「おい!おい!シウォン!」
みんなにからかわれながらシウォンはここ数日間を思い出していて
気を取られていたので不意に呼ばれてびっくりした。
「キュヒョンが呼んでるぞ!」
ヒチョルに腕をパンパンと叩かれ、え?っと顔を上げるとキュヒョンが目の前に立っていた。
「あの。シウォン先生・・・話があるんだけど・・・」
『え・・?え?な、何?』
キュヒョンに突然声を掛けられ慌てて返事をしたシウォンの声は上ずっていた。
「ちょっと大丈夫?」
『あ、あぁ。えっと、じゃぁ、あっちで・・・』
「うん。」
2人はみんなから離れたカウンターバーの方へ移動した。
さっきまでそこで甲斐甲斐しくみんなの世話を焼いていたウニョクが
いつの間にか居なくなっていた。
『で、話って?な、なに?家じゃ話せない事?』
「ううん。そういう訳じゃないんだけど・・・
えっと、あのさぁ・・・先生・・・」
『ん?どうした?』
シウォンの心臓は今までこんなにドキドキしたことがないってくらいに脈打っていた。
「えっと・・・俺・・・先生と・・・その・・・」
『ん?』
(・・・・・なんなんだこれ。別れ話か?)
「いや、えっと、いつも心配かけてばかりいて、俺って先生に迷惑ばっかかけて・・・
いつも本当にいろいろしてくれるのに、俺何にもできなくて・・・」
『あぁ・・・え、い、いや、俺がやりたいからやってるんで気にしなくても・・・』
「ううん。本当に今までの事、心から感謝してるって、えっと、その・・・伝えたくて・・・」
『だから気にするなって・・・』
(今までの事・・・?それって”今までありがとう。さようなら”ってやつか?うそ?!)
「あのさぁ、先生はどう思ってるかわかんないんだけど・・・これからの事・・・
前にも話した事あったけど・・・あの俺・・・先生と・・・」
(あぁ、ダメだ。ヒョンの前だとうまく話せない。)
『(あぁ、もうダメだ!)待てキュヒョン。それは今聞きたくない。』
「え?」
『どうしてそんな話、こんな・・・みんながいる所で・・・そんなもんなのか?』
「・・・・・?(ヒョン、何言ってんの?)」
『もういい、帰ろう。家でじっくり話そう。』
「え?何?先生?」
シウォンは蒼白な顔でキュヒョンの腕を掴み、部屋から出ようと引っ張った。
不意に腕を掴まれ引っ張られたのでポケットに入れていた手を引き抜かれた形になり、
握りしめていた小箱を投げ出す形になってしまった。
その小箱が転がりシウォンの足元にぶつかり止まった。。
シウォンは足元をじっと見つめ動かなかった。
『キュヒョン、これ・・・』
シウォンが屈み、拾い上げようとすると
「ダメ!」
と言ってキュヒョンが慌てて拾い上げ、胸の前で握りしめた。
『キュヒョン?』
(それって、もしかして・・・え・・・?)
「もー・・・先生。最後までちゃんと話聞いてよ。」
『え?あぁ・・・』
目をまん丸くして自分を見つめてくるシウォンの顔があまりにも面白くて
キュヒョンは思わず笑ってしまった。
『な、なんだよ・・・』
「全く、ヒョンは・・・」
『・・・・・』
「あのね、ヒョン。俺はね、これからもずっと一緒にいたいって言いたかっただけなんだよ。」
キュヒョンはほぉーっと大きく息を吐き言葉が出ないシウォンの目を真っ直ぐ見つめ
素直な気持ちをぶつけた。
「ヒョンの今までの事とか、ドンヘ先生の事とか、まったく気にならいわけではないんだけど・・・
でも今は・・・俺だけのもんだって思っていいんだよね?」
『あ、あぁ・・・え?』
「でね、俺考えたんだ。ヒョンを少しでも繋ぎとめておくにはどうしようかって・・・」
『な、な・・・に・・・え?なんだって・・・?』
キュヒョンの言葉にただただ口をパクパクするしかないシウォンは
今、目の前のキュヒョンがいったい何を言ってるのかと
いちいち反芻しながら理解しようと一心にキュヒョンを見つめていた。
「ヒョン。これ・・・お願いだから受け取ってよ・・・」
そう言いながらキュヒョンが手に持っていた小箱を開けると
そこには指輪がふたつならんでいた。
『キュ、キュヒョン・・・わぉ・・・えっと・・・こんな・・・』
「ヒョン。手、貸して・・・」
驚きのあまり硬直しているシウォンの左手を取り、
その人差し指に気持ちを込めてそっと嵌めた。
シウォンは自分の指に嵌められた指輪をじっと見つめたままだった。
「ねぇ、俺に嵌めてよ・・・」
キュヒョンはもう一つを小箱から取り出しシウォンの前へ突き出した。
『え?あぁ、そ、そうか・・・』
シウォンは手の震えを押えられず、ちょっとてこずったが
自分と同じ指に何とか嵌めることができた。
その指輪は天使の片翼をモチーフにお互いのイニシャルのSとKを
幾何学模様のようなデザインで配し、フレームはガッチリと固めてあるけれども
その模様は実に極め細やかでセンスの程を伺えた。
ふたつ合せると天使が翼を広げているモチーフを描き出すデザインとなっていた。
「・・・気に入った?」
『・・・・・』
「え・・・?いや?」
返事をくれないシウォンにちょっと不安になったキュヒョンは
手元から目線を上げ、シウォンの顔を覗き込んだ。
すると呆然としていたシウォンの顔が一気に崩れ、
ヒョン・・・と声を掛けた途端力いっぱい抱きしめられた。
『キュヒョン・・・キュヒョン・・・』
耳元でシウォンがキュヒョンの名を呼び続けた。
「ヒョン・・・俺ずっといていいんだよね?」
キュヒョンの問いかけにシウォンはうんうんと大きくずっと頷き続けた。