岳飛:滿江紅・登黄鶴樓有感 | 古代文化研究所

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古代文化には、多くの疑問や問題が存在する。そういうものを日向国から検証していきたい。

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○これまで、岳陽楼に関する詩文について、范仲淹の「岳陽楼記」から始めて、査慎行の「中秋夜洞庭湖対月歌」詩まで、40個のブログを書き、黄鶴楼に関しても、李白の「與史郎中欽聽黄鶴樓上吹笛」詩から始めて、この、岳飛の「滿江紅・登黄鶴樓有感」までで、30個のブログを書くことになる。

○岳陽楼や黄鶴楼に関する詩文は、まだまだ沢山存在するし、佳詩も多いのだけれども、旅行記が先にまるで進まない。黄鶴楼に関する詩も、今回で、ちょうど30個になるので、今回で一応、終了としたい。

○黄鶴楼に関する詩文の最後は、岳飛の「滿江紅・登黄鶴樓有感」で、閉めることとしたい。岳飛は、日本では、あまり知られていない人物だが、中国では、民族英雄として、誰でも知っている。かの孫文に、
  ・岳飛魂、是中華民族的精神代表、也就是民族魂。
と言わせる程の人物である。

○その岳飛に、「滿江紅・登黄鶴樓有感」がある。中国では、よく知られた詩文なのだろうが、日本では知る人も少ないのではないか。原文、書き下し文、私訳は、次の通り。

  【原文】
      滿江紅・登黄鶴樓有感
    遙望中原、荒煙外、許多城郭。
    想當年、花遮柳護、鳳樓龍閣。
    萬歲山前珠翠繞、蓬壺殿裡笙歌作。
    到而今、鐵騎滿郊畿、風塵惡。

    兵安在?膏鋒鍔。民安在?填溝壑。
    嘆江山如故、千村寥落。
    何日請纓提銳旅、一鞭直渡清河洛。
    却歸來、再續漢陽游、騎黄鶴。

  【書き下し文】
      滿江紅・黄鶴樓に登るに感有り
    遙望たる中原、荒煙の外、許多の城郭。
    當年想ふに、花の遮り柳の護る、鳳の樓、龍の閣。
    萬歳山の前珠翠繞、蓬壺殿の裡に笙歌を作す。
    到りて今、鐵騎郊畿に滿ち、風塵の惡し。

    兵の安くにか在る?膏鋒鍔。民の安くにか在る?填溝壑。
    江山は故の如くなるに、千村の寥落するを嘆く。
    何れの日か、請ふ、纓の銳を提いる旅をし、一たび鞭して直に清河洛を渡らんことを。
    却つて歸り來つて,再び漢陽游を續けん、黄鶴に騎って。

  【我が儘勝手な私訳】
      黄鶴楼に登楼して、想う所を述べる
    黄鶴楼に登り、遙か彼方を眺めることである。
    ここから遙か彼方に、中国人民の故郷、中原が存在するのだ。
    そこに至るには荒凉たる地方と、許多の町を通過しなくてはならない。
    過去を振り返ると、この黄鶴楼は、花が遮り、柳が護って来たかのように、
    多くの文化に彩られ、鳳凰が棲み、龍が居住する高楼なのである。
    中原にある北宋の都、開封には、宋の徽宗が造営した萬歳山が存在し、
    そこでは、美女が蓬壺殿の裡に笙歌を作しているに違いない。
    その開封は、今現在、金の軍隊が都を覆い尽くしていて、荒涼とした光景を呈している。
  
    武器は何処にあると言うのだろうか? 切れ味鋭い武器は?
    人民は何処に居ると言うのだろうか? 安心して住める国は?
    大自然は、川も山も、昔と同じなのに、多くの都市は没落を極めているのが悲しい。
    何時の日か、長征軍を率いる旅を続けて、
    馬に鞭して、直接中原の河洛に攻め入ることを、願わずにはいられない。
    そして、再び、この地、漢陽に帰って来たい、堂々、黄鶴に跨って。

○英雄詩として、申し分無い風格があり、内容となっている。「滿江紅」は、詩型の一つで、中国の検索エンジン百度の百度百科には、次のような説明がある。

      满江红[mǎn jiāng hóng]
   满江红,著名的词牌名之一。传唱最广的是岳飞的《满江红·怒发冲冠》。词中“三十功名尘与土,
  八千里路云和月”及“莫等闲,白了少年头,空悲切”更是经典之作。另外,苏轼、毛泽东、辛弃疾等
  大家的《满江红》词也非常著名。

○岳飛は「滿江紅」を得意としたのであろうか。因みに、百度百科が載せる「满江红·怒发冲冠」は、次の通り。

      满江红·怒发冲冠
   《满江红·怒发冲冠》是南宋大英雄岳飞创作的一首词。此词是脍炙人口的名篇。它表现了作者抗击
  金兵、收复故土、统一祖国的强烈的爱国精神,流传很广,深受人民的喜爱。
  【作品原文】
      满江红·怒发冲冠
  怒发冲冠,凭栏处,潇潇雨歇。
  抬望眼,仰天长啸,壮怀激烈。
  三十功名尘与土,八千里路云和月。
  莫等闲,白了少年头,空悲切!
  靖康耻,犹未雪,臣子恨,何时灭?
  驾长车,踏破贺兰山缺。
  壮志饥餐胡虏肉,笑谈渴饮匈奴血。
  待从头,收拾旧山河,朝天阙!
詳しくは、以下を参照されたい。
  http://baike.baidu.com/view/1231195.htm

○岳飛「滿江紅・登黄鶴樓有感」が、時空を超えた、実に堂々たる韻文であることに感心する。これが武人の作であることが信じられないくらいである。中国の方が、この作品を愛唱する意味が納得される。

○ただ、日本人には、字義の細部が、なかなかよく理解出来ない。母国語であって始めて、真の意味は理解出来るに違いない。もともと、韻文は、そういう性格のものである。私の力量では、これくらい訳すのが精一杯である。

○よくよく考えたら、肝心の岳飛の紹介を忘れていた。百度百科が載せる岳飛は、次の通り。

      岳飞
   岳飞(1103-1142),字鹏举,宋相州汤阴县永和乡孝悌里(今河南省安阳市汤阴县程岗村)人,中
  国历史上著名的军事家、战略家、民族英雄[1-3],位列南宋中兴四将之首。他于北宋末年投军,从112
  8年遇宗泽起到1141年为止的十余年间,率领岳家军同金军进行了大小数百次战斗,所向披靡,“位至
  将相”。1140年,完颜兀术毁盟攻宋,岳飞挥师北伐,先后收复郑州、洛阳等地,又于郾城、颍昌大败
  金军,进军朱仙镇。宋高宗、秦桧却一意求和,以十二道金牌下令退兵,岳飞在孤立无援之下被迫班
  师。在宋金议和过程中,岳飞遭受秦桧、张俊等人的诬陷,被捕入狱。1142年1月,岳飞以“莫须有”
  的“谋反”罪名与长子岳云和部将张宪同被朝廷杀害。宋孝宗时岳飞冤狱被平反,改葬于西湖畔栖霞
  岭。后又追谥武穆、忠武,追封鄂王。
詳しくは、以下を参照されたい。
  http://baike.baidu.com/view/2545.htm

○中国各地に岳王廟が存在する。私が参詣したのは、西湖湖畔に存在する岳王廟である。詳しくは、以下を参照されたい。
  ・書庫「白居易の愛した佛都・杭州」:ブログ『岳飛~中国の英雄~』
  http://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/37250143.html
  ・書庫「白居易の愛した佛都・杭州」:ブログ『岳王廟』
  http://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/37253307.html