この物語はフィクションです。
実在するものとは一切関係ありません。
仮面夫婦【48】
村瀬総合病院院長村瀬徹のオペ当日、整形外科で
もオペがあったが多い件数ではなく、オペ室に顔を出
そうと思えば顔を出せたが出さず、また妻や義母のい
るオペ室待合室にも直樹は顔を出さなかった。
昼食時、事務長が言いにくそうに一枚の用紙に承認
印を求めてやってきた。
それは先日、徹が言っていた山本医師を副院長に任
ずる辞令を出すための書類だ。
そこには徹が言っていたように副院長二人体制を敷く
中で直樹の方を院長代行をも兼務する旨が書き添えら
れてあった。
直樹は何を思ったか、書き添えられた文言の上に赤線
を引き、同じ文言を山本の名前の所に黒字で付け加えた。
秘書の優美を呼び
「これを事務長のところへ」と事務的に言った。
夕方近くになってオペ室から、院長のオペが終わりICU
に入ったと連絡があった。
直樹は部屋の掛け時計を眺め、6時間もかかったか、と
つぶやく様に言うと、立ち上がりICUに向かった。
義母が廊下で窓越しに中の院長の様子を、一心に見つ
めていた。
倫子は?と、妻を探し求めると、離れたところで山本と顔
を近づけ説明を受けていた。
直樹が近づいていくと、気づいた二人はパッと離れた。
実際のところ、倫子は山本Drからオペの結果と今後に
ついての説明を受けていたのであろうが、二人の慌てた様
子から直樹は、おいおいおまえら何を話していやがったんだ、
と考えながら
「山本先生、お疲れ様でした。ありがとうございました」と
声をかけた。
「あっ、副院長、お疲れ様です。オペは成功です。無事
終了致しました。リンパの処置も丁寧に充分してあります
ので転移の心配も少ないでしょう。いま奥様に説明させて
いただきましたが」
奥様?誰の?俺の?直樹が山本Drの言葉を思い巡ら
せていると、山本が言葉を止め倫子に視線を投げかけ、
倫子が視線を受けるかの様に山本を見つめ頷いた。
直樹は、倫子のことかと思いつつも二人の視線のキャ
ッチボールに何かを感じた。
山本の説明は続いた
「院長の胃を引き上げ食道の切除した部分の代用に
していますので、今までの1回の食事量を何回にも分
け摂取ということになりますので・・・・・」
直樹は、山本の説明を上の空で聞いていた。
とはいっても、山本の説明内容は百も承知していた。
《つづく》
