その週の土曜日の夜、真司はいよいよ腹を立てた。
“亜修羅”は、どこにも属さない小規模のチームを引き込み、少しずつ規模を拡大していた。
その夜のうちに、真司のチームにもその手が伸びたのだ。
彼はこの日、仲間の京一のアパートで屯していた。
弘人の出所の情報も掴み、その日を待ちわびていた。
「そう言えばさ、こないだの木曜の乱闘騒ぎ知ってっか?」
京一が思い出して、そう言った。
「あ?いや…。何よ?」
ビールをがぶ飲みしながら、真司は尋ね返した。
「“霊鎖亜”の追悼集会に“亜修羅”が待ち伏せしたんだと」
真司はビールを飲む手を止め、話に耳を傾けた。
「どうなったんだよ?」
「ウソみてーだけど、“亜修羅”が負けたって話だぜ」
「…へっ、なんだよ」
真司は一瞬心配したが、結果を聞いてホッとした。
「と言っても、“霊鎖亜”はOB付きで、“亜修羅”は目ぼしいのがいなかったみてーよ。元々あそこは走り専門の腰抜けで、どこもあんま相手にしてねーしな」
「相手にするだけカッコ悪りぃもんな」
「………」
真司は黙り込み、タバコを取り出した。
直巳と親しくしていることは、今のことろ仲間の誰にも内緒だった。
間もなくして、京一のケータイがなった。
それは、彼らのチームが“亜修羅”の傘下に入ることを知らせるものだった。
上のほうの一存で決まったことだ。
それを聞いて、みんな動揺した。
中でも、一番動揺したのは真司だった。
自分が“亜修羅”の仲間になるなど、とても考えられなかった。
「…来いってさ。どうする?」
京一が四人を見て尋ねた。
「…行くっきゃねーだろ?」
泰二は気に入らないのを堪え、そう言った。
決まったものはどうしようもない。
上の者に従うしかないのだ。
それが嫌なら、チームを抜けるしかなかった。
「この調子だと、時期にほとんどのチームが“亜修羅”の傘下だろ。先輩方もわかってんだよな」
義尚は諦めつつも、嫌悪感を込めていた。
誰もが不満を持ちはしても、逆らう意思を露にはできなかった。
みんな、仕方なく集合場所に向かうために立ち上がった。
真司は最後まで座り込んで、呆然としながらも考えていた。
「…真司ぃ」
立ち上がらない彼を見て、良太が不安そうに言った。
「ああ…」
ようやく立ち上がると、彼は自分のバイクでその場所へ向かった。

集合場所には、“堕悪泥紋”のメンバー総勢二十七名と、“亜修羅”の幹部を含めた一部のメンバーが、約五十人ほど集まっていた。
“堕悪泥紋”の頭、高杉克也(たかすぎかつや)が話を始めたが、真司はそれを聞き、チームに失望した。
口では奇麗事を並べてみても、結局、戸田弘人の戻る“亜修羅”と闘うだけの勇気を、持ち合わせていないのだ。
チームにそれほど力があるとは思っていなかったが、それでも、気持ちは前向きでありたかった。
その上“亜修羅”は、“霊鎖亜”を潰しにかかると言う。
真司は、すぐに圭介の話を思い出した。
弘人が指示しているに違いないと思うと、はらわたが煮えくり返る思いがした。
「ある意味じゃ敵なしだ。そう思えば…」
冗談混じりに、京一が笑って言った。
しかし、四人のうちの誰一人として、それを笑おうとはしなかった。
「逆らわずに媚び諂えば、だろ…」
真司が、鼻で笑ってポツリと言った。
「あぁ?それが気に入らねーか?」
彼らの会話を聞いていた“亜修羅”のメンバーが、真司の背中に靴を押し付けて言った。
「何すんだコラっ!?」
それを見た良太がカッとなって怒鳴り、殴りかかった。
すると一斉に“亜修羅”の仲間が取り囲み、フクロにしようとした。
真司はこの瞬間、“堕悪泥紋”を名乗ることをやめにした。
手当たり次第殴りつけながら、バイクのほうへ向かった。
良太たち四人も、同じようにその場を抜け出した。
彼らに手を貸す仲間は、一人もいなかった。
追いかけてくる相手を蹴散らし、五人はその場から逃げた。
真司は、、“堕悪泥紋”の新人の中でも、特に目をかけられていた。
ケンカが強いことを買われていたのだ。
しかしそれは味方であってのことで、敵となれば、“亜修羅”が狙ったように的にされる立場になるわけだ。
「…水間真司、か…」
“亜修羅”の幹部の一人である瀧本秋男(たきもとあきお)は、その様子を遠くから眺めながら、真司をどうするか考えた。
彼は、弘人のいない間“亜修羅”を纏めていた人物だ。
「アイツらはうちできっちりカタつけるさ」
克也がそう言うと、秋男やほかの幹部は疑うような目つきで彼を見た。
「…この集会にかけて」
克也は個人的に真司を気に入っていた。
しかし、もうどうにもならなかった。

一方の五人は途中で散り散りになった。
真司は暫く走り、瑞希のマンションの前に来た。
彼女の部屋を見上げ、明かりが灯っているのを確認すると、そのままエンジンを噴かせて去って行った。
心の中で、彼女の仇をとることを誓いながら━━━。