ずいぶん間が空きましたが、芳香族性の続きです…(;^_^A
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芳香族性に寄与するのは環状共役系中のπ電子である。
π電子となり得るのはπ結合の電子とp軌道性の非共有電子対である。
また場合によっては空のp軌道も寄与することがある。
従って、芳香族性判定のための電子の数え方は環状共役系中の二重結合または非共有電子対が1箇所あたり2個、および空のp軌道1箇所あたりを0個とすればよい。
![NEC_0007.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20150531/10/sirukosand-pair/3d/f5/j/t02200293_0240032013323011199.jpg?caw=800)
ベンゼン(1)やピリジン(2)は二重結合を3つ持っているのでπ電子は6個ということになる。
一方、シクロブタジエン(3)は4個、シクロオクタテトラエン(4)は8個π電子を持っていることになる。
これを4n+2則に当てはめると、ベンゼンやピリジンはn=1に相当するので芳香族性と予想される。
実際これらのプロトンシグナルは高周波数側に現れるので芳香族性を持っていると判定される。
一方シクロブタジエンやシクロオクタテトラエンを4n+2則に当てはめると、nは整数にならない。
従ってこれらは芳香族性ではないと予想され、実際プロトンシグナルは高周波数側には現れないのである。
…
![NEC_0002.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20150608/22/sirukosand-pair/80/d9/j/t02200293_0240032013331597613.jpg?caw=800)
NやOなどの複素原子は非共有電子対を持っている。
ピリジンのN原子の非共有電子対は環状共役系に寄与していないが、ピロール(5)のN原子やフラン(6)のO原子上にある1対の非共有電子対は環状共役系に寄与するためπ電子は6個となり、4n+2則を満たす。
従ってこれらも芳香族性と予想され、実際その通りなのである。
一方、環状アルケンの1つシクロペンタジエン(7)にアミンなどを加えると簡単にシクロペンタジエニルアニオン(8)になることが知られている。
一般にアニオンへのなりやすさは酸性度の指標であるpKa値で比較することができる。
一般的なアルケンのpKa値が35~37程度であるのに対し、シクロペンタジエンのpKa値は14~16である。
実にシクロペンタジエンは一般的なアルケンよりも約10^21倍プロトンを放出しやすいのである。
この桁違いのプロトン放出能力、つまりアニオンへのなりやすさはシクロペンタジエニルアニオンの芳香族性で説明される。
つまり(8)はアニオン化したCが非共有電子対をπ電子として提供するため6電子環状共役系を形成するのだ。
これはまさにピロールやフランと同じ構造である。
実際シクロペンタジエニルアニオンの芳香族性は確認されており、シクロペンタジエンからプロトンが一旦外れれば5個の炭素原子およびそれに結合した水素原子はそれぞれ全て等しくなり、区別できなくなるのだ。
だが、何せカルボアニオンのため反応性が高く、速やかに重合してしまうため、安定な芳香族性のイメージからは程遠い。
ところがシクロペンタジエンにアミンと共に無水塩化鉄(Ⅱ)を加えておくと橙色の溶液が得られる。
ここからヘキサン抽出される橙色針状結晶は酸にもアルカリにも侵されにくい安定な物質である。
この橙色物質こそが有機金属化学の先駆けとなったフェロセン(9)である。
フェロセンは(9)のように2つのシクロペンタジエニルアニオンがFe(Ⅱ)イオンをサンドイッチする構造をとっている。
この結果、フェロセンを構成しているシクロペンタジエニルアニオンの求核剤としての反応性は大きく低下し、ベンゼンのように側鎖の置換反応の方が優先的になるのである。
そんなベンゼンに似た反応性を持つ鉄含有物質ということで、かのR.ウッドワードが(9)をフェロセンと命名したそうである。
…
5員環のカルボアニオンが芳香族性を持つのなら7員環のカルボカチオンも6π電子系となるから芳香族性を持つのでは?と想像したくなるが…まさにその通りである。
![NEC_0003.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20150608/22/sirukosand-pair/aa/35/j/t02200293_0240032013331598326.jpg?caw=800)
当然のことだが、一般にハロゲン化された炭化水素は水にほとんど溶けにない。
従って臭化アルケンももちろん水に溶けない。
ところが臭化トロピリウム(10)は水と混ぜると溶けてしまうのである。
しかも(10)の水溶液から水を飛ばして得られる物質は(10)ではなく、潮解性の結晶性固体なのだ。
この結晶性固体は1891年にG.メアリングによって得られたが、その構造が(11)であることを決定したのは実に63年後のW.E.デーリングら(1954)である。
トロピリウムカチオンは臭素イオンの外れた後の空のp軌道を共役系に提供することでこれを環状化させ、芳香族性を獲得するのである。
もちろんこの時の7つの炭素および水素原子は全て等しく、区別できなくなるのだ。
トロピリウム構造のカチオン化傾向は天然物でも見られる。
タイワンヒノキの特に赤い心材部に含まれるヒノキチオール(12)は抗菌成分である。
ヒノキ材が他の材木に比べて寿命が長いのはヒノキチオールの存在によるようだ。
ヒノキチオールは(12)のようにトロピリウムがカルボニル化したトロポン骨格を持っている(さらにカルボニルの隣にOHが付いている場合、トロポロン骨格という)。
トロポンのカルボニルπ電子は極端にO原子に偏っているため事実上C原子のp軌道は空なのだ。
つまり(12)は(13)に近い構造をとるのである。
この場合トロポロン骨格の2つのO原子は共にフェノール性水酸基の性質を持つようになるので金属キレート能が予想されるよりずっと高くなるようである。
実際ヒノキ中のヒノキチオールは赤いFe(Ⅲ)の錯塩として存在しているのである。
…
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思いの外、長くなってしまったのでまた次回…(・・;)
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芳香族性に寄与するのは環状共役系中のπ電子である。
π電子となり得るのはπ結合の電子とp軌道性の非共有電子対である。
また場合によっては空のp軌道も寄与することがある。
従って、芳香族性判定のための電子の数え方は環状共役系中の二重結合または非共有電子対が1箇所あたり2個、および空のp軌道1箇所あたりを0個とすればよい。
![NEC_0007.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20150531/10/sirukosand-pair/3d/f5/j/t02200293_0240032013323011199.jpg?caw=800)
ベンゼン(1)やピリジン(2)は二重結合を3つ持っているのでπ電子は6個ということになる。
一方、シクロブタジエン(3)は4個、シクロオクタテトラエン(4)は8個π電子を持っていることになる。
これを4n+2則に当てはめると、ベンゼンやピリジンはn=1に相当するので芳香族性と予想される。
実際これらのプロトンシグナルは高周波数側に現れるので芳香族性を持っていると判定される。
一方シクロブタジエンやシクロオクタテトラエンを4n+2則に当てはめると、nは整数にならない。
従ってこれらは芳香族性ではないと予想され、実際プロトンシグナルは高周波数側には現れないのである。
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![NEC_0002.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20150608/22/sirukosand-pair/80/d9/j/t02200293_0240032013331597613.jpg?caw=800)
NやOなどの複素原子は非共有電子対を持っている。
ピリジンのN原子の非共有電子対は環状共役系に寄与していないが、ピロール(5)のN原子やフラン(6)のO原子上にある1対の非共有電子対は環状共役系に寄与するためπ電子は6個となり、4n+2則を満たす。
従ってこれらも芳香族性と予想され、実際その通りなのである。
一方、環状アルケンの1つシクロペンタジエン(7)にアミンなどを加えると簡単にシクロペンタジエニルアニオン(8)になることが知られている。
一般にアニオンへのなりやすさは酸性度の指標であるpKa値で比較することができる。
一般的なアルケンのpKa値が35~37程度であるのに対し、シクロペンタジエンのpKa値は14~16である。
実にシクロペンタジエンは一般的なアルケンよりも約10^21倍プロトンを放出しやすいのである。
この桁違いのプロトン放出能力、つまりアニオンへのなりやすさはシクロペンタジエニルアニオンの芳香族性で説明される。
つまり(8)はアニオン化したCが非共有電子対をπ電子として提供するため6電子環状共役系を形成するのだ。
これはまさにピロールやフランと同じ構造である。
実際シクロペンタジエニルアニオンの芳香族性は確認されており、シクロペンタジエンからプロトンが一旦外れれば5個の炭素原子およびそれに結合した水素原子はそれぞれ全て等しくなり、区別できなくなるのだ。
だが、何せカルボアニオンのため反応性が高く、速やかに重合してしまうため、安定な芳香族性のイメージからは程遠い。
ところがシクロペンタジエンにアミンと共に無水塩化鉄(Ⅱ)を加えておくと橙色の溶液が得られる。
ここからヘキサン抽出される橙色針状結晶は酸にもアルカリにも侵されにくい安定な物質である。
この橙色物質こそが有機金属化学の先駆けとなったフェロセン(9)である。
フェロセンは(9)のように2つのシクロペンタジエニルアニオンがFe(Ⅱ)イオンをサンドイッチする構造をとっている。
この結果、フェロセンを構成しているシクロペンタジエニルアニオンの求核剤としての反応性は大きく低下し、ベンゼンのように側鎖の置換反応の方が優先的になるのである。
そんなベンゼンに似た反応性を持つ鉄含有物質ということで、かのR.ウッドワードが(9)をフェロセンと命名したそうである。
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5員環のカルボアニオンが芳香族性を持つのなら7員環のカルボカチオンも6π電子系となるから芳香族性を持つのでは?と想像したくなるが…まさにその通りである。
![NEC_0003.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20150608/22/sirukosand-pair/aa/35/j/t02200293_0240032013331598326.jpg?caw=800)
当然のことだが、一般にハロゲン化された炭化水素は水にほとんど溶けにない。
従って臭化アルケンももちろん水に溶けない。
ところが臭化トロピリウム(10)は水と混ぜると溶けてしまうのである。
しかも(10)の水溶液から水を飛ばして得られる物質は(10)ではなく、潮解性の結晶性固体なのだ。
この結晶性固体は1891年にG.メアリングによって得られたが、その構造が(11)であることを決定したのは実に63年後のW.E.デーリングら(1954)である。
トロピリウムカチオンは臭素イオンの外れた後の空のp軌道を共役系に提供することでこれを環状化させ、芳香族性を獲得するのである。
もちろんこの時の7つの炭素および水素原子は全て等しく、区別できなくなるのだ。
トロピリウム構造のカチオン化傾向は天然物でも見られる。
タイワンヒノキの特に赤い心材部に含まれるヒノキチオール(12)は抗菌成分である。
ヒノキ材が他の材木に比べて寿命が長いのはヒノキチオールの存在によるようだ。
ヒノキチオールは(12)のようにトロピリウムがカルボニル化したトロポン骨格を持っている(さらにカルボニルの隣にOHが付いている場合、トロポロン骨格という)。
トロポンのカルボニルπ電子は極端にO原子に偏っているため事実上C原子のp軌道は空なのだ。
つまり(12)は(13)に近い構造をとるのである。
この場合トロポロン骨格の2つのO原子は共にフェノール性水酸基の性質を持つようになるので金属キレート能が予想されるよりずっと高くなるようである。
実際ヒノキ中のヒノキチオールは赤いFe(Ⅲ)の錯塩として存在しているのである。
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思いの外、長くなってしまったのでまた次回…(・・;)