価値論抄
価値とは
人間は、無関係の存在には、少しの注意も払わない。あることすら、意識しないことが多い。しかるに、吾人の生命に、なんらかの影響を与える存在にたいしては、判然と意識し、その関係性を感得する。人間の生命を危うくする存在には、なおさら、その注意を怠らない。
野獣と家畜との差異は、人生に有する関係性の有無と相違にほかならない。すなわち、はじめ、人生にたいして無関係として放置されたものが、一朝なにかの動機によって、そのなつきやすい柔順性が見出され、それが、知らず知らずの間に利用され、次に意識的に利用され、次に、その有用性が実験証明されて、初めて一般化し、家畜として人生に深き関係が結ばれ、人間は、ついに、家畜としての関係性、すなわち、価値を認むるにいたったのである。
すなわち、力としてあらわれた実在の方面は、たんなる感覚刺激にとどまらず、より強く生命への抵抗力として生命にふれ、したがって、快苦の感情として対応する程度に影響する。よって、これにもとづいて測定したる対象と主観との関係状態を、社会は価値と名づけるのである。
(昭和十六年七月二十日)

