いそがば。
最近、家の近くに自販機ができたおかげで、コーラが飲みたくなったら、すぐに手に入るようになった。 設置された当初は、「たまに使うかなあ」くらいに思っていた自販機は、存外に便利で、冷蔵庫代わりに使わせてもらっている。
ごとんごとん。
缶コーラが、取り出し口に飛び出す音がすると、少しでもはやく、しゅわしゅわな気分を味わいたくて、そわそわで、うっきうきな様子でコーラを自販機から取り出す。 家に帰ってから飲もうか、ここでひとくち飲んでやろうか。 とりあえずは右手で、缶コーラの冷たさを味わっていると、路地に救急車が侵入してきた。
「緊急車両が通ります。 」
通りたいのはわかるのだが、家の前の路地は、そこまで広くない。 そんな路地を、慎重に、しかし迅速に、アナウンスをくり返しながら、進んでいく。 そんなことよりも、救急車が来るということは、なにかあったということだ。 この辺りは、一軒家が多くて、お年寄りも多い。 心臓が高鳴るのを感じながら、救急車のテールランプを睨みつける。
救急車は路地を抜けていった。
道を間違えた?
わざわざ狭い路地を通らなくても、もう少し走れば、余裕でぐるっと回れる道がある。 救急車ってナビとか付いてないの?
そもそも、どこに行くつもりなのだろうか? 救急車の行く先には、月極めの駐車場しかなく、普段は、人っ子一人いない。
と、ここまで考えて、気が付いた。 救急車が走っている道のとなりに、もう一本、路地がある。 だが、その路地は、軽自動車でも、走るのが難しいくらいの、とても細い路地である。 救急車が入れるのだろうか?
ぼくは車も運転しないし、普段はなにも気にしないが、車も入れないような路地の近くに住んでいる人達は、具合が悪くなったり、火事になった時はどうしているのだろう? 他人事ながら、気になってしまった。
ちなみに、その後、近所で事故があったとか、お年寄りが倒れたとかの話は全く聞こえてこず、結局、あの救急車が、どこに向かっていたのかは、うちの前の路地を使う必要は全くなかったということ以外に、なにもわかっていないのであった。
ぼくの人生につづく。