「ここでいい?」
「はい。ここで大丈夫です。」
そう言って後部座席のドアを開け、車を降りた。
リョウクが助手席の窓を開けて顔を出した。
その窓越しにちょっと機嫌がよろしくない
ジョンウン先生にもお礼を言った。
「いろいろありがとうございます。
リョウク、ありがとう。お粥、おいしかった。」
「よかった。また作ってあげるからね!」
「うん。頼むよ。ヒョンにも食べさせてやりたいから
今度また来て。先生いいですよね?」
「いや、ダメだ。
あいつにまたなにされるかわからないからな。」
「ちょっとジョンウンさん。やめてってば。
しつこいよ!
今度行くからね。ジョンウンさんも連れて。」
「うん。楽しみにしてる。」
俺とリョウクはハイタッチをして手を振りあった。
「おい、リョウク。本当にダメだぞ!」
「はいはい、わかったってば一緒に行けばいいじゃん。」
リョウクとジョンウン先生の痴話げんかが
続いてるみたいだったけど、
俺は無視してその場から離れ入り口に向かった。
患者さんや業者などが普段絶対使わない
医局へ直結の入り口、スラング用語で”天国へのドア”と
みんなが呼んでいる入り口の前に立ってカードを出した。
本当は俺たち看護師レベルではここからは
まず出入りできないセキュリティーになってるけど
俺とヒョクはヒョンとトゥギ先生からキーとパスコードをもらっていて
出入りできる。
でもあんまり目立ちたくないのは事実で…
人目を気にするのと、会いたさとで
ドアのロックを解除するのももどかしく俺は気が急いでいた。
とにかくヒョンに会いたい。
会って言いたいことがある。
カードリーラーにカードを通して暗証番号を押す手元が
焦っていたせいか間違えて拒否された。
イラつきながらもう一度やってもエラーになってしまった。
そして舌打ちをしながらもう一度やってみた。
エラー音が響き拒否された。
…嘘だろおい!
”クソッ!”と悪態をつきながらもう一度やってみたが
3回間違えてしまったのでカード自体にロックがかかってしまった。
”頼むよ、おい…クソ!クソ!クソ!”
そうブツブツいいながらドアをたたいた。
「おい、キュヒョンか?何やってんだお前。」
「うわっ!!」
いきなり声をかけられてびっくりして思わず叫んだ。
ドアをたたいていた手を振り上げたままそっと振り向いた。
この声は…あぁ、やっぱり…
「こんにちは、ヒチョル先生。相変わらずお綺麗で…」
そこにはヒチョルが立っていた。
こちらを見据える眼光鋭く、口角をクッと上げ
ニヤリと笑って俺を見ていた。
子供が面白いおもちゃを見つけたときのそれに似ている。
「どうした。入れないのか?」
「はい。暗証番号間違えちゃって…」
「ふーん。」
ヒチョル先生がこちらに向かって来たのでドアの前からどいた。
カードを通して暗証番号を打ち込んで…
ドアはいとも簡単に開いた。
「ほら、行くぞ」
ヒチョル先生が首をクイッと曲げて俺に入るように言った。
「ありがとうございます…」
お礼を言ってヒチョル先生の後をついて医局棟の
エレベータに乗った。
「奴のとこか?」
「あ、えぇ。」
「ふーん。」
「あ、えっと、ヒチョル先生はこれから?」
「あぁ、ちょっと用で外出て帰ってきたところだ。」
「そうですか…」
そのまま二人黙ったままだった。
チンッ
ヒチョル先生の医局がある階でエレベーターが止まった。
ドアが開いた。
「ほら、降りるぞ。」
「え?でも、この階じゃ…」
「いいから。降りるぞ。」
お礼を言って別れようとしたときそうヒチョル先生に声をかけられ
降りないわけにもいかず、頭をかきながら先生の後に続いた。
「お前、だいぶ立ち直ったな。」
「え?」
「まぁ、よかった。奴もなんだか妙に元気だしな。」
「あの、言ってる意味が…」
「まぁ、入れや。」
ヒチョル先生がロックナンバー打ち込んだ。
「おそーい!!何してたんだよ!!」
ヒチョル先生が医局のドアを開けた途端、
先に入った先生に何かがいきなり抱きついた。
いや、何かがってそれがなんだかもちろんすぐわかったんだけど…
「お、おい。びっくりするじゃねーか。離れろって!!
どうした?!ERは?」
「俺、1時間休みもぎ取ったから。
もー俺、我慢できない。しよ!早くしよ!!」
そう言いながら俺のことなんか目に入らないドンへ先生が
いきなりヒチョル先生にキスをした。
俺はびっくりして呆然とそれを見ていた。
「…ん…んん…は…なせ…って、おい!ドンへ。
ちょっと落ち着けって!キュヒョンが…あっ、おい!下ろせって。」
ヒチョル先生が一旦ドンへ先生を突き飛ばして俺がいるって言おうとしたが
ドンへ先生はヒチョル先生を担ぎあげてソファーに下ろしたと思ったら
自分の着ている術着を脱ぎ捨て、ヒチョル先生の服を脱がし始めた。
「ドンへ、待てって。人が…キュヒョンが…」
「え?なに?1時間しかないから早くしないと…
俺、もうこんなだよ…」
ヒチョル先生の手を取り、ドンへ先生が自分の股間へその手を押し合てた。
ドンへ先生の手がヒチョル先生のズボンのベルトを外しにかかったところで
ヒチョル先生がドンへ先生の頭を一発はたいた。
「いたっ!!何すんだよ~、痛いじゃないか!!」
「ちょっと待てって言ってるだろ!!キュヒョンがびっくりして
そこで固まったままで動けなくなってるだろ!」
「え?あれ?キュヒョン!!どうしたの?え?もしかしてずっといた?」
「そーだよ!だから落ち着けって言っただろ!!お前は猿か!!」
「あぁ、ひどっ!猿ってひどくない?」
「猿が嫌ならお前はそれ以下だ!」
「もー、レラったら照れちゃって…キュヒョンならいいじゃん。
見られてると、きっとレラ、いつもよりもっときれいになるかも。」
「バッカ、お前…かわいいこと言ってくれるじゃね~か。」
真っ赤になったヒチョル先生がドンへ先生に抱きつき今度は
ヒチョル先生からキスをした。
…うわぁ~まじかぁ!!!
そんな二人の官能的なやり取りを見ていたら
腰のあたりがムズムズして体の中心に血液が集まり始め、
さすがにまずいと思ったが、やはり動けずにいた。
「おい!本当にそこでずっと見てる気か?
なんなら参加するか?!」
長いキスの後、やっと俺がいることを思い出したかのように
ドンへ先生の腕の中のヒチョル先生に声をかけられ
動けずにいた俺は飛び上がるほどびっくりしてフリーズから溶けた。
「あっ、い、いえ、遠慮しておきます!」
そう言って慌てて部屋を飛び出し、ドアを閉めて大きくため息をついた。
そして一刻も早く立ち去ろうと、エレベータに向かって歩きだした。
「あっ、キュヒョン!シウォンなら俺の代わりにERだよ!
俺と変わってくれて1時間そこにいるから。」
突然ドアが開き上半身裸のドンへ先生が顔を覗かせそう教えてくれた。
お礼を言おうとしたらヒチョル先生が突然出てきて
ドンへ先生の頭を抱えてキスをし、もう片方の手で
ドンへ先生の股間を掴みあげた。
そして俺のほうを見てニヤリと笑うとドアの向こうへ消えていった。
俺はそこから逃げ出すようにしてエレベーターに駆け込んで
一階のボタンを意味なく連打した。
…なんなんだよいったい。
キュヒョンは頭をブンブン振ってさっきの光景を
追い出そうとしたがあまりにも官能的な二人の行為に
躰がどんどん熱くなるのを止めることはできなかった。