そして、追悼集会は始まった。
現役のメンバーは勿論、圭介を始めとする和也を知る仲間が集まった。
総勢三十名あまりの仲間が、和也の死を悼み、この暗闇を駆け抜けるのだ。
毎年行われるこの日の集会は、バイクを愛した和也の魂に捧げられる。
それでこの日ばかりは、何をおいても走りのみに徹するのが決まりになっていた。
コースは、三年前に彼を失った海沿いの道路。
つまり、当時彼らが走ったコース。
指揮を務めるのは、現在のリーダーである豊。
バイク音が高鳴り、彼の掛け声と共に、一斉にスタートした。
圭介たちOBは、最前列を走った。
海も直巳のバイクに乗って集会に参加し、後方を走った。
直巳は、彼の後ろでで気分よく風に吹かれていた。
その手には、和也に手向けるための花があった。
海は直巳から瑞希と和也の話を聞き、この集会に出ることを決めた。
瑞希の悲しみが、染み付いたように心から離れなかった。
そして、和也の悲しみまでもが。
そろそろ和也を失ったカーブにさしかかろうという時、何かが起きたらしく、ざわつきが生じた。
直巳が身を伸び上げて前方を確かめようとした時、後方から喚き声がして、バイクのクラッシュする音がした。
振り返ると、仲間のすぐ傍まで別のグループが押し寄せていた。
最後列は、すでに彼らに襲われていた。
「“亜修羅”だぁ~っ!!!」
嗄れてしまいそうなほどの大声で、直巳が叫んだ。
それとほぼ同時に、海がバイクを止めた。
前方も、“亜修羅”に塞がれて前進できなくなっていた。
まんまと挟まれたのだ。
急カーブにかかる、ほんのわずか手前での出来事だった。
「クッ、挟み撃ちかっ…」
前方後方を見て、圭介は悔しさで拳を握り締めた。
彼らのこの日の集会は、ほかのチームも知らないことではなかった。
しかし、これまで邪魔されたことなど一度もなかった。
圭介はすぐに、弘人の嫌がらせだと思った。
「圭介さん、どうすんすか?」
隣りにいた豊が尋ねた。
相手は容赦なく襲いかかってきた。
「おいっ!オマエら弘人の命令かっ!?」
圭介は怒鳴るように尋ねた。
「だったらどうよっ!?弱小チームが舐めたことやってっから制裁に来たのよっ!」
相手は武器を手に、みんなを襲い始めた。
圭介はやむなく、みんなに解散してこの場を離れるように指示した。
しかし挟まれた状況では、それすら困難であった。
海は直巳に、和也への花を離さないように念を押すと、いきなりエンジンをふかし、バイクを走らせた。
「なっ…、バカッ!海っ、危ねぇっ…!!」
直巳は慌てて怒鳴った。
しかし、海は直巳の心配をよそに、敵の攻撃をうまくかわしながら、その隙間を縫うように前進した。
ほとんど紙一重で、それは見ていてハラハラするような光景だったが、同時に、心惹かれるものがあった。
「…アイツ……」
圭介は、海の姿を目で追いながら、そこに和也の面影を映し出していた。
「圭介さんっ!」
豊の声で我に返ると、彼の頭に鉄パイプが振り下ろされた。
「くんのっ…、ガキがぁ…、舐めんじゃねーぞっ!!」
圭介はついに、この夜の大切な儀式がぶち壊され、仲間がひどくやられていることに、怒りを爆発させた。
豊も、ほかの仲間も、圭介が反撃を始めたのを皮切りに、一斉に攻撃を開始した。
しかし、それでも敵の数には敵わず、その状況から抜け出せなかった。
直巳は、あぶなかしいドライビングテクニックに驚きながら、内心ワクワクしていた。
こんな事態の中でも、気分は絶好調だった。
みんなの中を抜け出して、海は急カーブにやって来て止まった。
エンジンはそのままに、二人はバイクを降りた。
「和也さん…」
直巳は、花束をガードレールの下に寝かせるようにして置いた。
「…俺…」
海が言葉を発した時、敵が五人、二人のもとに集まってきた。
バイクごと囲まれ、次の瞬間、喚き散らしながら襲いかかる敵に、二人も反撃した。
五人は難なくその場に倒れ、直巳は彼らの持っていたパイプを手にした。
「…代わりになれるかな?」
海はそう呟くと、直巳と同じく鉄パイプを拾い上げ、再びバイクに跨った。
「おいっ、海っ、今のっ…?」
直巳が尋ねるのも聞き入れず、海はバイクをターンさせ、彼が後ろに乗っかると引き返した。
大混乱の中、多くの仲間が動けなくなっていた。
圭介と豊もまだ無事だが、敵の数を思うと不安だった。
「先輩っ!もう休んでていいっすよっ!」
戻った直巳は余裕の笑みを漏らし、叫んだ。
「おうっ、オマエのその足ぃ、折ってやったのぁ俺だぜっ!なんならもう一本いっとくかぁ~?」
直巳の傍にいた男が、突然横のほうから鉄パイプを振り下ろした。
そしてガッ、と音がしたかと思うと、海がそのパイプを素手で掴んでいた。
「これで貸し借りなしにしといてやるよ」
海は、敵のパイプを奪って捨てると、持っていたパイプを両手で構え、相手の足を掬い上げるように打ち付けた。
鈍い音とものすごい叫び声がして、相手は頭からひっくり返った。
「…って、オマエ…、今のものスゲくない?」
直巳は、ちょっぴり相手が気の毒に思え、横から口を挟んだ。
「完璧だろ?これで相子になったな」
海は、まったく気に留めない顔でクスッと笑って、ほかの敵に襲いかかった。
「…相子には見えないけど、先に手ぇ出した罰ってことで…、恨むなよ」
倒れてピクリとも動かない相手に、直巳はボソボソとそう言って、自分もほかの敵に向かった。
彼は足にハンデを抱えながらも、少しも引けてはいなかった。
海のほうはパイプなどとっくに捨て、素手で向かっていた。
彼らが参戦した後は、あっという間に敵の数が激減した。
圭介も豊もずいぶん疲れてはいたが、それでもまだ闘っていた。
立っている仲間は、彼らも含めてたったの六人にだった。
しかし敵のほうも、気付いた時には十人あまりにまで減っていた。
「おいっ、戸田弘人ってどいつよ?」
海は、数が少なくなると、相手が気を失わないうちに尋ねた。
「戸田さんはまだ戻ってねーよ…。俺ら舐めんなよ?仲間はまだ五万といんだよ」
「…いつ出てくる?」
海は首を腕で押さえ込み、グッと力を加えた。
「…ら、来週の…、木曜……」
答えを聞き出すと、海は鳩尾に拳を打ち込み、気絶させた。
思いがけず、彼らは敵を完全に仕留めてしまっていた。
直巳もほとんど無傷だった。
圭介たちは数をこなした分だけ体力を失ってはいたが、健在だった。
「直巳!オマエやるじゃねーか」
豊が気分よさそうに言った。
「足がなんともなけりゃ、もっと時間かかんなかったんスけどね」
「でも辰巳にが一番驚かされたぜ。アイツめちゃくちゃ強ぇ~んじゃねぇかよ」
「なになに、まぁだ甘いっすよ」
直巳は自慢げに笑って言った。
「まだまだ?」
「豊っ!仕切り直しだっ。残ってるだけでラストまでぶっちぎるっ!」
圭介はバイクに戻り、豊に合図を求めた。
「ユタ!ボサッとすんなっ!!」
圭介の横で、まったくの無傷の哉見亮二(なりみりょうじ)が言った。
彼も、墓地にいたうちの一人だ。
「おっ、おう!」
豊は慌ててバイクに跨り、その木のある者が準備をするのを待った。
海は直巳のバイクには乗らず、倒れて動けそうにない一人に手を貸し、彼のバイクに跨った。
「海?」
「俺はパス。やることやったし」
海は笑みを浮かべてそう言うと、来た道を戻って行った。
圭介は、亮二と顔を見合わせ、そんな海の後ろ姿を見送った。
「豊、気合入れていくぞ」
圭介はエンジンを鳴らして天を仰ぎ、微かに笑みを浮かべながら、静かにそう言った。
彼は、海を見て切なさを覚えた。
和也とイメージが重なるのだ。
そのくせ、彼が持てなかったものを海は備えていた。
何よりも彼が望んだ『力』を、『強さ』を、彼は持っていた。
現役のメンバーは勿論、圭介を始めとする和也を知る仲間が集まった。
総勢三十名あまりの仲間が、和也の死を悼み、この暗闇を駆け抜けるのだ。
毎年行われるこの日の集会は、バイクを愛した和也の魂に捧げられる。
それでこの日ばかりは、何をおいても走りのみに徹するのが決まりになっていた。
コースは、三年前に彼を失った海沿いの道路。
つまり、当時彼らが走ったコース。
指揮を務めるのは、現在のリーダーである豊。
バイク音が高鳴り、彼の掛け声と共に、一斉にスタートした。
圭介たちOBは、最前列を走った。
海も直巳のバイクに乗って集会に参加し、後方を走った。
直巳は、彼の後ろでで気分よく風に吹かれていた。
その手には、和也に手向けるための花があった。
海は直巳から瑞希と和也の話を聞き、この集会に出ることを決めた。
瑞希の悲しみが、染み付いたように心から離れなかった。
そして、和也の悲しみまでもが。
そろそろ和也を失ったカーブにさしかかろうという時、何かが起きたらしく、ざわつきが生じた。
直巳が身を伸び上げて前方を確かめようとした時、後方から喚き声がして、バイクのクラッシュする音がした。
振り返ると、仲間のすぐ傍まで別のグループが押し寄せていた。
最後列は、すでに彼らに襲われていた。
「“亜修羅”だぁ~っ!!!」
嗄れてしまいそうなほどの大声で、直巳が叫んだ。
それとほぼ同時に、海がバイクを止めた。
前方も、“亜修羅”に塞がれて前進できなくなっていた。
まんまと挟まれたのだ。
急カーブにかかる、ほんのわずか手前での出来事だった。
「クッ、挟み撃ちかっ…」
前方後方を見て、圭介は悔しさで拳を握り締めた。
彼らのこの日の集会は、ほかのチームも知らないことではなかった。
しかし、これまで邪魔されたことなど一度もなかった。
圭介はすぐに、弘人の嫌がらせだと思った。
「圭介さん、どうすんすか?」
隣りにいた豊が尋ねた。
相手は容赦なく襲いかかってきた。
「おいっ!オマエら弘人の命令かっ!?」
圭介は怒鳴るように尋ねた。
「だったらどうよっ!?弱小チームが舐めたことやってっから制裁に来たのよっ!」
相手は武器を手に、みんなを襲い始めた。
圭介はやむなく、みんなに解散してこの場を離れるように指示した。
しかし挟まれた状況では、それすら困難であった。
海は直巳に、和也への花を離さないように念を押すと、いきなりエンジンをふかし、バイクを走らせた。
「なっ…、バカッ!海っ、危ねぇっ…!!」
直巳は慌てて怒鳴った。
しかし、海は直巳の心配をよそに、敵の攻撃をうまくかわしながら、その隙間を縫うように前進した。
ほとんど紙一重で、それは見ていてハラハラするような光景だったが、同時に、心惹かれるものがあった。
「…アイツ……」
圭介は、海の姿を目で追いながら、そこに和也の面影を映し出していた。
「圭介さんっ!」
豊の声で我に返ると、彼の頭に鉄パイプが振り下ろされた。
「くんのっ…、ガキがぁ…、舐めんじゃねーぞっ!!」
圭介はついに、この夜の大切な儀式がぶち壊され、仲間がひどくやられていることに、怒りを爆発させた。
豊も、ほかの仲間も、圭介が反撃を始めたのを皮切りに、一斉に攻撃を開始した。
しかし、それでも敵の数には敵わず、その状況から抜け出せなかった。
直巳は、あぶなかしいドライビングテクニックに驚きながら、内心ワクワクしていた。
こんな事態の中でも、気分は絶好調だった。
みんなの中を抜け出して、海は急カーブにやって来て止まった。
エンジンはそのままに、二人はバイクを降りた。
「和也さん…」
直巳は、花束をガードレールの下に寝かせるようにして置いた。
「…俺…」
海が言葉を発した時、敵が五人、二人のもとに集まってきた。
バイクごと囲まれ、次の瞬間、喚き散らしながら襲いかかる敵に、二人も反撃した。
五人は難なくその場に倒れ、直巳は彼らの持っていたパイプを手にした。
「…代わりになれるかな?」
海はそう呟くと、直巳と同じく鉄パイプを拾い上げ、再びバイクに跨った。
「おいっ、海っ、今のっ…?」
直巳が尋ねるのも聞き入れず、海はバイクをターンさせ、彼が後ろに乗っかると引き返した。
大混乱の中、多くの仲間が動けなくなっていた。
圭介と豊もまだ無事だが、敵の数を思うと不安だった。
「先輩っ!もう休んでていいっすよっ!」
戻った直巳は余裕の笑みを漏らし、叫んだ。
「おうっ、オマエのその足ぃ、折ってやったのぁ俺だぜっ!なんならもう一本いっとくかぁ~?」
直巳の傍にいた男が、突然横のほうから鉄パイプを振り下ろした。
そしてガッ、と音がしたかと思うと、海がそのパイプを素手で掴んでいた。
「これで貸し借りなしにしといてやるよ」
海は、敵のパイプを奪って捨てると、持っていたパイプを両手で構え、相手の足を掬い上げるように打ち付けた。
鈍い音とものすごい叫び声がして、相手は頭からひっくり返った。
「…って、オマエ…、今のものスゲくない?」
直巳は、ちょっぴり相手が気の毒に思え、横から口を挟んだ。
「完璧だろ?これで相子になったな」
海は、まったく気に留めない顔でクスッと笑って、ほかの敵に襲いかかった。
「…相子には見えないけど、先に手ぇ出した罰ってことで…、恨むなよ」
倒れてピクリとも動かない相手に、直巳はボソボソとそう言って、自分もほかの敵に向かった。
彼は足にハンデを抱えながらも、少しも引けてはいなかった。
海のほうはパイプなどとっくに捨て、素手で向かっていた。
彼らが参戦した後は、あっという間に敵の数が激減した。
圭介も豊もずいぶん疲れてはいたが、それでもまだ闘っていた。
立っている仲間は、彼らも含めてたったの六人にだった。
しかし敵のほうも、気付いた時には十人あまりにまで減っていた。
「おいっ、戸田弘人ってどいつよ?」
海は、数が少なくなると、相手が気を失わないうちに尋ねた。
「戸田さんはまだ戻ってねーよ…。俺ら舐めんなよ?仲間はまだ五万といんだよ」
「…いつ出てくる?」
海は首を腕で押さえ込み、グッと力を加えた。
「…ら、来週の…、木曜……」
答えを聞き出すと、海は鳩尾に拳を打ち込み、気絶させた。
思いがけず、彼らは敵を完全に仕留めてしまっていた。
直巳もほとんど無傷だった。
圭介たちは数をこなした分だけ体力を失ってはいたが、健在だった。
「直巳!オマエやるじゃねーか」
豊が気分よさそうに言った。
「足がなんともなけりゃ、もっと時間かかんなかったんスけどね」
「でも辰巳にが一番驚かされたぜ。アイツめちゃくちゃ強ぇ~んじゃねぇかよ」
「なになに、まぁだ甘いっすよ」
直巳は自慢げに笑って言った。
「まだまだ?」
「豊っ!仕切り直しだっ。残ってるだけでラストまでぶっちぎるっ!」
圭介はバイクに戻り、豊に合図を求めた。
「ユタ!ボサッとすんなっ!!」
圭介の横で、まったくの無傷の哉見亮二(なりみりょうじ)が言った。
彼も、墓地にいたうちの一人だ。
「おっ、おう!」
豊は慌ててバイクに跨り、その木のある者が準備をするのを待った。
海は直巳のバイクには乗らず、倒れて動けそうにない一人に手を貸し、彼のバイクに跨った。
「海?」
「俺はパス。やることやったし」
海は笑みを浮かべてそう言うと、来た道を戻って行った。
圭介は、亮二と顔を見合わせ、そんな海の後ろ姿を見送った。
「豊、気合入れていくぞ」
圭介はエンジンを鳴らして天を仰ぎ、微かに笑みを浮かべながら、静かにそう言った。
彼は、海を見て切なさを覚えた。
和也とイメージが重なるのだ。
そのくせ、彼が持てなかったものを海は備えていた。
何よりも彼が望んだ『力』を、『強さ』を、彼は持っていた。