この物語はフィクションで登場人物他
実在するものと何ら関係ありません。
(ホテルウーマン中村裕美の闘い・続編)
ホスピタリティ・ホテルウーマン中村裕美2011
ホテル帝都グランド大阪研修生 【39】
麻耶は、その客室の中を見て目を見張った。
都倉は、大阪に査察に来ればいつもホテルに宿泊していたが、今回利用している
帝都グランド大阪は初めてだ。
どういうわけか今回、ツインの部屋を利用しており、何を目論んでか豪華な部屋で
ある。
レースのカーテン越しに夜の大阪の街のネオンが映し出されている。
『素晴らしい眺めのお部屋ですね』と声をかけながら窓際の方に、麻耶は歩みかけ
たが、二つのベッドが並んでいるのが気になり、離れて入り口側のソファーに腰を降
ろした。
麻耶は部屋を見回しながら、誕生日かクリスマスイブに好きな恋人からここで祝い
をしようと語られると躍り上がって喜びそうな部屋だ と考えながら、都倉の言葉
を待った。
都倉哲也、45才。ホテル都倉チエーンの社長である都倉昌也の甥っ子だ。
ホテル都倉チエーンは株式上場会社であるが、株式の大半は都倉一族で確保さ
れていて、この都倉哲也の力も凄いものだ。
麻耶が得ているホテル都倉大阪の支配人というポストも、この男の一言でいつでも
いとも簡単に取り外される。
「最近の営業会議で、大阪の稼働率のことが問題になってね」と、都倉が冒頭から
麻耶を責めこむような話を切り出してきた。
えっ、いつもと話の運びが違うわ。いつもなら冒頭20分ほど査察での話を
したあと、じわじわと責めるように話を進めわたしを追い込んでくるのに、今日は最初
から・・・・・・・、これじゃあ打ち合わせ通りに岩谷が来るまで持ちはしない、と考えな
がら
『遊ばす部屋が無いように、22時から半額での部屋の売り出しと、昨日からは終電
車に乗り遅れ今まではカプセルやサウナに流れていたお客様を確保する様に努力して
いるんですが』と、答えながら麻耶は都倉を見つめた。
都倉は缶ビール二つを手に、
「会議の席では、支配人の首のすげ替えを提案してくる族(やから)もいる、しかし僕
はきみの働きを見て知っているからそれを止めているんだがね」と言いながら、わざわざ
体を摺り寄せるように麻耶の横に腰を降ろした。
都倉は手にしていた缶ビールの一つを麻耶の前に差し出し
「どうだ、きみも一口飲まないか」と言って、麻耶の前のテーブルの上に置いた。
麻耶は、手を横に振りながら
『わたしは、結構です』と断った後、
『都倉部長には、いつもわたしの為にお力添えを頂き感謝しています』と言った。
都倉は
「なあに、本部の部長である僕と大阪の支配人のきみとの付き合いの仲じゃないか、
しかしきみは僕には冷たいがな」と言いながら、手をそっと麻耶の膝の上に置いた。
麻耶は、その手を見つめながら
この手が動かされたなら振り払うべきか、目をつぶり好きなようにさせるべきかと
考えた後、目で壁にかけられた時計の針を追った。
まだ、8時10分だ。こうなるのなら、岩谷に8時20分と言わずに10分と言えば
良かった、と後悔した。