戸田城聖全集

第一巻

池田大作編

和光社刊

(昭和30年11月東京国際空港ロピー)

 

 先に、初代会長牧口常三郎先生の全集を世に贈り出し、つづいて(ここ)に、恩師戸田城聖先生の遺された思想を、「戸田城聖全集」として、刊行し得たことは、重ね重ね、私の歓びとするところである。

 

 戸田城聖先生は、末法今日における、折伏の大指導者であった。故に、東洋哲学の真髄たる日蓮大聖人の仏法、すなわち色心不二の大生命哲学を、論文に、質問会に、指導会にその他、様々な機会に、わかり易く現代的に、指導されたのである。

 

 恩師戸田先生が逝去されたのは、昭和三十三年四月二日、時あたかも法華本門大講堂の慶祝総登山の終わった直後であった。恩師は、いっさいの願業を成し遂げられ、霊山にかえられたのである。

 

 当時、世人は、なかんずく宗教界は、戸田先生の死によって、創価学会は崩壊するであろうと、嘲をもって見ていた。しかし、私を中心とする、学会の美事な団結は、それらの愚味なる批判を、雲散霧消させたのである。その団結の根底をなしたのが、戸田先生の思想であった。

 私はかつて、恩師亡きあと、全学会人に、全民衆に、そして後世の人々に、正しい仏法のあり方と、真実の学会精神の姿を、遺すことを期して、師の教えを単行本、レコード等に刊行した。それらが、信心の糧となり、全学会人にどれ程の勇気と希望と確信を、与えてきたか計りしれない。現在に至るも、戸田先生の思想は、学会人の信心の骨髄となって、脈々と生きつづけている。それあるがゆえにこそ、学会は強靱であり、無限の未来性を有するのである。

 

(ここ)に、新ためて恩師の全思想を網羅し「戸田城聖全集」全五巻を出版し、後世の指針として伝えんとするものである。内容は、巻頭言集、論文集、講演集、講義集、質問会集、その外、戸田先生を中心とした座談会、小説人間革命、和歌、書簡等、また学習塾・時習学館当時の教材である指導算術等が収録される。これらは、いずれも学会の指導の根底をなす思想であり、広宣流布達成への指導の根本であり、原典ともいえる。マルクス・レーニンの全集が、唯物思想の根底となっているように、「戸田城聖全集」は、色心不二生命哲学の思想全集である。

 

 人間革命の思想、王仏冥合の思想等は、今や、われわれの、力強い実践によって、その証拠を示しつつあり、日本民族ならびに世界人類の繁栄と平和のために、厳然と打ち樹てられようとしている。

 

 本全集によって、学会人は、勿論のこと、真実の幸福を望む求道の士が、日蓮大聖人の仏法、創価学会の指導理念を理解し、奮い立つことを確信して止まない。

 

昭和四十年九月二日

創価学会会長池田大作

 

 

巻頭言集・原版の辞

 

 末法の救世主、日蓮大聖人様のご命令たる化儀の広宣流布達成が、創価学会の使命である、この広布実現への指揮をとられたのが、恩師戸田城聖先生である。

 

 先生の言々句々は、仏説そのままであり、信心よりほとばしる全学会員の根本指針であられた。今、発刊される、この巻頭言は、全学会員の使命達成に、かつまた仏道修行に、不可欠の眼目である。

 

 戸田城聖先生が、会長就任第一回臨時総会で宣言せられた誓いは、

 

 第一に、一閻浮提総与の大御本尊を日本に流布することを誓う、

 第二に、大聖人様の予言を果たす仏弟子として、東洋への広布実現を誓う、

 第三に、総本山との交流をはかり、日蓮正宗、日本に在りと仏教界に示すを誓う、

 

 の三つであられた。

 

 この三大宣言実現への具体的指導の一部が、この書である。

 この書を根本として実践していくならば、わが学会は、永遠にくずれることなく、広布への一大原動力となることは明らかである。『在在諸仏土、常与師倶生』のご金言を信じ、この書を通して、常に戸田先生の指導を仰ぐべきである。

 

 願わくば、戸田門下生として、日本民族の幸福、東洋否世界の幸福建設をめざして、大勇猛心を奮い起こし、前進せられんことを。

 

昭和三十五年五月三日

創価学会会長池田大作

 

 

 

巻頭言集・原版の序

 

 近代における一大宗教家、戸田城聖先生逝いて二年、その三回忌を終って、ここに先生の遺稿となった大白蓮華の巻頭言が集録せられると聞いて、心から一文を贈呈する。

 

 先生は、早くより牧口常三郎先生に就いて、本宗の教学を学ばれたようであるが、法華の真髄を開悟せられたのは、あの信仰のために囹圄の身となって、東京拘置所内に生活している時であったのではないかと思われる。

 

 その二か年の歳月は、日夜、仏書三味に入り、入手し得る仏教経典は、すべて読破したのである。

 後日、先生は、余等に向かって、『あの時は、あらゆる経典を熟読したが、ただ法華経だけが私の肝に銘じ、釈尊一代の本懐たるを誠によく知り得た。それ以外の経典には、心に感ずることがなかった』と語られたことで、知ることができる。

 

 そして、出所してからの先生は、先師日淳(にちじゅん)上人の寓居(ぐうきょ)、歓喜寮の門を叩かれ、共倶(ともども)に、本宗の六巻抄や天台の三大部を研鑽して、ついに本宗教学の深淵に到達し得たのであろうと推測することができる。

 それでいて、なお、常に他人との談話中に出てくる法門は、細大もらさず聞き取っていかれたのである。

 

 ある時、余と法門に就いて談話中に、同席した一人が一言を差し入れたことがあった。その時、先生は忿(いか)って、『お前の話はいつでも聞ける。外の人の話は、今聞かなければ聞く時がない。よく聞いておれ』と言われた。その時、余は、先生の求道心の偉大さには、即座に敬服したのである。

 

 かくのごとき求道の功徳と、天来の宗教家たるの性がよく合して、この偉大なる宗教家、戸田城聖先生とたっ

たのである。

 

 先生の言葉は、この集録の巻頭言のみならず、すべての発言は、決して他人の糟粕(そうはく)ではない。みな自分の信仰と体験によって得た悟りを、後昆(こうこん)の求道者のためへの説法である。

 

 日蓮大聖人は、『一滞をなめて大海の潮を知り、一華を見て春を推せよ、万里をわたって宋に入らずとも……』とお示しになっている通りに、もしそれ、幸福を求めんと欲する者は、心を浄くして先生のこれらの言葉を聞け。

 

 そして、いたずらに、世間の雑多なる邪宗謗法に迷わず、唯一仏乗法である日蓮正宗の信心に精進せられよと、余は勧めるのである。

 以って巻頭の辞にかえる。

 

昭和三十五年五月三日

総本山六十六世 日 達

 

 

論文集・原版の辞

 日蓮大聖人の仏法は、日興上人によって、収録された。日興上人は、すべて、先師の教えを厳護したてまつることに終始なされた。いささかも、師匠より偉そうに説法しようという心はなかった。

 

 しかるに、大聖人様滅後、五老僧はじめ、多くの弟子らは、大聖人様の教えを愚弄し、ついには、御消息文等を焼きすてる狂態まで示した。

 

 ひるがえって、恩師戸田城聖先生の、この論文集は、大聖人様の教えを、そのまま、わかりやすく、現代的に、信心根本に、指導くだされたものである。

 よって、大聖人様の仏法に通達するには、折伏の大師匠たる、戸田城聖先生の指導をあおがずしては、断じてできえない。

 

 戸田城聖先生の教えにたいしても、かつては、学会内においても、評論家・雑誌記者等においても、バカにし、けいべつの念をいだいてきたときもあった。しかし、かならずや、批判をしてきたものたちが、恥を感じ、自己の幸福の直道と、民族幸福の哲理なりと気がつき、これなくしてはと、拝読する日も近いものと信ずる。

 

 私は、恩師の指導を、そのまま結集して、全学会人に、全民衆に、そして後世の人々に、正しい仏法のあり方と、真実の学会精神のすがたを、残すことを期して、この論文集発刊の辞とする。

 

 願わくは、全大幹部および全学会員も、一人も漏るることなく、この書を熟読し、寸分も、信心指導にあやまちなきことを、祈るものである。

 

昭和三十五年八月二十三日

創価学会会長池田大作

 

 

論文集・原版の序

 

 曩に、創価学会から、二代会長戸田城聖先生の大白蓮華の巻頭言集が発行されて、いまだ半歳ならずして、いま、また、大白蓮華、聖教新聞等に掲載の先生の論文を、集録されることになった由を聞き、誠にその企ての時人を益することの最たるものと思い、歓喜の一文を呈するのである。

 

 戸田先生は、実に近代の大宗教家で、おそらく、次々と続出してくる宗教家ではない。

 もし、それ、だれか、この論文集を一読すれば、その折伏にあたっては、寸毫も仮借しないが、その後昆を導くにあたっては、滋味のあふるるばかりであることを、知りうるであろう。

 

 仏様は、衆生を済度するために、世に出現するのであるが、法華経の方便品に、

『諸仏世に興出したもうこと懸遠にして値遇すること難し』

と、説かれてあるごとく、懸遠の年時を経て、世に出現するものである。

 

 いまの戸田先生は、木仏ならずとも、このような宗教家は懸遠に不出世の仏子と言えるであろう。

 この懸遠不出世の仏子が、その本懐たる論文を集録した論文集は、学会員の聖典として、日夜に研鑽読解せられるベき本である。

 加之(しかのみならず)、世間一般の未信の人士も、この論文集を熟読あって、できれば、みずから信仰の寸心を起こして、『現世安穏、後生善処』への人生の帰趨を誤ることなかれ。

 

昭和三十五年七月十三日

総本山六十六世 日 達

 

 

凡例

一、本書に収められた巻頭言、論文は、戸田城聖先生在世中「大白蓮華」「聖教新聞」「価値創造」等に執筆されたもので、昭和三十五年五月三日発刊の「巻頭言集」と、昭和三十五年八月二十三日発刊の「論文集」とを原本とし、「戸田城聖全集」全五巻の第一巻として編集されたものである。

 

一、読みやすくするために、原文の意と文体をそこなわない程度に、当用漢字、新かなづかい、新送りがなになおした。

 

一、日蓮大聖人の御書の引用文は、創価学会版「新編日蓮大聖人御書全集」に拠り、原典のページ数を付した。

 

一、法華経の引用文は、日蓮正宗六十六世細井日達上人の編集による「真訓両読、妙法蓮華経開結、大石寺版」に拠った。

 

一、富士宗学要集の引用文は、日蓮正宗五十九世堀日亨上人の編集による「富士宗学要集(山喜房版)」に拠った。

 

一、巻末に人名(経文に説かれた仏、菩薩等も含む)、一般事項、仏教用語、書名、引用文等の索引を付した。

 

一、なお、巻頭言集は内容別、論文集は掲載別等の索引を付したので活用していただきたい。