…やっぱり少し重くなったし、丸くなったな
すっかり寝入ってしまったキュヒョンをベットへ運ぼうと抱き上げて
ちょっとよろけながらそんな事を思うと顔がほころんだ。
キュヒョンをそっとベットに降ろすとブランケットを
そっと掛け、髪を梳きながら額にキスを落とした。
どうやらキュヒョンを混乱させてしまったらしい…
キュヒョンが勘違いをしてしまったようで
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
俺はこんなにもキュヒョンに救われているというのに。
明日、目を覚ましたらちゃんと伝えなくては…
「お休みキュヒョン。いい夢を見てくれ…」
そう言いながらベットルームの電気を消し部屋を後にした。
……ん…んん……
…ョン?……ヒ…ヒョン?…
ふと目覚めたキュヒョンが、自分が一人でベットにいることに
気が付くまでにそう時間はかからなかった。
キュヒョンは体を起こし、膝を抱え額をつけてため息を付いた。
…ヒョンはいったいどうしちゃったんだろう…。
もどかしさに胸が苦しくなり、目頭が熱くなる。
涙がこぼれないように膝にギュッと顔を押しつけて気持ちが
落ち着くのを待った。
何でもない。
ただ疲れてるだけなんだ。
大丈夫。大丈夫。
そう自分に言い聞かせるが胸の奥に仕えたものが
消え去ることはなかった。
心臓が痛い…
キュヒョンは胸に手を当てその鼓動を感じていた。
ヒョンの事を思うだけでこんなに胸が苦しく、痛くなるなんて…
ヒョンはいったい俺に何をしたんだろう。
人を愛する素晴らしさを教えてくれたのはヒョンだった。
自分にはヒョンしかいないのに…
…苦しいよ…シウォナ…
キュヒョンはそうつぶやきながら、胸の前でこぶしをギュっと握った。
まだ酔いが残る頭でいくらそう考えても埒が明かず、
もう一つ大きなため息を付きベットから抜け出した。
『あぁ、うん、そうか…やはりまだわからないのか…
とにかくよろしく頼む。必ず見つけてくれ。』
シウォンは通話を終了しiphoneをデスクの上に置きため息を付いた。
キュヒョンをベットに寝かせたシウォンは書斎でPCに向かっていた。
つい、いつもキュヒョンが座って一緒に過しているソファーに視線をむけてしまい
今はいないんだったな…と苦笑いしながら頭を振る。
コンコン…
遠慮がちなノックが聞こえた後、ドアが静かに開き、
視線をやるとキュヒョンが狭い隙間から顔をのぞかせた。
「ヒョン…いい?」
そう言ってドアの隙間から書斎の中に頭だけ入れ首をかしげるキュヒョンの
かわいらしさに、思わず顔がほころぶ。
椅子を回転させドアから覗くキュヒョンの方を向き、
指をクイクイっとさせて入る様に合図した。
そして大きく手を広げ”おいで”というと
キュヒョンがしずしずと近づいてきて俺の前に立ち
ちょっと体を屈めて首に手を回し抱きついた。
その体を広げた手でしっかりギュッとしてやると
キュヒョンが”ふぅ~”と息を吐き、肩の上でいつもやる様に
顎をガクガクとさせてもどかしさを体で表現し伝えてくる。
髪を撫でながらしばらくそのままでいると
「…何してるの?」
そうキュヒョンが言葉を発した。
シウォンはそのままキュヒョンを膝の上に座らせ
PCの画面を指さした。
「あぁ…この前の…これ、その時のこと?」
『あぁ。そうだよ。財団から頼まれて、現状を報告するため
レポート書かなくちゃならないんだ。』
「ふ~ん。これ、現地の子たち?」
『そうだ。』
「こういう子たちいっぱいいるの?」
『あぁ…』
「可愛かった?」
『そうだな…子供はみんなかわいい。
どこの国でもどんな子でも。素晴らしい存在だ。
ただここの国の子たちは…』
そこまで話すとシウォンが黙ってしまった。
「…ごめん。余計な事聞いちゃった…」
キュヒョンは慌ててシウォンの膝から立ち上がろうとした。
しかしシウォンが腰に回した手に力を入れてそうさせなかった。
『本当にひどかったんだよ…』
「え?」
『想像していた以上にひどかったんだ。
…よく帰ってこれたと思う。』
淡々とシウォンが語り始めた。
「ヒョン…」
キュヒョンは首捻りシウォンの顔を見た。
その顔は眉間に皺をよせきびしい顔だった。
『毎日銃声が聞こえない日はなくていつもどこか遠くで争ってた。』
「そんなに危険なところへどうしていけたの…?」
『この写真の子達がいたのは親を失った子達が身を寄せていた
場所だった。そこは国連の介入もあって安全なはずだった。
安全を保障するという事で依頼があったんだ。
カンイン先生のお願いもあって受けた話だったが
実際出向いて行って、子供たちの置かれてる状況に驚いたよ。』
「そんなに?」
『あぁ。俺はな、家柄上いろんな協会の慈善事業の大使をやったり、
支援のパーティーなど必ず協力してきた。
でもあんなのは自分達のステータスと虚栄心の為の
ただの自己満足の世界だってつくづく思い知ったよ。』
「……でもそういう人もいないと…みんなにわからない」
『まぁ、そんなんだがな…』
シウォンはそう言って黙ってしまった。
「…えっと、じゃましちゃ悪いから、俺はベットに戻ろうか…」
キュヒョンはそう言いながらシウォンの膝から立ち上がったが
シウォンに手を引っ張られ、くるりと体が反転したかと思うと
そのままギュッと抱きしめられた。
『キュヒョン。
俺はお前にもう一度絶対会うんだ。そう思って帰ってきた。』
「ヒョン…」
『いきなり情勢が変わったんだ。誰もが予想してなかった。
ある男の子が飛び込んできて、いますぐ逃げろと…
とにかく俺達はすべてを置いてその子の後を追って
そこから脱出して…あの子がいなかったら俺たちは…』
「その子はどうしたの?」
『わからないんだ…
ツテを辿って現地のスタッフに連絡を取ってみたんだが
行方不明のまま消息がつかめてない。
一緒に来るよう言ったんだが小さな弟や妹を置いていけないと言って
走り去っていく姿を見たのが最後だった。』
「そうだったんだ…」
『医者になりたいって言ってた…』
シウォンはキュヒョンの胸に額をつけて大きく息を吐いた。
『こっちに無事ついて、キュヒョン、お前の顔がとにかく見たくて
とにかく家に戻ったら…お前はいなかった。』
「あぁ…えっと…」
『携帯も充電が切れたままで使えないし、とにかく思いつくところが
いつもの店とあのホテルだった。』
「えっと、よく、おわかりで…」
『そこはね、キュヒョンレーダーがついてるから…』
「なんだよそれ。」
『どこにいてもキュヒョンを見つけられる。』
シウォンがキュヒョンの顔を見上げ片眉を上げ静かに笑った。
「こわっ…」
『やっと見つけたお前は本当にいつもと変わらなかった。
いつもと変わらない姿をみてやっと実感が湧いた。
俺のすべてがここにあるって。
すべてがすっ飛んだ。
そんなお前に声を掛けると俺を幻だと言って…
泣いたり笑ったり…』
「いや、あれは、その…なんていうか…覚えてないんで」
キュヒョンが恥ずかしそうに頬を染める。
シウォンはゆっくり立ち上がり、今度がキュヒョンを見下ろし
キュヒョンはシウォンを見上げた。
しばらく見つめあった後、
「キュヒョン。
俺はキュヒョンに救われてるんだ。」
シウォンはそう言いながら、
そっとキュヒョンにくちづけた。
唇と唇がそっと触れ合い、
それはそれは優しいキスだった。
キュヒョンの手はシウォンの背中に回り、シャツをギュッと握りしめた。
キュヒョンはシウォンの思いを
全身に感じながら、
自分の気持ちも伝えたかったが、
どう表現していいかわからなかった。
シウォンへの溢れんばかりの思いで
胸が痛かった。
優しく長いキスの後、
自分を愛おしそうに見つめるシウォンに向かって
「ヒョン。俺のとことに帰ってきてくれてありがとう…」
そう言うのが精一杯だった。
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間が空いてしまいました(;´▽`A``
もうちょっとだけ、
お付き合いくださいませ
ペコリ(o_ _)o))