目が覚めたとき、一人だった。
自分がなぜシウォンのキングサイズのベットの中にいるのか
理解するまでに時間がかかった。起き上がろうと半身を起こした時、
割れるかと思うほどの頭痛に襲われもう一度突っ伏した。
昨日の夜の記憶が断片的によみがえり、ぎゅっと枕を抱え込む。
何とか体を起こしてベッドルームのドアを開けリビングへ。
しーんと静まりかえったシウォンの部屋。
テーブルにはシウォンからのメモが残っていた。
『シャワーどうぞ。戸締りよろしく。それと・・・ごめん(笑)』ごめん?
熱めのシャワーを浴びながら記憶を手繰り寄せる。
熱いシャワーを頭から浴びると全身が震えた。
身体が再起動したようだ。記憶の断片を繋ぎつなぎしながら
だんだんクリアになっていく昨日の大失態・・・
キュヒョンは頭をかきむしりながら、ひとりで赤くなったり青くなったりしていた。
シウォン先生とどんな顔して会えばいいんだ?
結局俺はどうしたいんだろう・・・ とりあえずそこからだよな。
そういえばメモに『ごめん。』って書いてあったな。
よくわかんないけど、ごめんって、
『めんどくさい事はごめんだ。』のごめん?
『ごめん。ムリ!』のごめん?
『ごめん。もう会いたくない。』のごめん?
謝るってなんなんだよ。
自己嫌悪と後悔でキュヒョンの気分は最悪だった。
シャワーを止め、鏡の前に立ち、自分の顔をのぞいた。
そこには情けない顔の自分が写っていた。
「最悪だ・・・」ため息をつきながらタオルで頭をふき始めると、ある事に気がついた。
湯気で曇った鏡を拭き取り覗きこんだ。
そこに写ったのは鎖骨のあたりから胸一面に広がった紅い斑点。
シャワーを浴び、ほんのり赤くなった色白の肌に一際目立つ紅い斑点。
それはシウォンのつけた、愛の証。
「うわぁぁぁー!!なんだよこれー!!」
バスルームにキュヒョンの声が響き渡った。
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「よ~!キュヒョン。昨日は空飛べてよかったなぁ~」
「キュヒョン !今日は飛ばないのか?」
病棟につくまでに散々みんなにからかわれたが、キュヒョンはそれどころではなかった。
病棟につくと、
「お~キュヒョン。来たな。リュック、あずかっといたぞ。」
ウニョクが笑った。
そのウニョクの手をつかみ、処置室に移動した。
「おい、どうしたんだ?何慌ててるんだ?そうそう、
お前が多分二日酔いで大変だろうから点滴立ててやってくれてって、シウォン先生が・・・」
「先生どこだよ!シウォン先生どこにいったんだよ!」
とキュヒョンはウニョクにつめよった。
『ほんとだ。シウォン先生が言ってた通りだ。』
少し前、シウォンがウニョクのところに寄っていった。
昨日、自分の事を呼んでくれたことへの礼と、キュヒョンの為に点滴のオーダーが出ている事、
そして、ものすごく怒ってるだろうから、とにかくよろしく。
この借りはちゃんと返す。と言ってウィンクして颯爽と去って行った。
ものすごく怒ってるだろうと言ってたシウォン先生と目の前でものすごく怒ってるキュヒョン。
いったい何があったんだ?
「まぁまぁまぁ。先生は今日もドクヘリだよ。」
「いつ戻ってくるんだよ。」
「そりゃー勤務が終われば・・・あっ、お前のリュック預かってるぞ。ほら、行くぞ。」
とキュヒョンの腕をつかみ、とりあえず処置室へ。
そこでウニョクはキュヒョンに点滴の処置を始めた。
「しっかしお前、昨日はよく飲んだなぁ。
あの後荷物持ってお前んとこ行ったんだけど、いなかったな。
シウォン先生の所に居たのか?」
キュヒョンから立ち上がるほのかなソープの香リが明らかにいつもと違っていた。
まだ髪も乾ききっていない。
キュヒョンは何も答えないがまだ怒りが収まってないのっはよくわかる。
「よし入ったぞ。ベットに横になるか?確か仮眠室が空いてる。そっちへ行こう。」
そうキュヒョンを促し点滴台を押しながら仮眠室へ移動した。
キュヒョンは迷っていた。
ウニョクに話すべきかどうか。
結局シウォン先生はすべてお見通しで、すべてをお膳立てしてくれてるし
、ウニョクはこんな俺をいつも助けてくれる。一番俺をわかってくれる。
ウニョクはシウォン先生への俺の想いを理解してくれるだろうか・・・
ヒチョル先生の言葉が頭の中で巡っている。
『ここじゃなくてここ』
『頭じゃなくて心』
「なぁ、ウニョク・・・俺・・・」
「ん?なんだ?」
時計の秒針を見つめ点滴の滴下の調整をしているウニョクに話かけた。
あれ?いつもの時計じゃない。
「その時計・・・」思わず声に出た。
「あ、これか?へへへ、いいだろう。イトゥク先生の時計。」
そういって見せてくれた。
確かにいつもイトゥク先生がしていた時計だ。
確かとても高価なものでイトゥクがいつも羨ましがっていた。
「それ、どうして・・・?」
「あぁ、なんかこの前2人で食事した時、俺に持っててくれって、
突然腕にはめてくれたんだ。俺これすごく気に入ってたからすっげーうれしくて。
仕事にもこうして身が入る。」
「それって、女の子が・・・カップルがよくやってるやつだろ?学生時代とか
付き合ってます的な感じで・・・」
「お前とイトゥク先生って・・・」
「俺もよくわかんない。でも、俺はイトゥク先生といるのが楽しいし、
イトゥク先生にヒョクチェって呼ばれるのが何よりもうれしいし・・・」
珍しくウニョクが照れる。
「おれさぁ、イトゥク先生になら抱かれてもいいって前いったよな。
あれ冗談だと思ってるだろ。あれ、俺、本気だから・・・。
でも今はそばにいられるだけでいい・・・」
そういいながらイトゥク先生にもらった時計を触った。
いつもテンション高く、何事も気にせず、楽天家な親友が心の内を打ち明けてくれた。
こいつが俺の親友でよかった…そう心から思えた。
「ウニョク・・・俺どうしたらいいんだろう・・・」
「ん?何が?」
仮眠室のベットに腰を下しながらウニョクに問いかけた。
「・・・俺、シウォン先生になんて言えばいい?」
「お前の気持ちストレートにぶつければいいじゃんか。」
「でも、俺、男だし・・ヒョクにも引かれたら俺・・・」
「お前さぁ~、頭で考えすぎなんだよ!ここだよここ。
それに俺が引くって・・・そんなことあるわけないじゃないか!」
とウニョクがキュヒョンの胸をポンポンと叩いた。
と、ウニョクが胸元から覗く赤い斑点を目ざとく見つけた。
「・・・?なんだ・・・?この赤い発疹。お前大丈夫か?
点滴の薬剤に反応した?・・・でも生食だしそんなはず・・・」
点滴のバッグの内容を確認していたウニョクが振りかえり目をキラキラさせ、
慌てて胸元のシャツを合わせて隠そうとしたが、
それよりも早くウニョクはキュヒョンの胸元を覗きこんだ。
「うわぁー、なんだこれー!!すっごいなぁー。これシウォン先生が?」
「・・・うん。朝起きたらこうなってた・・・。」
「すっげーなー。俺こんなの見たことない!シウォン先生やるなぁ~」
だからシウォン先生がキュヒョンがものすごく怒ってるはずだって言ってたのか・・・
ウニョクは思わず大笑いした。
「なんだよ。笑うなよ!あーもー」とキュヒョンが頭をかきむしる。
「ごめんごめん。だけどこれほんとすごいな・・・
キュヒョン。もうこうなったら四の五の言わず先生に抱かれろ。
そうすればすべて解決だ!!」
キュヒョンの肩をポンポンとふたつ叩いた。
「お前、そんな露骨に・・・おい!どこに行くんだよ!みんなに言うなよ!」
仮眠室から出ていくウニョクの背中にキュヒョンは叫んだ。