帰宅して玄関のドアを開けた時に
何かが違うと五感で感じた。
『キュヒョン!キュヒョン!どこだ!』
そう。
いつも感じる気配がない。
『キュヒョンどこにいる?!』
俺は部屋をひとつひとつまわってキュヒョンの姿を探した。
キュヒョンが実家だと称する書斎も見て回った。
しかしその場にもキュヒョンはいなかった。
そして、もう一度電話を掛ける。
虚しく呼び続けるコール。
メール。
カトク。
LINE…
ありとあらゆる呼びかけにも反応がない。
『くそっ!…いったいどこに…キュヒョン!!どこだ!!』
ブゥブゥブゥ
いきない手の中のiphoneが揺れた。
『もしもし!キュヒョンか?』
着信の相手がだれか確かめる間もなく電話に叫ぶ。
「もしもし、あ、先生俺だけど…」
『なんだ、ウニョクか…』
「ねぇ、もう家?それで?キュヒョンいた?」
電話の向こうでウニョクが捲し立てる。
『い、いや…ちょっと待ってくれまだ見てないところが…」
クローゼットに足を踏み入れて愕然とした。
耳に当てたiphoneが手から滑り落ちた。
『うわぁぁぁぁっ!!なんだよこれ!』
俺はありったけの声を張り上げて頭を抱えた。
「ちょ、ちょっと先生?ねぇ先生?
大丈夫?どうしたんだよ?もしもし?もしもーし」
床に転がったiphoneからウニョクの声が響いてた。
☆
「で?本当に出て行っちまったのか?あいつ。」
「うん。俺もびっくりした。何事か合ったのかと思って
駆けつけたら、あいつのもんかなりなくなってた。」
「で、この始末か。」
「うん。使い物にならに先生とにかくここまで引っ張ってきた。」
「連絡つかないの?」
「そうなんだよドンヘ先生。コールはしてるんだけど
全然でなくて…あぁやって先生がずーっとかけ続けてる。」
ウニョクはひたすらキュヒョンに電話をかけ続けている
シウォンを指さした。
シウォンは何やらブツブツといいながら
大股で部屋を行ったりきたりしている。
「あいつのいとこんとこにも言ってないのか?
あのホテルに。」
ヒチョルがチョウミのホテルの事をきいた。
「うん。俺もどうせあそこだろうと思ってチョウミに連絡したら
来てないって。何かあったのかってしつこく聞かれたけど
こんなこと言えない。もしわかったら厄介ごとの種が増えるだけだし。」
「あぁ。そうだな。あのチョウミってやつまでこの状況に
入り込んで来たらそれこそ…」
ヒチョルはチラリとシウォンをみた。
「で、何が原因なんだよ。
今までだっていつも痴話げんかしてただろ?
何に今回に限ってなんであいつが出てったんだよ。」
ヒチョルがウニョクに聞くがウニョクは言葉を濁し答えない。
シウォンは周りの雑音をよそにただひたすらコールを続けている。
イトゥクがそのシウォンの側によりiphoneを取り上げた。
『えっ。トゥギ返してくれ。』
「とにかく落ち着けって。一体お前何やらかしたんだよ。」
『…別に。ただの行き違い…とにかく返してくれ。』
「お前、ただの行き違いって言ったって…
今までそんなの腐るほどあっただろうが。」
『返してくれ。』
シウォンがイトゥクに掴みかかる勢いで立ち上がる。
「ちょちょちょ…落ち着けって。とにかく理由を教えろって!
じゃなきゃ探しようがない。」
「お前、絶対なんかしたろ。」
ヒチョルがポケットンに手をつっこんだまま
ツカツカと近づきシウォンの脛に蹴りを入れた。
『いてっ!レラ!なにするんだ。』
シウォンは片足でけんけんしながら蹴られた左の脛を抑えた。
「早く言えってんだよ!!」
ヒチョルが声を荒げる。
「ちょっと、レラ落ち着いて…」
ドンヘが慌てて間にはいる。
シウォンさんはその部屋にいるみんなをぐるりと見回し
観念仕方のように吶々と話し始めた。
☆
「お前、マジでそんなこと言ったのか?あいつに?」
「嘘だろ?」
「ひっでー」
「お前マジであほか?」
俺はソファーの背に頭を落とし、天を仰ぐ。
「指輪投げ捨てた???」
「見つかんないってマジかよ。」
「どうすんだよ。」
「ほんとなのかそれ」
目の前の皆が頭を抱えうな垂れる俺を一斉に攻め立てた。
あぁ、わかってるさ。
俺がどんだけあいつにひどいことしたかって。
今ならわかる。
でもあの時は…
しょうがないじゃないか!!
…俺がダニエルさんと寝たことなんてなかったの
一番よく知ってるの…ヒョンだよね
キュヒョンのあの一言でいっぺんに目が覚めた。
でもその時はもう遅く…
大きく開けた窓から指輪を放ってキュヒョンは消えた。
俺の前から消えた。
いや、みんなの前から消えた。
「ダメだ。俺のにも出ないよ。」
ヒョクがそう言って頭を振った。
自宅に戻って目にしたのはスカスカにあいたクローゼットだった。
他にもキュヒョンのお気に入りの数々の品がなくなっていた。
書斎にでもこもっているのかと思ったら
そこにもキュヒョンの姿はなかった。
そしてご丁寧にも歯ブラシまでなくなっていた。
慌てて電話をかけても虚しくコールが続くだけで出ない。
一切連絡が取れなくなってしまった。
今もこうして呼び続けているが一向につながらない。
俺は気が狂いそうだった。
いや、いっそ狂ったほうが楽かもしれないと思う。
トントン
ガチャッ
「ねぇ~どういうこと?キュヒョンがいなくなったってなに?」
息を切らしたリョウクが顔を青くしてやってきた。
そしてその後にイェソンが続いて入ってきた。
…あぁ、どうしてこう、どいつもこいつもみんな…
俺は思わずため息をついてレラに頭を小突かれた。
「ねぇ、どうしたの?何があったの?」
ウニョクにそう聞くと今の状況をウニョクが
俺の方をチラチラと見ながらリョウクに伝えた。
「えぇ~???それホントなの???
ひどい!それひどいよ!」
そう言いながらリョウクがスッと俺の前に立った。
「ねぇ、先生。本当なの?本当にキュヒョンにそんなこと言ったの?」
リョウクのくりくりとした目が俺を真っ直ぐ見据え質問された。
『あぁ…でもそ…』
パチン
リョウクが俺の頬をとらえた。
一瞬部屋の中が静まり返りみんながリョウクを見た。
「ひどいよ…先生ひどいよ。」
そう言ってポロポロ涙をこぼし始めた。
『お、おいリョウク…え、あ、えっと…その』
「キュヒョンは先生の事しか見てないのに。
先生しかいないのに。なのに…」
『だからリョウク、そ…』
バチーン
より一層大きな音が響いた。
リョウクがもう一度放ったパンチに近いビンタはよく効いた。
俺は目を大きく見開き、ジンジンする頬を抑えた。
「おい、ちょっとリョウク、ちょっと待て。」
「はいはいはいはいはい…わかったからリョウク、わかったから」
「いや、もっとやってやれ!」
「ちょっとレラ先生、煽んないでよ!」
そう言って皆でリョウクを止めてくれたが
”やだ!離してよ!!”とリョウクは言いながら
最後に思いっきり俺の足を踏見つけた。
リョウクが女で、ヒールを履いてないだけよかった。
「リョウガ!!やめなさい。」
最後にイェソンがそう呼ぶとリョウクはイェソンに抱きつき
俺の事を怒りながら泣いていた。
「とにかく、この俺でさえどこにいったかわから…
あっ、ちょっと待って…」
そう言ってヒョクがどこかへ電話を掛けはじめた。
俺はトゥギからiphoneを奪い返し、急いでキュヒョンへリダイアルしたが
やはり出なかった。
『クソッ!』
思わずぼやく。
せめて一瞬声だけでも聴ければ…
「キュヒョン、ショックで電車に飛び込んじゃうとか
ビルから飛び降りちゃうとか、あっ、誰かほかの人のところに
行っちゃったりとかないよね?ねぇ、ジョンウンさん大丈夫だよね?」
リョウクの声が俺の耳にも届く。
なんだと?誰かほかのやつのところだと?
意識したわけではないが頭にダニエルが浮かんだ。
…くそっ!まさかそれは
リダイアルしてiphoneの待受けを見つめる。
すると不意に画面が変わった。
『もしもし!キュヒョン。もしもし?もしもしキュヒョン?』
慌てて耳に当て叫ぶ。
皆が一斉に俺を見ているのを全身で感じた。
少しの沈黙の後、電話口の向こうから聞こえたのは
俺を揺るがすあいつの声だった。
『ダニエルか…?』
声を絞り出す。
『そこにいるのか?』
ダニエルの腕に抱かれるキュヒョンが浮かぶ。
『キュヒョンはそこにいるのか?』
返事を聞く余裕なんてない。
キュヒョンにダイヤルし続けたら答えたのはダニエルだった。
気が付いた時には部屋を飛出していた。
「おい!止めろ!あいつを止めろ!!」
ヒチョルの声が部屋に響いていた。