○今回は李白の『対酒憶賀監』詩、其の一である。李白は『対酒憶賀監』と題して二首を残している。この詩には、次の序を載せている。
“太子賓客”賀公。于長安紫極宮一見余。
呼余為“謫仙人”。因解金亀換酒為楽。
歿后対酒。悵然有懐,而作是詩。
○李白『対酒憶賀監~其の一~』詩は、次の通り。
対酒憶賀監二首
李白原序:“太子賓客”賀公。于長安紫極宮一見余。呼余為“謫仙人”。
因解金亀換酒為楽。歿后対酒。悵然有懐,而作是詩。)
四明有狂客
風流賀季真
長安一相見
呼我謫仙人
昔好杯中物
翻為松下塵
金亀換酒処
却憶涙沾巾
【書き下し文】
酒に対し、賀監を憶ふ
【李白原序】:“太子賓客”賀公は、長安の紫極宮に余を一見し、
余を呼ぶに“謫仙人”と為す。因りて金亀を解き、酒に換へ、楽しみを為す。
(賀公)歿后、酒に対し、悵然として懐有り、而して是の詩を作る。
四明に狂客有り、
風流なる賀季真。
長安に一たび相見、
我を呼ぶに、謫仙人。
昔好む、杯中の物、
翻つて為る、松下の塵。
金亀、酒に換ふる処、
却つて憶ふ、涙沾の巾。
【我が儘勝手な私訳】
会稽に飛び抜けての風流人が居る、
その人の名は賀季真と言う。
私は彼と長安紫禁城で一回だけ会ったことがある。
その時、私は41歳、彼は83歳の老人だった。
賀季真は、ふざけて私を『謫仙人』と呼んでくれた。
『謫仙人』とは人間界に堕とされた仙人の意で、これ以上の名誉はない。
その賀季真が酒好きであったことを懐かしく思い出した。
その賀季真が今は墓の中に眠っている。
私が紫禁城で賀季真に会った時、彼は金の帯飾りを売って酒を買って飲ませてくれた。
今、酒を飲もうとして賀季真を思い出し、涙を流さずには居られない。
○詩仙、李白に、こういう詩を創らせる賀知章がどんなに魅力的な人物であったかが判る。『四明狂客』は、賀知章の自称だったとされるけれども、李白はそれをよく生かして詩を作っている。また、『四明狂客』ほど、賀知章に相応しい呼称はない。
○绍兴贺知章秘监祠に、この李白の『対酒憶賀監』詩が壁書されていた。賀知章を案内するのに、最も相応しい表現であることは言うまでも無かろう。