正倉院宝物:王勃詩序 | 古代文化研究所

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古代文化には、多くの疑問や問題が存在する。そういうものを日向国から検証していきたい。

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○王勃の「秋日登洪府滕王閣餞別序」を何とか読み終えることが出来た。読んでいる最中、王勃と「秋日登洪府滕王閣餞別序」について、いろいろと調べた。

○そうしている中に、正倉院宝物に「王勃詩序」が存在していることを知った。正倉院宝物「王勃詩序」の成立は、書写奥書から『慶雲四年(707)七月廿六日』だということが判っている。王勃の没年は676年とされるから、没後30年ほどである。

○現在、私たちが読んでいる王勃「秋日登洪府滕王閣餞別序」は、「古文真宝」後集を原文としている。「古文真宝」の成立は宋末から元初とされるから、随分、後世のものであることが判る。

○インターネットで検索していたら、中国通信社の次のページを見付けた。

      『滕王閣序』「日本版」が出現 諸々の「謎」解き可能に
                     2009:12月25日付
 (中国通信=東京)南昌12日発新華社電によると、江南の三大名楼の一つ滕王閣の名を大いに高めた唐代の有名な詩人王勃の千古の名著『滕王閣序』にこのほど、「日本版」が出現した。しかも約4分の1の内容が現在の「中国版」とは違っているのだ。江西「滕学」の専門家は、日本版『滕王閣序』によって諸々の歴史文化の「謎」解きができるようだと話している。
 記者は9日開かれた江西省滕王閣文化促進会設立大会で、各方面の努力で入手された日本版『滕王閣序』のコピーを目撃した。
 滕学と文物考古学専門家の陳江氏は設立大会で、「さらに深く滕王閣文化を発掘するため、私は何回も日本に赴き、宮内庁正倉院に所蔵されている唐孤本手書き本『滕王閣序』を目にした。それは業界で現存する最も古い『滕王閣序』墨跡で、王勃が『滕王閣序』を書いた後20年余りで日本に入ってきたものとされている」と語った。
 陳氏はさらに、こう語った。日本版『滕王閣序』はすでに国宝なっている。文字の比較によってその4分の1の内容は中国版の『滕王閣序』と違うことが分かった。例えば、「南昌故郡、洪都新府、星分翼軫、地接衡廬……」は『滕王閣序』の第一句であるが、「日本版」では、この句が豫章故郡、洪都新府、星分翼軫、地接衡廬……」となっている。
  http://www.china-news.co.jp/node/3720

○別に、道坂昭廣の『王勃「滕王閣序」中の「勃三尺微命、一介書生」句の解釈について』と言う論文も見付けた。

      王勃「滕王閣序」中の「勃三尺微命、一介書生」句の解釈について
                           道坂昭廣
   「秋日登洪府滕王閣餞別序」(以下「滕王閣序」と略す)は、多くの典拠をちりばめ、様々な字
  数の対句を連用しつつ平仄配置もほぼ整斉と、王勃の代表作であるばかりでなく、中国文学史上、
  優れた駢文作品の一つと評される。
   ところで、奈良の正倉院に「王勃詩序」と称される巻子本(以下正倉院本と称する)が伝存し
  ていることは、周知のことであるが、末尾に「慶雲四年」(707 年)という紀年があり、王勃没
  後30 年ほど後に書写された、現存する最古の『王勃集』の一部と見なされる。古いばかりでは
  なく、かなり正確に書写されていると見なすことが出来、テキストとしても信頼性が高い(1)。
  その抄写された41 篇の序作品の中に、「滕王閣序」も含まれている(図1)。『文苑英華』所載の
  「滕王閣序」とは、数え方にもよるが59 箇所の異同がある。その内の幾つかは、新たな解釈の可能
  性を示す文字や、従来の解釈に改変を迫る句が含まれている。
  http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/171649/1/rek10_001.pdf#search='%E6%AD%A3%E5%80%89%E9%99%A2%E5%AE%9D%E7%89%A9%EF%BC%9A%E8%A9%A9%E5%BA%8F';

○甚だ面白い話で、正倉院宝物「王勃詩序」が気になって仕方が無い。折角、王勃の「秋日登洪府滕王閣餞別序」を通読したのに、その原文が王勃の創作とは、かなり食い違っていると言う。正倉院宝物「王勃詩序」で確認するしかないわけであるが、何しろ、奈良は遠い。しばらく、我慢するしかない。

●実は、王勃の「秋日登洪府滕王閣餞別序」を読んで、私自身、気になって仕方がないことがある。それは、奇しくも、上記案内した、道坂昭廣の『王勃「滕王閣序」中の「勃三尺微命、一介書生」句の解釈について』の部分である。

●王勃の「秋日登洪府滕王閣餞別序」全文は、計773字で書かれている。節に分けると、
  ・第1節:148字  ・第2節:82字  ・第3節:80字  ・第4節:138字
  ・第5節:116字  ・第6節:89字  ・第7節:64字  ・第8節:56字
となる。全文を眺めていると、どうしても『第6節:89字』が異常と言うしかない。もともと、第6節は90字だったのではないか。それで全字数774字となる。

●もちろん、それには、幾つか理由がある。なかでも、もっとも気になるのは、各節の冒頭である。
  ・第5節:  嗟乎!時運不齊,命途多舛。
  ・第6節:  勃、三尺微命,一介書生。
  ・第7節:  嗚呼!勝地不常,盛筵難再。

●第5節で、『嗟乎!時運不齊』と嘆き、第7節で、『嗚呼!勝地不常』と嘆くのであれば、当然、第6節でも、『○○!三尺微命』と嘆くのが自然だろう。それが『勃、三尺微命』であるのは、如何にも不自然極まりない。王勃ほどの潔癖性が、それを許すことはあり得ない。

●おそらく、第6節『勃、三尺微命』は、『唉勃、三尺微命』もしくは『王勃、三尺微命』だったのではないか。そうすれば、字数も全774字で、辻褄が合う。

○奈良へは結構出掛けているが、正倉院や奈良国立博物館前は、素通りばかりしている。機会を見付けて、奈良へ行き、正倉院や奈良国立博物館を訪れてみたい。尚、インターネットでは、以下の催し物が案内されていた。参考までに。

      奈良国立博物館における天皇皇后両陛下傘寿記念『第66回 正倉院展』
   本年の正倉院展には、北倉6件、中倉28件、南倉22件、聖語蔵(しょうごぞう)3件の、合わせて59件
  の宝物が出陳されます。そのうち初出陳の宝物は6件です。例年通り正倉院宝物の概要と来歴がわか
  るような内容・構成となっておりますが、天皇皇后両陛下の傘寿を慶祝するような、華やかな宝物が
  揃っているのが特色といえます。
  http://www.narahaku.go.jp/exhibition/2014toku/shosoin/2014shosoin_index.html
  ・会期:  平成26年10月24日(金)~11月12日(水) 全20日