父見子等。苦悩如是。依諸経方。求好薬草。色香美味。皆悉具足。擣簁和合。与子令服。而作是言。此大良薬。色香美味。皆悉具足。汝等可服。速除苦悩。無復衆患。
【父、子等の苦悩すること是の如くなるを見て、諸の経方に依って、好き薬草の色香美味、皆悉く具足せるを求めて、擣簁和合して、子に与えて服せしむ。而して此の言を作さく、此の大良薬は、色香美味、皆悉く具足せり。汝等服すベし。速かに苦悩を除いて、復衆の患無けんと】
(文上の読み方)
通解(六二三ぺージ上段)にあります。
(文底の読み方)
そこで、おとうさん、すなわち大聖人は、われわれ子供らの、かくのごとくどん底に落ちている苦悩を、ごらんになって、良き薬を与えられるのであります。
「諸の経方に依って」とは釈尊の教えにもせよ、また世の中の教えにもせよ、経方は山ほどある。その中から選りすぐったというのであります。
いらない物を捨てて、良きものをとり、色香美味みな具足しているところの薬草をば、ふるったり、すいたりして、その中の、もっとも良き物をもって、子供たちに与えたということは、すなわち三大秘法の大御本尊を与えたということであります。
「而して此の言を作さく」とは、日蓮大聖人の立派なお約束であります。この大良薬は三大秘法の南無妙法蓮華経でありますが、色香美味ことごとく具足しております。すなわち南無妙法蓮華経という大良薬には、三大秘法ことごとく具足している、お前たちは、この大良薬を飲み、三大秘法の御本尊を信じなさい、すみやかに、苦悩は除かれて、再び不幸はなくなるだろう、というお約束であります。
これは御本尊の功徳を、大聖人が仰せられているのであります。
(別釈)
ここに色香美味とありますから、これについて、一言申し述ベておきます。三学と申しまして、戒定慧ということが、いかなる仏法にもあるのであります。これを天台は戒定慧の三学と呼んでおります。法華経には、色と香と味といっております。
当門流では、これを虚空不動戒、虚空不動定、虚空不動慧という三学に読みまして、すなわち、これを三大秘法に拝するのであります。本門の題目、本門の本尊、本門の戒壇、これを色香美味と読んでおりますから、そのように注釈をしておきます。
娑婆世界というところは、ほんとうは、われわれが遊びにきた所なのであります。楽しむためには、苦しみというものが、ちょっぴりなくては、楽しみの味は出てこない。しょっぱいものがあってこそ、甘いものの味がわかる。甘いものだけではダメであります。
今の世の中は遊ぶどころの騒ぎではないでしょう。苦しみだらけであります。たとえていいますと、まんじゅうの甘い饀(あん)だといって、ほんとに甘いのなら、いいけれども、塩ばっかりで、それも辛くて食えないような饀だったら、うまいわけはないでしょう。楽しみを味わうための苦しみが、苦しみばかりになっているこの世の中は、これは苦悩の世界であります。
そこで日蓮大聖人は、この娑婆世界という所は衆生が遊びにきているところだ、それが遊ぶどころでなくて、苦しみとおしている、かわいそうだ、助けてやらなければならないといって、御本導を持たせて下さったのであります。
よく考えてみれば、家を出るときには、会社のことを考え、会社では家のことを考え、家にいれば会社のことを考え、いつも追っかけ回されております。そういう世の中は苦悩の世界であります。