ウニョクは仮眠室を出てナースセンターに向かいながら首をかしげた。
ほんのお遊びで大の大人があんないたずらするわけないだろう。
男のキュヒョンに対して臆することなく愛情表現をしているのに
まだ訳の分かんないこと言って自分の気持ちも持て余して・・・
「あいつなんであぁ、ネンネなんだろ・・・シウォン先生も大変だな・・・」
そんなこと思いながら苦笑いした。ナースステーションに行くとシウォンがいた。
ウニョクを見つけるとキュヒョンは?と声を出さず聞いた。
ウニョクは先生にもう大丈夫と告げ仮眠室を指差した。
本当にウニョクには頭が下がる。イトゥクにもお礼を言った方がいいかな?そんなことを考えながら点滴バッグをもって仮眠室に向かった。キュヒョンに会ったらなんて言おうか。先ず謝る?何事もなかったようにビジネスライクに?それとも何か言われる前にその口を塞いでしまおうか・・・
仮眠室に入るとキュヒョンは軽い寝息を立てていた。
顔色も戻ってきているしもう大丈夫。点滴を差し替えた。
「・・・ウニョク?」
キュヒョンは半身を起こし声をかけ仮眠ベッドのライトをつけた。
目の奥がずきずきする。
目の焦点が合うと視界に飛び込んできたのはシウォンだった。
フライトスーツを上半身脱ぎ、袖で腰に巻きつけ、Tシャツ1枚の姿。
薄暗い仮眠室の明かりの中でもシウォンのその彫刻のような肉体が見て取れる。
「せ、先生・・・」
「起こしちゃったか?具合はどうだ?」
「・・・大丈夫です・・・。」
シウォンが近づいてきた。
今日会ったらなんて言ってやろうかと息巻いていたキュヒョンだが、
シウォンのその姿に心臓が高鳴り、言葉が出なかった。
キュヒョンは怒っていたことも忘れて、身を固くした。
そのキュヒョンの手を徐にとって脈を図り始めた。
「脈…速いなぁ。まだ回復しないのか?」
そう言って軽く笑った。
キュヒョンは慌てて手をひっこめた。
バツが悪かった。
「昨日はご迷惑おかけしてすみませんでした・・・」
そういうのが精いっぱいだった。2人の目があった。
そのまま2人は何も言わず見つめあったままだったキュヒョンは
息することも忘れてしまったかのようだった。
「ピピピ、ピピピ、ピピピ・・・」
沈黙を破るようにシウォンのピッチが仮眠室に鳴り響いた。
キュヒョンから視線を外さないままピッチに出たシウォン。
ERからの連絡らしい。
「・・・これから飛ばなきゃならない。」
そう言って背を向け仮眠室のドアに手をかけた。
そして一瞬ためらったがクルリとこちらに向き直り、
大股でキュヒョンの元に来たかと思うとその唇にキスをした。
「後で話そう。連絡するから。」
びっくりして声の出ないキュヒョンにそう告げて部屋から出て行った。
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キュヒョンは薄暗い部屋でずっと考えていた。
その時仮眠室のドアをノックする音がした。
誰だろう・・・
ウニョク?
シウォン先生?
「はい。どうぞ・・・」
ドアが開き入ってきたのはリハビリの担当のソンミンだった。
「あーいたいた!やっと見つけたよ。」
ソンミンはそう言って笑った。
そうだった。今日は月1度のリハの予約日だった。すっかり忘れてしまった。
「ごめん。忘れてた。」
「大丈夫!ただ予約時間になっても現れないから何かあったのかと思ってきてみたら
ここだってウニョクが教えてくれたんだよ。二日酔いだって?」
「はぁ、まぁ・・・もう大丈夫だよ。」
キュヒョン照れながらガッツポーズをして見せた。
「じゃあ、このままここでやっちゃおうか。」とソンミンが言った。
「え?ここで?いいのか?」
「大丈夫。大丈夫。さ、ベットに横になって。点滴はそのままでいいから。」
キュヒョンはベットに上がり、うつぶせになった。
ソンミンとの訓練は最初とてもつらいものだった。
もう2度と歩けないかも。
もう看護師にも復帰できないんじゃないか・・・
努力してもどうにもならないことがあるとわかっているだけに
不安に押しつぶされそうだった。
その時、親身になって力を貸してくれたのが同期のソンミンだった。
「ちゃんとケアしてるか?」ソンミンは聞いた。
「やってるよ。ちゃんと教えに従ってるさ。」
キュヒョンは心外だなぁといわんばかりに笑った。
ソンミンのリハは大変心地よくマッサージを受けているといつも眠気が襲ってくる。
程よい痛さの刺激と心地よさで力が抜けていくのが分かった。
どのくらい時間が立ったのだろう。
ソンミンに揺り起こされキュヒョンは大きな欠伸をしながら伸びをした。
「今度の予約、来月の勤務わかったら連絡くれよな。」
そういってソンミンがベットから降りようとしたとき、
バランスを崩し、キュヒョンの上に倒れこんだ。
ソンミンを支えようとしたキュヒョンも支えきれずふたりでベットの上に倒れこみ、
「何やってんだよ。あぶないなぁ。」
「そっちこそちゃんと支えろよ!やわだなぁ~」
「なんだよ~」といながら枕を投げつけた。
ソンミンもすかさずその枕をキュヒョンに投げ返し応戦した。
「キュヒョン。調子はどうだ?」いきなり仮眠室のドアが開いた。
キュヒョンが心配でフライトの合間に様子を見に来たシウォンだった。
「あっ、先生!」
ベッドの上でじゃれあっていた2人はソンミンがキュヒョンに
覆いかぶさってるように見える状況だった。
慌てて半身を起こした。
「失礼。」
シウォンの冷たい声が仮眠室に響き、2人が何も言う間もなくドアが閉まった。
「うわ!まずいなぁ。シウォン先生に誤解されちゃったんじゃないか?これ。」
何も事情を知らないソンミンは面白そうに笑った。
「あぁ・・・あぁそうだな。ばかみたいだよな・・・」