花之江河 | 古代文化研究所

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古代文化には、多くの疑問や問題が存在する。そういうものを日向国から検証していきたい。

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○また、「三国名勝図會」は、二葉の図入りで、詳細に、花之江河について記録していることにも驚かされる。

    【花乃江川(ハナノエゴウ)】
   湯泊村より北の方、八里山中にあり。(平内村よりも路あり)江川は、方言『えごう』といふ。此
  花之江川に、小花江川、大花江川とて、二ケ所あり。其地八里深山の奥なれば、山嶺を踰へ、渓水を
  渡ること千百の数を知らず、路程の危険、一々述がたし。其路程半里許の間は、巌壁に木を横たへて
  桟を通し、或は樹を懸て、梯木とする処あり。千辛萬苦して登るに、縹緲たる彩雲の間、忽ち豁然と
  して、別に一乾坤を開きたるが如く、絶勝の地に至る。是花江川にして、先つ小花江川あり。(平内
  村よりなれば、先大花江川に至り、次に小花江川なり。)其風景四山の間に、東西一町半、南北半町
  許なる、平坦の地、一面芝原にして雑艸なし。其芝原の中、池沼大小相連れり。其形灣曲をなして、
  澄清底に徹す。其中に洲嶼羅列せり。又芝原南北の両邊に二川あり。共に西より東に流れ、其東側に
  て相合し、一水となり、幽渓の間に注ぐ。又芝原の中、石楠華と白檀樹、処々に連生して、或は疎分
  し、或は蜜合して、景致甚佳なり。其二木、両川の左右に最多く、両山には殊に鬱茂せり。さて大花
  江川は、この小花江川より、四五町西の方にあり。其間一山を隔たる故、相見えず。其路少し下り坂
  あり。大花江川の地形、大凡そ小花江川にに類して、更に大なり。其地東西七八町、南北二三町許、
  平坦にして、一面芝原なり。地勢東より西へ稍轉曲せり。其四面は、青山圍繞して、蒼翠掬すべし。
  芝原の中に一川あり。(川幅一二間、深さ五六寸)緩流にして急ならず。澄清沙を数ふべし。其下流
  の方に水灣あり。池沼となりて、大小相連れり。其池沼の中には、洲嶼點綴して、方圓高低を分つ。
  遍地石楠華白檀樹叢生して、四邊の山下には最多し。他木は更にあることなし。或は清流を夾みて断
  続対列し、或は芝原の中に、縦横左右に分合せり。或は一株蟠屈し、或は衆株接連し、其遠近羅列の
  景状、巧妙にして、人巧も及びがたし。又其木は大小あり。石楠華の枝葉地に垂著き、其大なる者は、
  四周十間ばかり、枝葉整齊にして、剪剔たるが如し。白檀の枝葉も又地に垂れ布けり。幾株相合せる
  はしれざれども、広さ一段許の者もあり。共に其状態甚奇なりとす。(小花江川も、二木の形状又同
  じ)左右の両山、形勢奇峻にして、彼二木殊に鬱然たり。北方の山面には巌石層立して懸崖多し。山
  腹以上は雑樹ありて、古木半朽たる者隠見して、景勝更に殊なり。芝原の入口、西の方に、周廻六七
  間許なる小埠の如き所あり。其上に大樹一株ありて、神と崇め、土人禮拝して賽銭等を献ぜり。さて
  大小の花江川、共に石楠華の開ける時は、満地盡く錦繍と變し、霞彩を簇し、清香馥郁として、遠近
  に薫し、別に一段の景色を添へ、仙宮閬苑の珠樹玉林にも擬すべし。又二江川の川池芝原曾て纎塵點
  埃のありしことなく、常に灑掃したるが如くありて、遊覧の者、奇とせざる者なし。この二江川の総状、
  譬は深山の中に、畳山剰水を設けたるが如くにて、天然の妙、筆紙具に寫し難し。島人傳へいふ、神
  仙遊息の秘區、時あつてか、仙樂をを奏ずる、簫鼓清朗の音ありと。かくて帰路に赴き、山を下るに
  は、登陟よりはますます危険にして、断嵓絶壁目を眩して、自由に下るばからず。故に梯子より下る
  が如く、身と背にし、静かに足を運ぶとなり。かかる不思議の霊境奇勝なれども、其僻島深山の中に
  在て、山路の危険甚だしき所なれば、假令屋久に至る者も、遊覧する者稀にして、其名天下に顕はれ
  ず。其遊覧の人は、手を打て、其奇勝を嘆賞せざる者なし。

○これまで、勝手に『花之江河』は、『花之江の河』の意とばかり思っていた。しかし、上記の記事に拠れば、本来、『花』の『江川』と言うことであって、『花之』は、『江川』の美称に過ぎない。『花之江河』があまりに美しいので、『花之江河』と命名されたことが判る。

○今は安房からバスで紀元杉まで行くことが出来、それから歩いて、淀川入口・淀川小屋・小花之江河を経て、花之江河までは三時間ほどで行くことが出来る。「三国名勝図會」の時代は、湯泊歩道がメインルートであったようである。

○現代でも、湯泊歩道で湯泊集落から花之江河まで歩けば十時間以上を要するらしい。その行程は、一般的な宮之浦岳登山の、淀川小屋から宮之浦岳経由高塚小屋までが七時間余りであるのに比較すれば、どれだけ大変であるかが判る。淀川小屋(1400叩泡宮之浦岳(1936叩泡高塚小屋(1330叩砲良弦盧垢蓮■毅械境壇个蝓■僑娃境嘆爾襦それに対して、湯泊集落(67叩砲ら花之江河(1630叩砲悗蓮¬鵤隠僑娃悪辰發良弦盧垢あり、全て登りである。

○湯泊歩道を登る元気はないが、一回は下ってみたい歩道である。屋久島は一周百キロほどの島であるが、山登りするところはいくらでも存在する。山好きにはたまらない島である。

○花之江河の命名は、「三国名勝図會」が記すように、『石楠花之江河』が本義なのであろう。屋久島には別に花山歩道がある。永田岳から鹿之沢小屋を経て、大川に至る歩道である。おそらくここも石楠花山歩道なのではないか。まだ未踏未見であるからして、確信があるわけではないが。