吉野山は何者か⑫ー「可愛・吉・延」の表記法 | 古代文化研究所

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古代文化には、多くの疑問や問題が存在する。そういうものを日向国から検証していきたい。

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○それでは、実際に、「古事記」「日本書紀」「万葉集」では、「可愛・吉・延」の三文字はどれくらいの頻度で使用されているのだろうか。「古事記」「日本書紀」「万葉集」に、その全使用例を探してみる。原本は岩波「日本古典文学大系」本を使用した。

○まず、古事記における「可愛・吉・延」の三文字の全使用例を探してみると、以下のようになる。

  可愛ーーー使用例無し
   吉ーーー「よ・よし」と読むーーー10回
             (内、「吉野」で使用ーーー 5回)
          「き」と読むーーー20回
             (内、「吉備」で使用ーーー17回)
             (内、「吉師」で使用ーーー 3回)
   延ーーー   「え」と読むーーー30回
         「はふ」と読むーーー 1回

●古事記では、「可愛」の表記は無くて、「吉」は「よ・よし」と読むか、「き」と読むかの二通りである。また、「延」はほとんど「え」と読み、「はへ」と読む例が一例あるだけである。

○次に、日本書紀の使用例を探すと、次のようになる。

  可愛ーーー「え」と読むーーー  7回
   吉ーーー「き・きち」ーーー128回
             (内、「吉備」で使用ーーー60回)
             (内、「吉士」で使用ーーー52回)
             (内、「吉師」で使用ーーー 4回)
       「よ・よし」ーーー89回
             (内、「吉野」で使用ーーー73回)
       「え」と読むーーー11回
             (内、「住吉」で使用ーーー11回)
   延ーーー「え」と読むーーー  1回

●日本書紀では、「可愛」の表記が7回、「吉」は「き・きち」と読む例が多く、「よ・よし」の使用例も相当数に上る。「え」の使用例もあるが、すべて「住吉」表記である。「延」の使用例は、僅かに一例のみに過ぎない。

○最後に、万葉集の使用例を示すと、次のようになる。

  可愛ーーー使用例無し
   吉ーーー「き」と読むーーー244回
       「よ・よし」ーーー 93回
             (内、「吉野」で使用ーーー33回)
       「え」と読むーーー 31回
             (内、「住吉」で使用ーーー31回)
   延ーーー「え」と読むーーー 50回
       「ひく」と読むーーー 3回
       「はふ」と読むーーー 4回

●万葉集にも、「可愛」の表記は見られない。「吉」は「き」と読む例が多く、「よ・よし」も相当数に上っている。「え」と読む例はすべて「住吉」表記である。「延」の表記は、ほとんど「え」と読んでいるが、「ひく」「はふ」例も少し見られる。

○分かるように、「古事記」「日本書紀」「万葉集」における、「可愛・吉・延」三文字の表記法は、それぞれが極めて独特の表記法であって、必ずしも一致しているわけではない。その理由としては、史書と和歌集の違いとか、いろいろと考えられるわけであるが、ここから、「可愛・吉・延」三文字の表記法について考えてみたい。

○字数が五千字と制限されているので、後は次に繋げたい。