この物語はフィクションです。
実在するものとは一切関係ありません。
仮面夫婦【43】
翌日倫子は、夫の直樹を送り出し朝食の後片付け済まし、
昨夜の余韻に浸りながらルンルン気分で部屋の掃除をして
いるとチャイムの音がなった。
『誰かしら?』
倫子は先日から、あの忌まわしい男が押しかけてくるので
はないかと怯えていた。
恐る恐るインターホンの受話器を撮り応答すると、父の病
院で内科外来師長をしている岩田富枝だと分かり招き入れ
た。
岩田富枝は永年看護師として村瀬総合病院に勤め、院長
である倫子の父・徹の外来診察を担当していた。
倫子の幼い頃から村瀬家に出入りしており、倫子の母が
勘ぐってヤキモチを焼いていた程である。
その様な親しい人物であるから、倫子にとっては信頼で
きる人間であった。
『富枝さん、お久しぶりです。でも、珍しいですね。私の
ところに顔を出してくれるなんて』
倫子は、ドアを開けるなり明るく声をかけた。
『院長先生の所に伺った帰りなの』
『父のところへ。えっ?今日、父は病院を休んでいるの』
『ちょっと、先日からお具合が悪くて』
『橋本は、昨夜そのようなこと言わなかったけど』
『現時点ではどうか分かりませんが、昨日の時点では
副院長先生はご存知ではなかったと思うわ』
『そうなの。私なんか父のことなのに近くに住んでいな
がら気がつかなくて』
倫子は、バツの悪そうな表情で言った。
『でも倫子お嬢様、橋本先生とご結婚なされていて良か
ったですよ。以前お付き合いされていた歯科の先生じゃ、
院長先生が倒れられたら』
『父は、そんなに悪いの?』
『いえいえ、わたしなんかにはどうも、橋本先生に聞い
て』