(1988)
朝日を浴びて
奏でられている
1階の部屋にあるピアノの中が
俺の居場所だとわかったとき
わけもわからず家を飛び出していた
どうしたらいいんだ
どうしたらいいんだ
今やあの娘の顔も
思い出せやしない
朝から子供と遊ぶ
親父の顔が犬に見えてきた
噛みつくなら噛みついてみろ
叩き殺してやるから
行きずりの街は俺に似合いもせず
そんな事は充分知っていた
俺には何の力もなく
傷口さえ一人で塞げやしない
やがて何の迷いも無くなったとき
地獄から抜け出すことを考える
崖の上から見つめた景色は
頭から足の先まで空気が通るのを感じた
始発の電車に乗り込んでくる
女の身体は夜の匂い
酒の甘さに震えながら
乞食と同じ影が映る
ホームに倒れたこの俺を
助け起こす奴もなく
まばらになった人影を
呟きながら睨んでいた
このままじゃいけない
このままじゃいけない
何も見えない
本当のことは誰も知らない
変更された日付を見て
自分の消える日を思い知らされた
毎日 話す言葉もなく
ただ見つめあった二人は
群がる見物人に邪魔されながらも
俺とお前とまだ見ぬ命は
パラダイスに駆け上がる
空に浮かんだ靴の跡には
何人もの目撃者が口をそろえ
一瞬の出来事だったと
瞬きもせずに吠えまくる
馬鹿者達よ
よく俺の声を聞け
それまでにどれほど苦しんだことか
わかるはずも無い
わかってほしくない
ただ俺たちは
まったくこの国が似合わないだけ
新聞に書きたてられた消息はわからず
「どうして
もっと早く私に知らせてくれなかった」と
テレビの評論家が わめいている
冗談じゃない お前に何がわかるんだ
いつの日にかすべてを無くして
あの日空に向かった三人の気持ちは
「これだったのか」と
お前を必ず泣かせよう
いつまでたっても
何代かかっても
俺はそれまでピアノの中にいる
この国のすべての奴らのために