「おい!キュヒョン。聞いてるのか?」
ヒチョル先生に声を掛けられた。
「あっ、えぇ…あの、えっと、聞いてますよ。聞いてる…」
そう答えたけど本当はヒチョル先生の声なんて何も聞こえてなかった。
俺はヒチョル先生越しに見えるヒョンとイェソン先生と一緒にいる
ヘンリーと名乗ったやつのことが気になって目がどうしても
そちらに向いてしまう。
その原因は…
ヒョンがあのヘンリーって子に向ける笑顔のせいだった。
ヒョクやリョウクに向ける笑顔はいいんだ。
ヒョクもリョウクも俺がよーく知ってるやつらだし
ヒョクにもリョウクにも恋人がいて
それは俺もよーく知ってるんで。
でも、あの子は違う。
俺が全く知らない子に俺のヒョンが笑顔を向けてる…
それもとびっきりの笑顔を。
…あっ、頭撫でた。うっそ…
パコンッ!!
「いてっ!」
ヒチョル先生に叩かれた。
「おい、キュヒョン。やっぱお前聞いてないな?」
「えっ、あの…だって…」
…え?うっそ…ハグ…?
「あいつのこと、気になるんだろ?だったら俺の話を…
あっ、おい!どうした?待てって!!」
「キュヒョン!」
「ギュギュ~」
「あ~あまた…」
「あぁ~」
考える暇なんてなかった。
気が付いたら体が動いてた。
「ちょっとヒョンいい?」
『おぉ。話し聞いたか?』
「話し?なんの?それよりちょっときて」
『え?聞いてないのか?ヒチョル何やってんだ?
あのな。このヘンリ…って、イテっ!
なんだよ。どうしたんだよ!!」
俺はヘンリーとやらのことを話そうとするヒョンの脛を蹴とばした。
ヒョンは脛を抱えて片足でピョンピョン跳ねた。
側に立っていたヘンリーがびっくりしてヒョンに駆け寄って
倒れないようにってことなんだろうけど、ヒョンを支えた。
それを見てまたイラッとした。
「これどういうこと?なんなのこれ。さっきまでお前しかいないとか
レーダーがなんちゃらかんちゃら言ってたのに。
なにこれ。」
『え?キュヒョン?』
「ねぇ、どうなってるの?
なんでこの子がヒョンにハグしてるの?」
俺はヘンリーを指で差しヒョンをにらんだ。
「ねぇ、ちょっと落ち着こうか…」
イェソン先生が横から口を出してきたが俺はそれを無視して
ヒョンに詰め寄った。
『そうだよ、キュヒョン。なんだよいったい。どうしたって言うんだ?』
「どうしただって?自分の胸に手を当てて…うわっ!なに?!」
「kyuhyun!!Hi! I'm Henry. 」
ヘンリーって子がそう言って突然俺に抱きついた。
そしてびっくりした俺はものすごーく情けない叫び声をあげてしまった。
結局俺が大騒ぎをしてしまったので
事の真相がわかるまでに余計に時間がかかってしまった。
ヒョンとヘンリーの間に座らされ、しばらく黙ってるよう釘をさされた。
ヘンリーはヒョンが行っていた派遣地に他からきていた
協力隊のメンバーの一人だった。
そして今は
カンイン先生の恋人だって聞かされた。
先生たちは知っていたようで
俺とヒョクとリョウクは本当に驚いた。
…じゃぁ、ヒョンに馴れ馴れしくしてるのはなんなんだ?
俺は眉をひそめ考えたがすぐに理由がわかった。
他のチームのメンバーと行動することも多々あり、
ヘンリーとも一緒に過ごすことが増えていく中、
語学が堪能なヒョンがなんとなく面倒を見なくてはならなかったらしい。
…それでヒョンに懐いたんだな。
俺は膝の上で拳をギュッと握った。
たまたまカンイン先生と組んでいた看護師が体調を崩し、
誰についてもらおうかと少ない人材の中でやりくりを考えていたところ、
快くヘンリーを貸してもらえたのでそのままカンイン先生のシフトに加わって。
最初の頃はギクシャクしていたカンイン先生と
ヘンリーはいつしか意気投合したらしく、
カンイン先生の世話を焼くヘンリーを弟みたいだと可愛がったらしい。
それが、どこでどう間違ったのか
女好きで名をはせているカンイン先生がヘンリーにオチたんだって。
…なんだよ…それ早く言ってよ。
てっきりヒョンと何かあったんじゃないかと…
そしてそうこうするうちに、ある夜、それは起こったらしく…
ふたりで夜遅くまで酒盛りしていた勢いで
カンイン先生はヘンリーに手をだしてしまったって…
「え?だって、カンイン先生奥さんが…」
俺が思わず声を上げると一斉にみんなが黙ってろって。
…はいはい、わかりましたよ。
朝起きたら裸でヘンリー抱きしめていたらしい。
しかもどうみても事後な状況だったと…
で、
カンイン先生はパニックを起こし、ヒョンに助けを求めて…
今に至ると…
「え?じゃあ、こいつを連れてきちゃったの?カンイン先生。」
ヒョクがびっくりして聞くと
『あぁ。あの突然の帰国騒ぎでしばらく連絡が取れなくて
心配してたんだけど、ヘンリーも無事自国に辿りついて…
結局こうなった。』
「へぇ~あのカンイン先生が…ふふふ」
リョウクがちょっと顔を赤らめながら笑った。
「で、カンイン先生は?俺たちなんで呼ばれたの?」
「カンインは今、別室で嫁さんと話をしてる。」
トゥギ先生がため息交じりに笑った。
「うわぁ~、それって…」
「今の奥さん、確か学部長の…娘さんだったよね?」
ドンへ先生がみんなに聞いた。
「あぁ、そうだ。でも親に押し切られた感じで半ば政略に近い
結婚だったから元々別居中だ。」
トゥギ先生が補足した。
「なんか…すごい話だね…で、俺らは?」
ヒョクが聞くと
『あぁ。実は3人にはヘンリーの面倒をしばらく見てやってほしいんだ。』
とヒョンが答えた。
『うちの病院で看護助手として働くことになったんだ。』
そう言った。
「え?」
「え?」
「え?」
「そんな目ん玉ひん剥いて驚くなって。」
ヒチョル先生が大笑いした。
『しばらくこのホテルにいることになったんだ。
チョウミにも話は通ってるし、心配はないと思うけが
慣れない土地での生活だ。助けてやってくれ。』
…ふ~ん
「了解!!まかしといて!」
ヒョクは思わぬ展開にテンションが高くなって大張り切りで答えた。
でも俺はなんだかすっきりしなかった。
「どうした、キュヒョン。なに浮かない顔してんだよ。」
「え?だってさ、カンイン先生さぁ、仕事仲間のナースに
手を出したってことでしょ?しかもさぁ…男だし。」
「え?」
みんなが一斉に声を上げた。
「それってまずいんじゃない?
俺カンイン先生好きだしショックだなぁ~って思って…」
「おい、ヒョク。こいつこれ、マジで言ってんのか?」
ヒチョル先生が俺を指差しながらヒョクに聞いた。
「う~ん。おそらくマジ。」
とヒョクが答えた。
「なんだよ。それどういう意味だよ。」
「だって、お前がそれ言うか?」
「ギュギュ~それギュが言っちゃったら…あっはっは~」
ヒョクとリョウクが笑い出すとみんなも一斉に俺を笑った。
そしてヒョンが俺の頭をポンポンと撫で肩をすくめた。
…チェッ
なんだよみんなして…
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無理やりな二人を作ってしまった…
ポリポリ (・・*)ゞ