○山では、いろんな出会いと別れがある。特に、屋久島の宮之浦岳登山は、基本、一本道だから、追い越したり、あるいは、追い越されてたりして、様々な登山客との遭遇がある。

○正確に言うと、すでに、鹿児島からのフェリーで、その出会いは始まっている。当古代文化研究所は、屋久島行きのフェリーでは、客室を利用したことは一回もない。いつも、展望ラウンジで過ごす。と言うのも、霧島山や桜島山、高隅山、開聞岳の写真撮影に忙しいからである。

○今回の屋久島訪問でも、国分駅か隼人駅から乗って来た方と紀元杉のバス停まで、一緒だった。お互い、何となく、そのスタイルと雰囲気で、屋久島登山だと判る。そのうち、自然と話をするようになる。

○フェリーの展望ラウンジには、数組の客が居たが、その半分以上は登山客だった。フェリーを降りてみて判ったのだが、そのほとんどが安房行きのバスに乗り、紀元杉まで一緒だった。その中の何人かとは、すでに、フェリーの中で話したくらいである。

○フェリー客の中に、女性二人連れの登山客が居た。その二人には、投石平あたりで追い抜かれた。若い女性と年配の女性の二人連れだった。その二人に、高塚小屋で再度、出会った。

○道中、当古代文化研究所は、出来たら、楠川分岐か、大株歩道終点あたりに泊まりたいと希望していた。女性二人連れとは、そういう話をしていた。ところが、思いの外、荷物の重さに難儀して、全然、先へ進まない。とうとう途中で、バテてしまった。

○新高塚小屋と高塚小屋の中間くらいで、バテている最中に、若い男がやって来た。「大丈夫ですか？」と、声まで掛けていただいた。新高塚小屋まで行ったら、三組しか客が居なかったので、これなら高塚小屋に泊まれるだろうと思ってやって来たとおっしゃる。

○「私も高塚小屋に泊まりたい。先に行って、私の寝るところも確保しておいてください。」とお願いした。若者は「頑張ってください。たぶん、大丈夫ですよ。」と言って先へ行った。

○高塚小屋に着いたのは、18時54分だった。もう薄暗くなりかけていた。こんな山行をしてはいけないと言う典型である。この日、12時間以上も歩いている。それだけ、体力が落ちている証左である。散々な一日だった。

○高塚小屋には、先行していた女性二人連れが、ちょうど、食事を終えたところだった。随分置いて行かれたものである。若者は水汲みに行っているとのことだった。再び出会って、その女性二人連れと、さらに話した。

○二人は、何と親子だと言う。最初、母親が登山に目覚め、いろんな山に出掛けて行ったと言う。そのうちに、娘も登山を始めて、今では、娘の方が夢中になっているとおっしゃる。母親の年齢を聞くと、丑年で同級生だと言うことが判って大笑いした。

○そのうちに、若者が帰って来て、「水はたくさんありますよ、自由に使ってくだいさい。」とおっしゃるので、お言葉に甘えることとした。お陰で、何もせずに、夕食を済ませることができた。旅は道連れ、何とも有り難い話である。

○その若者は屋久島に惹かれ、夢中になっていると言う。もう何度も屋久島を訪れているとおっしゃる。その若者から。実に興味深い話を聞いた。それが『朝日に匂ふ縄文杉』である。

○縄文杉は東向きに立っていて、朝の日の出の時刻に、数分だけ、光り輝くとおっしゃる。初めて聞いた話で、驚いた。そんな神々しい縄文杉を是非とも見てみたい。若者の話では、今の時期、5時15分ころが日の出だと言う。それなら、何とか、見ることが出来そうである。

○翌日、2024年6月3日は、4時過ぎに目覚めた。最初の予定では、朝4時に小屋を出発するつもりだったが、女性二人連れが荒川登山口に、12時にタクシーを呼んでいるとおっしゃる。良かったら一緒にどうぞとおっしゃるので、お言葉に甘えることとした。

○6時前に小屋を出発したら、荒川登山口には12時前に着くだろうと考えた。しかし、この考えが何とも甘いものだったことを後から後悔させられた。その話は次回に。

○朝、5時には、縄文杉の前に立って、日の出を待った。若者の調べでは5時15分前後が日の出の時刻だと言う。待つ身は辛い。なかなか時間がすぎない。やっと5時15分になったが、一向に日が昇る気配が無い。今日は曇りで駄目かも知れない。

○女性二人連れは、諦めて、5時20分には、山を下って行った。残りは、私と若者と、全員で5名だった。5時30分を過ぎても、日は昇らない。もう駄目だろうと諦めて、若者に感謝の言葉を掛けていた時、奇跡が起こった。

○この日、縄文杉に日の出が射したのは、５時39分だった。感動し、夢中で写真を撮った。縄文杉に太陽が照ったのは、５時３９分から４１分までの、わずか２分間だった。そういう時間を共有出来て、５人で喜び合った。まさに袖振り合うも多生の縁なのだろう。