?」
なんでここでキュヒョンくんの名前が出てくるんだ?
せっかくこれを見つけてやったのに。
…どういうことなんだ?
ダニエルは手にしたiphoneをまじまじと見つめた。
そしてほんの少しのいたずら心がムクムクと頭をもたげ…
「キュヒョンくんならここで寝てるが…何か?」
込み上げる笑いを必死で我慢しながらそう答えた。
そしてそれが冗談たと告げようとしたが
シウォンの声がしなくなった。
そうこうしているうちに電話が切れた。
こちらから掛け直してやろうかとみてみると、
着信とSNSの数がハンパじゃなく、驚いた。
…なんだ?おいおい、いったいこれは
バンッ!!
いきなりVIP 室の前がにぎやかになったかと思うと
ドアが乱暴に開いた。
『キュヒョン!どこだキュヒョン!!』
シウォンの声がしたと思ったらツカツカとこちらに向かってきた。
ダニエルは首だけそちらに向け
「おっ、シウォン。よかった今掛け直そうかと…これなんだが…」
と言ってiphoneを渡そうとした途端肩を掴まれ揺さぶられた。
iphoneが手から滑り落ち床を滑って行った。
『キュヒョンは?キュヒョンはどこにいるんだ!』
そうシウォンが言っているがえっと、それは冗談で…
実際キュヒョンがどこにいるかなんてダニエルは知らなかった。
「先生!!よせよ!落ち着けって!!」
追いかけてきたらしいウニョクがシウォンを止めたが
シウォンの耳には入っていないようで…
「ちょ、ちょっと待て。おい。あ、危ない!!」
”うぉぉぉぉぉ!!”と奇声を発したシウォンが
ダニエルに掴みかかりそのまま点滴台ごと
床に押し倒して馬乗りになった。
「おい、シウォン待てって。おい!シウォン!おい!!」
ウニョクの後からなだれ込んできた他の面々が
シウォンをダニエルから引き離した。
シウォンは二人に腕を押さえられソファーに座らされていた。
「いったいどういうことなんだ。これは。」
状況が把握できないままダニエルは半身を起こし、
首の後ろに手を当てぐるりと首を回し肩を竦めた。
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えっと、②回に分けた。
( ̄^ ̄)ゞ