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佐藤結衣の『ラジオdeジャニログ』

NEWSというアイドルが築いてきたもの 手越祐也の脱退を時代の転換期を生きる視点から考える

 NEWSの増田貴久が、6月24日放送の『テゴマスのらじお』(MBSラジオ)に登場。6月19日付けでNEWSからの脱退、そしてジャニーズ事務所から退所した手越祐也と共に“テゴマス“として続けてきた同番組を、今後も継続していくことを発表した。

 大枠は6月10日に収録された和やかな放送だったが、冒頭部分は増田1人で急遽直前に別録りされたと思われる挨拶をオンエア。「こんばんは、増田貴久です。この度、手越の件で、ご心配をおかけしました。番組スタート以来、『テゴマスのらじお』を楽しみに聞いてくださった方々には、本当に申し訳なく思っております。今後は僕と咲良ちゃん(アシスタントの宮島咲良)と共に、引き続き楽しい番組をお届けできるように頑張っていきますので、よろしくお願いします」と話す凛とした声が印象的だった。

どんなときもファンファーストを崩さなかった増田

 加えて増田は、ジャニーズの会員制ファンサイト『Johnny’s web』で展開しているNEWSメンバーとの交換日記形式のブログ『NEWSRING』も更新。そこでは、6月18日に配信されたジャニーズのSmile Up!Project『johnny’s World Happy LIVE with YOU』で無観客ステージに立ったときの率直な気持ちが綴られていた。

 観客のいない会場。そして、いつも隣で歌っていた手越のいないライブ。すべてが不本意な状況で1人歌い始めた増田。こみ上げる複雑な思いで、体が少し震えていたという。ライブではメンバー4人で作った楽曲「クローバー」をはじめ7曲を披露。命を削るようにガムシャラに歌うNEWSの歌声が、この日は一段と響き渡っていた。きっと多くのファンがその歌声の中に、手越のハイトーンボイスを探さずにはいられなかっただろう。無観客の会場に手を広げる3人の姿は、まるでファンからの様々な声を受け止めているかのようだった。

 そして最後に歌った「U R not alone」では〈あの日つまずいて しゃがみこんでしまうほどの痛みさえ〉という手越のソロパートを誰も歌唱せず静かな時間が流れた。加藤シゲアキは観客を指さしながら口を動かし、そして小山慶一郎は目をつぶり噛みしめるように歌詞をつぶやいていた。だが、増田は1人遠くの方を静かに見つめるだけだった。

 〈ああどうか 力を貸してくれないか 昨日までの僕よ 共に乗り越えてきたじゃないか〉聴く人を勇気づけるNEWSの楽曲は、ときに自分たち自身を奮い立たせる応援歌にも聴こえる。これまでも様々な壁にぶつかってきたNEWS。やっとの思いで固まった4人のNEWSという形が、ずっと続いていくに違いないと思っていた。数年越しに衣装でメンバーカラーを揃えるなど、常に中長期的な視点でグループを見つめてきた増田ならなおさらだ。

 増田の綴った『NEWSRING』には、別の道を歩む手越への叱咤激励とも思える一文もあった。そして「クローバー」の歌詞にかけて、ファンとNEWSのストーリーには「枯れない四つ葉のクローバーが咲いている」というメッセージも添えられていた。どんなに苦しくても、どんなに悔しくても、いつもアイドルとしてのプライドにかけた言動を見せてきた増田。この大きな混乱に直面してもなお、ファンファーストな信念を貫いた。


「増田はアイドルの鑑」と語った手越

 そんな増田のことを、手越は記者会見後にライブ配信した動画サービス『OPENREC.tv』で、「アイドルの鑑」と話していた。思ったことを裏表なく話す手越に対して、増田はアイドルとしてファンが悲しまないようにと最善を尽くす。体が震えるほどの感情が湧き上がったとしても。そんな増田の美学を誰よりも近くで見ていた手越は、決して真似することはできないし、心から尊敬していると続けた。

 加えて、長文のメールをくれた小山の優しさや、作家という才能を発揮する加藤から多くの刺激を受けたことにも触れ、アイドルとしては破天荒な言動が多い自分を受け入れてくれたメンバーへの変わらぬ愛情を語った。そして、会見では聞けなかったファンへの「心配させてしまった皆さん、本当にごめんなさい」という言葉も……。

 やはり心残りは、コンセプチュアルアルバム4部作を完結する『STORY』ツアーまで走り抜けることができなかったことだ。だが、今はもう前に進むしかないと思っていること。自分の生き方は「敵を作る」と思っていること。それでも矢面に立ってイジメのようなことが起きている現状の芸能界を変えたいこと……話しても話足りないといった様子で、夜中2時まで続いた手越のライブ配信。会見のときよりも、ずっと素直に話す姿が印象的だった。

時代の転換期を生きるNEWSと私たち

 ここからは筆者の個人的な考えだが、まずは手越本人の口から“彼の真実“が語られて本当によかったと思う。きっとこうした率直な声をリアルタイムで届けるのは、少し前までの時代では難しかったに違いない。1人のアイドルが緊急で開いた会見に、132万人が注目したのも前代未聞だ。良くも悪くも。組織の大きな声も、個人の小さな声も、同じように聞こえてくるのは今ならではだ。

 そして改めて会見から感じたのは、手越自身もこの脱退劇が決してベストではなかったということ。おそらく新型コロナウイルスの影響がなければ、こんな形で去ることにはならなかったはずだ。しかし、これまでの生活が一変するような出来事であるほど突然訪れる。大きな災害に見舞われたときだってそうだ。手越は被災地でのボランティアに勤しんだ。スランプを迎えるときもそう。手越は後輩のボイストレーニングも喜んで引き受けた……これまでも手越は自分の信じた道を突き進んできた。むしろ大人たちの敷いたレールをはねのけるような強気なスタンスは、「あんなふうに自由に生きられたら」と少し羨ましくも思った。ときには包み隠さない奔放な振る舞いが面白おかしく報道され、ファンの動揺を呼んだこともあったが、それさえも手越の魅力として受け入れられる社会だった。しかし、不安な気持ちが蔓延するコロナ渦ではそうはいかなかった。そして、メンバーにもファンにも弁明する機会を持つことを許されぬまま、あれよあれよという間に退所まで決まってしまったことが伝わってきた。もし本当に手越が「もっとスピード感を持って活動したい」と願って卒業するにしても、メンバーやファン、関係者を悲しませる形にならないように努力したに違いない。だが、新型コロナウイルスに揺れた社会は、彼が思っていた以上に慎重な行動が求められるものだったのだ。

 そして、そうなってしまった以上前を向くしかない。自分でも望んでいたところがあったのだと言わんばかりに、状況をポジティブに捉えて進むしかない。会見で1人矢継ぎ早に話す手越を見て、自分自身でそう奮起させているようにも思えた。まずは「ごめんね」と言えたら、もっと素直に「ありがとう」と伝えることができたら、この不本意な形での門出にはならなかったのではないか……増田が『NEWSRING』で綴った言葉が脳裏によぎる。

 手越の状況をかいつまんで例えるなら、大手老舗企業からフリーランスへの転身だ。もしかしたらルールやしがらみだらけで窮屈だと思っていた環境が、どれだけ自分を守ってくれていたかを実感する日がくるかもしれない。少年のころからジャニーズの中で活動してきた手越は、社会人としてピュアすぎるところもあるだろう。もちろん、それも飛び出してみないとわからないことではあるけれども……。「U R not alone」でジッと一点を見つめていた増田は、もしかしたら社会の大海原に飛び出す手越の背中を見送っていたのかもしれない。

 人生には正解がない。飛び出すにしても、留まるにしても、どちらも良し悪しがある。だからこそ、私たちは様々な意見に耳を傾け、賛否両論の中から、新しい価値観を築いていかなければならない。私たちが生きている中でも、これまでも多くの価値観のアップデートが求められるタイミングがあった。終身雇用が当たり前だったのが、転職を繰り返してキャリアアップするスタイルが定着したり、SNSや動画配信サービスを活用して新たな職種が脚光を浴びたり……その新しい価値観の是非は、先駆者の行ないにかかっているところもある。スタートは議論を醸し出す形にはなってしまったものの、時代の転換期にはいつだってそんな風雲児が現れるものだ。手越には必ずや「あのときそう決断してよかった」と思わせてくれる未来を築いてほしい。

 一方で、伝統ある組織にもその伝統を築いてきた素晴らしさがある。ジャニーズ事務所にとっては、それが増田の貫く「アイドルの鑑」と言われるスタイルなのではないだろうか。そして、異なる理想を前にバラバラになりそうな仲間をつなぎとめる小山のような優しさも、加藤のようにその大きな波を受けて自分自身がどう思っているのかを自分の言葉で話す力も必要だ。多様な価値観を認め合う社会へと切り替わるとき、4人のNEWSはそのバランスの良さを見せてくれた存在でもあった。

 言わずもがな、4人でのNEWSを応援してきた1人として、この状況はただただ残念でならない。だが、4人のNEWSが築いてきたことがなくなるわけではない。悲しいのは、それだけ彼らが見せてくれたクローバーが美しかったから。そして増田の言う通り、心の中に咲くクローバーは、誰がなんと言おうと枯れることはないのだから。

 未知のウイルスの脅威を経て、「個」を尊重しながらも、団結していかなければならない時代に突入していく。この正解の見えない新しい時代を彼らがどう進んでいくのか、そしてこの混乱の日々を私たち1人ひとりもどう生きていくのか。すべての人が試されている。

 それでもきっと「手越なら開拓者として私たちが想像していた以上のことを成し遂げてくれるはず」と期待せずにはいられない。同時に「増田ならこの先も手越が“さすが”と舌を巻くほどの美しい生き方を見せてくれるのではないか」という信頼も厚い。それこそが彼らが築いてきたものであり、時代に選ばれたアイドルである証拠だろう。歩む道は異なれど、私たちはみんな同じ時を生きる仲間に変わりはないはずだ。手越、増田、小山、加藤、そして私たち自身も〈自分で決めた道のうえ 全てをかけて 笑えるように やり抜くぞ〉の気持ちを忘れずに、心のクローバーを握りしめながら進んでいこうではないか。