発刊の辞

*表記につきましては、読みやすくするため、 原文の旧字体のものは新字体を用い。さらにひらがなを多くしました。ご了承ください。


「折伏教典」 ― はしがき

 前会長牧口常三郎先生が昭和五年に創価教育学会を創設してよりこのかた、二十二年になります。
 牧口先生は教育学の研究を主としてこの学会を創設したのですが、日蓮正宗の信仰と研究に没頭してからは日蓮大聖人の御教えに深くうたれるところがあって、末法折伏の一義をもって当学会の使命となさいました。その時以来、高遠なる日蓮大聖人の哲学をどういうような現代語で知らせるかについて苦心をはらわれました。また、先生亡き後、私が先輩および同志諸君の助力をえて理事長および会長職を汚してまいりましたが、依然として大聖人の深遠なる哲学を解りやすく正確に理解せしむることが唯一の努力でありました。

 内には日蓮正宗の衰微を見、外には邪宗の本尊横行して大聖人御予言どおり日本国滅亡の時に遭い、どうにかして大聖人の御意のごとく日蓮正宗の教義を東洋全体に知らしめんと、さらにその折伏に現代語をもって実相の解明に資するの必要性を感ずるにいたりました。
 しかも昭和二十六年五月三日、学会の折伏大行進以来、同志の糾合激増してこれが教育にひじょうなる苦心が払われ、それがゆえに短時日に教義の大要、折伏理論の会得、学会精神のありどころを知らしむるの必要に迫られたのであります。
 幸いにも牧口先生以来の教育と学会再建以来の七年の時日は、学会の誇りとする教学部の諸氏を生み、この誇りある教学部が中軸となって、ここに「折伏教典」完成の日を見るにいたりました。
 この一冊を手にするときに日蓮教学の大要、明瞭にして、折伏理論の厳たるものを示しております。
 願わくは行学の諸氏、この一冊を力となし末法折伏の人たらんことを切望してやまないものであります。
                           

(昭和二十六年十月十三日)

 

 

「御書全集」
発刊の辞
 宗祖大聖人諸法実相抄にのたまわく「行学の二道をはげみ候べし、行学たへなば仏法はあるべからず、我もいたし人をも教化候へ、行学は信心よりをこるべく候、力あらば一文一句なりともかたらせ給うべし」(御書全集一三六一㌻)と。


 創価学会は初代会長牧口常三郎先生、これを創設して以来、この金言を遵奉して純真強盛な信心に基づき、行学の二道を励むとともに如説の折伏行に邁進してきたが、剣豪の修行を思わせるがごときその厳格なる鍛錬は、学会の伝統、名誉ある特徴となっている。


 したがって大聖人の御書を敬い、これに親しむこと天日を拝するがごとく、また会員一同上下新旧の差別なく、これが研究に多大の時間を当てているのである。しかるに大聖人唯一の正統であり大権威である日蓮正宗の発刊になる御書全集が皆無に近い現状であり、やむをえず巷間流布されている御書に拠っていたが、相伝なき流流・学者の編纂した書は観心本尊抄をはじめその他種々の重要なる御抄において大聖人の御真意にそむく読み方をなし、あるいは誤りをそのまま伝え、または偽書を真書となし、真書を偽書と歪曲する等読者を迷わすこと甚しく、とうていこれを信頼することができないうえ、もっとも重要なる血脈抄、本因妙抄等、日蓮正宗門外不出の御抄は、すでに上梓をみたいかなる御書全集にも掲載されず、宗祖の御真意を拝せんとひたすら念願する者をして久しく遺憾の念を抱かしめていたのである。


 しかるに宗祖日蓮大聖人、建長五年四月二十八日、三大秘法の南無妙法蓮華経を御唱え始められてから七百年を迎えるに当たり、信憑すべき御書の発刊を要望する声が学会内に起こり、余もまた正確なる御書全集の出現は御奉公の一分なりと信じ、ぜひ功罪および世人の批判等に逡巡することなく、ただ仏意を頼り大御本尊に祈り奉り、ついに慶祝記念事業としてこれを発刊せんと発願したのである。


 これに応えられて永年古文書研究に没頭せられて斯学に造詣深き日蓮正宗五十九世の法主たりし堀日亨上人猊下が、六十有余年の蘊蓄を傾けてこれが編纂の大事業に立たれたのは、大聖人門下にとってこの上なき幸せなことである。

 堀日亨上人猊下は八十六歳のご高齢にて日夜不断のご苦心にもかかわらず、身心ともになんらの魔障なく数十年にわたる御研究を結集せられて、ここに本書の完成をみたのである。その内容たるや古今を通じてもっとも誇りうべきものであるとともに、初信の者も仏意を会得するに容易ならしむるよう字句の上にも細心の注意が払われている。
 

 また学会員同志は快く出版費を醵出して余にこの大事業の完遂を促し、教学部員はまたこれが校正に昼夜をわかたず最善の努力を惜しまなかったのである。
 しかるに余の不敏は幾多の過誤をおかして堀日亨上人猊下が生涯を通じての大研究に疵つくることなきやとひたすらこれを虞れ、今後の補正に最善の努力を尽くさんことを誓うものであるとともに、この貴重なる大経典が全東洋へ、全世界へと流布してゆくことをひたすら祈念してやまぬものである。
 願わくは世の識者諸兄、余の微意を諒とせられてご批正あられんことを。
                      (昭和二十七年四月二十八日)