第七章 釈迦一代佛教と諸宗派の批判
第一節 釈迦一代の佛教
釈迦は、今から約三千年前、中印度迦毘羅衛(かびらえ)国の太子として生れ父を浄飯王、母を摩耶といい、幼名を悉達多といった。
十九歳にして仏道修行に志し、三十歳にして菩提樹下で悟りを開いた。
以後、拘尸那城外、跋提河のほとりにある沙羅雙樹の林中で、八十歳の時、涅槃に入るまでの五十年間に数多くの教えを説いた。
すなわち華厳・阿含・方等・般若・法華の経々がそれである。その中で阿含は低い小乗の教え、華厳・方等・般若は権大乗の教えであり、法華は実大乗の教えで仏の出世の本懐である。
支那の天台大師は、この釈迦一代五十年の説法を五時八教に立てわけて、教化の意匠と教法の内容を判釈している。それを図によって現わすと次のようになる。
第一華厳時
場所 伽耶城近くの菩提樹下、七処八会
期間 二十一日間
経 大方広仏華厳経
位 法華経に次ぐ大乗経、
頓教、擬宜の教、兼と名づく
これを依経とした宗派 華厳宗
第二阿含時
場所 波羅奈国の鹿野苑
期間 十二年間
経 増一阿含長阿含、中阿含、雑阿含の四経
位 小乗経
漸敦(秘密、不定教もあり)誘引の教、但と名づく
これを依経とした宗派 倶舎宗・成実宗・律宗
第三方等時
場所 欲界色界二界の中間大宝坊
期間 十六年間
経 勝鬘経、解深密経、楞伽経、首楞厳経、観経雙観経、大日経、阿弥陀経、金光明経、蘇悉地経、金剛頂経、維摩経
位 権大乗経
漸教、(秘密・不定教もあり)弾呵の教、対と名づく
これを依経とした宗派
法相宗・浄土家・真宗・禅宗・真言宗
第四般若時
場所 鷲峯山、白露池等四処十六会
期間 十四年間
経 摩訶般若、光讃般若、金剛般若
位 権大乗経
漸教(秘密・不定教もあり)淘汰の教、帯と名づく
これを依経とした宗派 三論宗
無量義経
四十二年未顕真実
法華経の開経
第五 法華涅槃時
場所 中天竺摩訶陀霊鷲山、虚空会、二処三会
期間 八年間
位 円経、実大乗教
経 法華経 迹門十四品四・本門十四品 涅槃経
これを依経とした宗派 天台宗
しかし、「今末法に入りぬれば余経も法華経もせんなし、但南無妙法蓮華経なるべし」―上野殿御返事(御書一五四六頁)―と仰せのごとく、釈尊出世の本懐である法華経でさえも、末法の今日にはまったく力がなく、三大秘法の御本尊様を受持するより他に幸せになる道はないのである。