世界的に音響の良いとされるコンサートホールの中に

ヴィンヤード型(葡萄畑型)といわれるものがある

 

私が実際に聴きに行ったことがあるホールは

ヴィンヤード型の先駆的存在 ベルリンフィルハーモニーホール

そしてカラヤンの指導の下

そのベルリンフィルハーモニーを参考にしてつくられた

東京のサントリーホール
他 世界的に著名とまではいかずとも

ご縁のあったコンサートホールで同形態を採用しているホールは

今日少なくない

 

今回私がコンサートに訪れたのは

ヴィンヤード型のホールではなく

文字通り ヴィンヤード・・・・ 葡萄畑に囲まれた場所だった

 

パリのオペラ座のような豪奢なつくりのアプローチも

ウィーンの楽友協会のロビーのような「我こそ世界の音楽の殿堂」という

威風堂々とし佇まいもないが

それでも 目に眩しいくらいの青々とした葡萄畑が

コンサート会場へ向かうアプローチであることが

こんなに嬉しく、テンションをあげてくれるものなのか!?

 

 

会場のある建造物まで歩くには

少々遠い場所に車を停めなければならなかったが

それでも私の足取りは 心同様に浮足だっていた

 

そのくらいこの時季の葡萄畑の「様」は美しく

その後に開催されるコンサートを期待させてくれるには十分な演出だった

 

 

この日のプログラムは

多分 人生の節目節目に思い出すであろうシーンと共に

脳裏に焼き付いている 思い入れのあるブラームスの交響曲4番

 

そして 世界的チェリスト ヨーヨー・マ氏による

エルガーの チェロコンチェルト

 

オケは 毎年この期間のためにフランス国内外で活躍するアーティスト(それぞれがソリストの力量あり)が

集ったもの

 

日本でいうところの サイトウ・キネンや水戸室内管弦楽団といったところだろうか・・・

 

兎に角 「贅沢」 そう表現するにふさわしい面々でのコンサートだった

 

 

 

欧州のこの季節ならでは・・・・

 

野外でのコンサートだが

石壁を背に

頭上には大きなテント

すこぶる良いとまではいかないものの

音響も音が流れて行ってしまうようなこともなく

私達は前のめりで彼らの演奏を聴く

 

 

・・・・・ブラームスの交響曲4番

 

学生時代 作曲と和声を担当してくださった恩師が

いかに同曲が優れているのか事ある事に口にしていた

 

当時 師の説明を聴いても

「・・・・・そんなものか・・・・」

程度の認識でいた若かりし頃の私は

同曲をわざわざ好んで聴いていたわけではない

 

時を経て

私は娘を授かりその彼女が成長し

彼女を幼稚園に送迎する車の中で

私はいつもNHK FMをかけていた

ちょうど送る時間帯はクラシック音楽を流す番組の時間帯だった

 

赤ちゃんの頃から

元々口数が少なく

大きな目をギョロギョロと動かし

周囲の様子をジ・・・・と観察し続けるような

子供であった娘は

毎日 カーステレオから流れる音楽を

黙って聴いていた
 

 

ある日 ブラームスの4番1楽章が流れだした

弱起で始まり哀愁を帯びた独特の音の移動・・・・

 

1フレーズ聴いたところで

娘が急に大声で

 

「ねえ! ママ この曲誰の何ていう曲?」 と聴いてきた

 

作曲家まで問うのは幼稚園児として「らしくない」かもしれぬが

私が彼女の問うことを説明するのに

いつも沢山の情報をもたらすことを意識し続けていたため

私達親子ではごく普通の会話だった

 

「ブラームスという作曲家がつくった

4番目の交響曲の1楽章だよ・・・・」

 

と応えた私に

 

「へ~・・・・いい曲だねえ・・・・」

 

そう言って

うっとりしながら再び耳を傾けていた

 

娘は何でも知りたがりであったし

とても早熟傾向にある子供だという認識をしていたが

この時は理解度云々より

ブラームスの4番の1楽章冒頭部分に反応する

その早熟した感性にバカ親ではあるがいたく感心し

感動さえした

 

そして かつての恩師への賀状にその時の様子を1筆書き加えたことが

やけに記憶に刻まれている

 

 

アウフタクトから静かに移行する弦楽器のテンポに合わせるかのように

会場内に静かに風が入り込んできた

 

その風が

私を学生時代の和声の授業へ

娘の送迎の車の中へ

自然と連れ出す


優美なメロディーとそよぐ静かな風のコラボレーションに

私はグタグタになりながら

周囲に悟られぬように

涙を流しながら聴いた

 

今ココに在る己の身体と

かつて私達親子がちゃんと存在していたはずの場所へ

心だけが浮遊し

心身が乖離しながら ブラームスに耳を傾けた

 

 

休憩は挟まず

そのまま ヨーヨー・マ氏が舞台上にやってきて

チェロ・コンチェルトが始まった

 

私は生のヨーヨー・マさんのコンサートは一体いつぶりだろうか?

 

演奏のはじめから

彼はその場にいらっしゃるのが 本当に嬉しそうに

自分の音を引き継ぐ相手にのみならず

周囲のオケのメンバー、指揮者、前方に座る聴者にさえ

笑顔のアイコンタクトを送り続ける

 

演奏をしている人々の幸福感が伝播するコンサートほど

聴衆側も幸せなものはない

 

音への集中を途切れさせることのない素晴らしい演奏

あ・・・・という間に感じた演奏時間だった

 

勿論 人びとは

ブラボーと拍手喝采を惜しまない

 

 

 

そして アンコールは何と!

ヨーヨー・マ氏を中心に

10人!!のチェリストによるアンサンブル

 

 

 

若手(?)の中心である

フランスのチェリスト 彼も国内外で大活躍のソリストである

ゴーティエ・カピュサンが

「僕たちはヨーヨー・マのチェロを聴いて育ったんだ」

そう。 彼に憧憬を抱き、研鑽を積み

同じステージに立つようになる

それって 若きチェリスト達のみならず

師的立場のヨーヨー・マさんにとっても

とても幸せなことだよなぁ・・・・・と

無関係者ながら ウルウルしてしまった

 

 

 

演奏後は 聴衆そっちのけ(笑)で

ステージ上でハグを交わし挨拶を交わし合い

彼らにとっても

嬉しいであろう時間が終了した

 

 

 

パリや東京といった大都市部に住まわぬと

なかなか良い音には巡り合えないかな?と思っていたけれど

パリで聴いた ダンタイソン&ブルースリウのコンサート以降

小規模ながらも地元でも良い音に出会え

今回はこのような 非常にレベルの高い音に触れることができたこと

まさしく幸福だな・・・・・と噛みしめた