- YeSung

聞き慣れた音、見慣れた場所。

違うのは俺の感覚。

『OKです。』

1ヶ月に3~4回は、こうしてスタジオで新人アーティストのレコーディングを見つめている。

「どうですか??」

ヘッドホンを外して、慣れ親しんだスタッフが声を掛けてくる。

周りもそれに同意するように、俺を見ている。

『...悪くはない。』

『でも、良くもないんだよな??』

そう聞かれて俺は後ろを振り向いた。

それは俺を毎回、このスタジオに呼び出す人の姿。

『まぁ良い感じだな。これで終わりにしよう。』

そう言うと周りはすぐに騒がしくなった。

俺も目を反らして、スタッフを見た。

「お疲れさまでした。」

スタッフはそう言って新人アーティストと帰っていき、俺は煙草をくわえた。

『ジョンウン。』

火を着けようとした時、名前を呼ばれて煙草を取られた。

『...。』

黙ったまま見つめていると、隣に座ってこちらを見た。

『お疲れさま。』

そう言ってコーヒーを渡された。

『ありがとうございます、ジョンスさん。』

そう言って俺はコーヒーを一口飲んだ。

『...煙草、止めろって言っただろ。』

『...だってさ。』

『まぁ、無理もないか。今日のはちょっとな。』

そう言われて俺は、クスリと笑った。

『ジョンスさん。だったら何故俺を??』

俺がそう聞くと、ジョンスさんはカップに口を付けた。

『...ちょっと紹介したい人が居るんだ。』

『また原石の発掘ですか??』

『いや。もう原石じゃないかもな。』

『え??』

『...まずはリョウクに会ってくれ。俺が説明するよりあいつの方が良く知ってるんだ。』

『...そうですか。』

俺がそう言うとジョンスさんは、悲しい目をして俺の頬に触れた。

『断っても良いんだぞ??』

『...。』

『俺のことは気にするな。ここに来ることだってお前が嫌ならもう。』

ジョンスさんの言葉を最後まで聞かずに、俺は椅子から立ち上がった。

『大丈夫です。』

『...ジョンウン。』

『ジョンスさんのために出来ることなら、俺は何だってやります。』

『...。』

『リョウクは店に??』

『いや。今日はピアノの調律に行ってるはずだ。』

そう言ってジョンスさんは、メモ用紙に何かを書き込んで俺に渡してきた。

『ここにリョウクは居る。』

『...じゃあ、今から行ってみます。』

そう言って出ていこうとすると、腕をジョンスさんに掴まれた。

『...ヒチョルのことだけど。』

『それも大丈夫です。俺が悪かったんです。気にしないでください。』

『...どこがだよ。』

ジョンスさんはそう呟いて手を離してくれた。

『...何かあったら言えよ??俺にでもヒチョルにでも。』

『...。』

『あいつも、お前の兄貴まで辞めてはいないと思うから。』

そう言ってジョンスさんは俺の肩をポンッと叩いた。

『たまには、お前から連絡してこい。』

『うん。』

『心配してるんだ。』

そう言われて俺は頷いた。

『じゃあ、気をつけてな。』

ジョンスさんはそう言ってスタジオを出ていった。