今年読んだ小説の34冊目。単なる自分の記憶用

ゴリラ裁判の日　　須藤古都離

米国のシンシナティ動物園で飼育されていたニシローランドゴリラが、自分の囲いの中に転落した男の子をつかんで引きずり回したため、動物園スタッフの手によって射殺された。後に専門家は、このゴリラの行動には特に凶暴性があったわけではないと説明しており、射殺が妥当だったのかどうか問題となった、という実話をヒントにして創作された物語

本作の主人公であるゴリラは手話を使って人と会話することが出来る。そのゴリラが夫のゴリラを射殺されたことで動物園と対立し裁判を起こすというのが主な筋立て。ただ、途中ゴリラ裁判だけに留まらず、ゴリラプロレスにも話しが発展する

あらすじを知って、この作品の問題提起としては「人とそれ以外の生物の命は等価なのか」ということだと思った

人間の子供を助けるために、悪意の無いゴリラを射殺することは許されるのか

一般的には「どの生物の命も大事」というようなことが言われているが、にもかかわらず多くの人が生物の命の重さに優劣をつけて生活している

幼い人間の子を救うためにゴリラを射殺することは当たり前だろう

と思う人が多いのだろうが、「当たり前」と流していることを本当にそうなのかと一旦立ち止まって考えさせられる作品

思い返してみると、私は小さい頃から面倒臭い思考をする子だったように思う

私の父親はその昔、自ら魚屋をしていたのだが、私が小学生になるかならないかくらいの頃だったか頻繁に父親の店に出入りしていた

あるとき、店で父親の仕事を見ていたときのこと。そのときは父親が鰻をバンバンさばいていたのだが、私は幼いながら苦しみながら息絶えていく鰻を見つつ、「この鰻は何のために生まれてくるのか」的なことに疑問を持った

自分のなかでは壮大な悩みだったわけだが、父親はこのような葛藤をどう乗り越えて今の仕事をしてるんだと

そう簡単に聞いていいものかどうかわからないくらいのレベルにある質問かと思ったが、逡巡を重ねつつも忙しそうな父親に思い切って質問してみた

すると、帰ってきた答えは

「コイツら食われるために生まれてくんねん」

それ以後、このての質問はしないほうがいいと思い自重するようになる

そんなこんなで、私と父親の性格等は真反対で、良いところと悪いところが対照というか、まぁそんな感じだったわけだが、私自身、命の重さに関する悩みはスッキリしないまま年を重ねることに

今となっては自分なりの答えは一応あるが、それが唯一絶対の解ではないし、正しいのかどうかもよくわからない

そんな私からすると本作のテーマは興味深く、迷うことなく購入し読み進めることに

言語を使いコミュニケーションをとることが出来るゴリラ

ということで主人公はあっという間に有名になり、人間をより多くより広く知ろうとしていくのだが、徐々に人間の怖さを知っていく

信用出来る人間やそうで無い人間。信用していたけど事件以後距離が出来てしまう人間や、やたらと好戦的な人間など

ジャングルの中で他のゴリラ達と生活していた頃には無かった苦悩を抱えつつ、裁判でどのような主張をし、裁判の結果とどのように向き合い、その後どう生きていくのかという話

物語が進むに連れて、「他の生物と人の命の重さは等価か」というよりもどちらかというと「人とは何か」という話になるように思った

本作の主人公であるゴリラは、高校生くらいの知能を有し、言語を操り人と明確にコミュニケーションを取ることが出来る。そして、夫を殺されたことにより人並みに精神的ダメージを受ける

憲法で学ぶことだが、人権とは人に認められるもの。では人と同じレベルの知能を有する生物がいた場合、それは人と扱わなくていいのかと

なんか、猿の惑星3みたい

と思ったのは私だけなんだろうか。ちなみに、猿の惑星3では、言語を話すことが出来る猿たちが現代社会にやってきて、現代社会のルールを使用し裁判で戦うという話しだった。猿の惑星は2以降惰性で観ていたためよく覚えていないが多分そうだ

ゴリラのプロレスの話は予想の斜め上だったが、ラストに向けて収まるところに収まっていく

文庫本では最後に著者の思いが書かれていて、そこに全ての生物に対する思いが書かれていたのだが、あの言葉は色濃く印象に残った

多分、著者は私よりもずっと優しい人だと思う。個人的には本作のような作品が、もっと生まれもっと読まれる世の中になって欲しい。

読んだ小説 ゴリラ裁判の日

読んだ小説　ゴリラ裁判の日