ラコタ滞在記Part2-18:メディシンマン達と私~新たなる出会い Has-No-Horses~

ビーズの師匠であるデニス・イエロー・サンダーのお宅に再び訪問。この時の再訪問はビーズの事ではなくて、以前ひょんなことから私の仕事の話になって、クリスタルの話題が出てきた事から

「大きな水晶で、めちゃくちゃパワフルなものを持ってる友人の所に連れていってあげるよ」という展開になったため。その彼の友人というのがシドニー。

この時点でシドニーの名字まで分からなかったため、彼がメディシンマン・・・しかも以前居留区にきた時にニアミスしていたメディシンマンだったとは知らなかった。

その前に、デニスがキッチンへと私達を招き入れ、いつもの水で薄めたコーヒーを大きなマグカップに入れてくれた。水で薄めたコーヒー!? そう、なぜなら彼の入れるコーヒーはあまりに濃すぎるため薄めないと飲めないというのだ。

恐らく私達日本人はエスプレッソとか普段飲むためあまり気にはならないのだと思うが、コーヒーを水のように飲むアメリカ人の場合だと濃すぎるのだろう。
食卓の上にあるクリームと砂糖は500mlペットボトルくらいの大きさのボトルに入ってる。よっぽどコーヒー好きなんだな・・・というか、やはり水代わりということだろうか??

勝手知ったるじゃないが、遠慮なくバフバフとクリームを入れるとデニスが「こいつでかき回してくれ」とカレースプーンを持ってきてくれる。そんなデニスはこの間会ったときもそうだが上半身裸。胸にはサンダンスによってついた傷跡が少々ある。格好つけたり、飾ったり、取り繕ったりしないこういう付き合いができるのは嬉しい。何より彼は何か見返りを期待して優しくしたり気を使ったりしているわけではない。心底フレンドリーだ。

この間ここに来た時彼が大切にしてくれている水晶を見せてくれた。小さいポーチには5cmほどの原石が数個入っていたのだが、ごくごく普通の原石だった。

日本、まして東京にいると、ちょっと出かければたいていどこかにクリスタルショップやこういったものを取り扱っている店がある。昔に比べてずいぶんこういった店が増えた。いつでも私たちは水晶原石など安い値段で手に入れられる。とても恵まれていると思った。

クリスタルセラピーの講義をしている関係上、こういった原石をたくさん持っている私はつくづく痛感する。
彼等にしてみれば、たった5cm程度の水晶原石でも大切な宝物だ。めったに手に入るものではない。

サウスダコタにはジュエルケイヴやクリスタルケイヴなどの近く、ウォールドラッグ(巨大なお土産屋さん)に行けばクリスタルショップがあるが、居留区にはそんな店はない。
アリゾナ州セドナに行けば、大きなクリスタルショップがいくつかあって、ジュエリーはもちろん珍しい石がたくさん売っているけれども、何しろセドナは高級リゾート地だし、ニューエイジャーが多い町だからさして珍しいことではない。

サウスダコタはゴールドラッシュで沸いただけに金も採れるし(現在はほとんど摂れない)、瑪瑙関係も多少は採れるが金をのぞけばさして質の良いものではない。土産物屋に並ぶ石の90%がコロラド周辺か輸入品である。

では、デニスの持っている水晶はどこで手に入れたものか?・・・買ったものではない。人伝に集まってきたものだ。
彼が宝にしているものは、その後行くシドニーさん同様、代々伝わるか遺品であったり、どこかで偶然見つけて拾ったりしたものが多い。だからこそ、宝として価値がある。

コーヒーを飲み終えて、デニスの案内で車を動かしシドニーさん宅へ向かう。あ、ちなみに外出するときはデニスはTーシャツを着た。到着すると、シドニーさんの奥さんと従兄弟、犬二匹が出迎えてくれた。奥に通されると、オウムが飼われている広いスペースにシドニーさんがいた。うちっぱなしの床にパイプ椅子とテーブル。決して裕福とはいえない。ただ、居留区でそれでも家を持っているだけまだまだ裕福だといえる。

シドニーさんの顔を見て、ふと私はどこかで会ったような気がしてきた。
「ようこそ。シドニー・ハズ・ノーホースだ」

ーーーノー・ホース!?ーーー

思わずTomoさんと目が会う。 

ノー・ホースというのは、以前居留区に来たときホワイトサンダーの案内でサンダンスの場所に連れていってもらった時、突然トラックでやってきた強面のメディシンマンの名前。あの時ラコタ語で言葉が交わされていたため、その後のホワイトサンダーの話で知ったことだったが、ウンデッドニーの墓地にノー・ホースのお父さんの墓があった。・・・彼(シドニーの父)はフールズ・クロウの愛弟子である。

ーーーええ!?まさか、あのときトラックで乗り付けてきたあの人じゃ・・・ーーー
しかも、シドニーは以前来た時に私のヴィジョンに関して真摯に話を聞いてくれたメディシンマン:グレイ・グラスの親友でもある。・・・世界は狭いというか。Tomoさん曰く、これは会うべくして会ったんじゃないかと。
ハズ・ノーホースとグレイ・グラスは、頑固で昨今のメディシンマンと呼ばれる人々に対して似非が多いと嘆くホワイトサンダーも認めている二人だった。

席に着くと、シドニーはしばらくじっと私を見つめていた。何しろKISSのジーン・シモンズにも近い強面なだけに、じっと見られると恐い気もするのだが、目が会った瞬間になんだか額から全身ににずばっと電気が走る旋律が起きて、またしても見透かされれている感が襲ってきた。シドニーは数度頷いてから
「遠路遥々来てくれてありがとう。それでなんの御用かな?」
と静かに尋ねてきた。てっきりデニスが話をしていると思っていた私はきょとんとしてしまったが、デニスがそこで私の事を説明してくれると、再び深く数回頷いてこう言った。

「よし、みんな、石をかき集めてきてくれ」

かきあつめるだって!? ・・・・・奥さん、従兄弟、デニスまでが席を立ち方々に散っていく。何が起きるのかと思いきや、その方々から彼等が水晶やスモーキークォーツの原石を持ってきてくれたのだ。苦笑いしてシドニーがこういった。

「これらの石のいくつかは常に儀式に参加させているため非常にパワフルでね。以前、この石を使って瞑想していた時に不思議な現象が起きたりしたことから・・・残念なことだが泥棒に入られた。狙いはもっと尊い石でもあったんだが、それは常に俺が持ち歩いているから。ほかのこれらの石は家のあちこちに隠してあるんだよ」
「泥棒に盗まれたものもあるんですか?」
「いや、大丈夫だった。それにこれらの石はきちんと守られているからね」

そう言いながらテーブルに石を並べてくれた。原石のうち3本だったかは長さ15cmほどもあり、太さも5cm近くあっただろうか、確かに巨大といえば巨大な水晶だ。触っていいか許可を得て、触らせてもらったのだが正直持っただけで手がビリビリして驚いた。小さい原石もたくさんあり、レコードキーパーやウィンドウ、ライトニングクリスタルがあった。

「これはレコードキーパーですね」と私が言うと、デニスや奥さんがこう返してきた。
「そうなんだ。特徴的なものがある水晶には、マスタークリスタルとかいって、そういった名前が付いているんだろう?」
「ダブルターミネーターとか・・・レムリアンとか色々あるらしいけど、私達は何も知らなかったから今本をより寄せて覚えているところなのよ」
と本まで持ってきてみせてくれた。

クリスタルを持っているからといって、それについてとても詳しいとは限らない。しかし、そんなものを知らなくとも、彼等はそれの使い方はよく知っている。水晶以外の石も写真では見たことがあっても持っているわけではない。だが、彼等はたくさんの種類の石がなくとも、たった一つの水晶だけでも驚くほどのヒーリングができる。

様々な儀式に参加させたり使ったりすることで、ただの水晶原石とは言いがたいものすごいパワーを持っている。持たなくとも、近くにおいてあるだけでくらくらした。量より質、そしてなによりそれらを愛し、敬う事。

伝統的なものを守るインディアンは植物も鉱物も動物も人間も境がない。
ラコタ語で「ミヤクイェ・オヤシン」というのは「全てに繋がる命と共にあるように」という意味がある。
キリスト教でいうアーメンと近い使い方をしている様にも見えるが、決して人間や自分主体の意味を示す言葉ではない。
彼等は常に大自然と共にある。地球上にあるものだけでなく、宇宙全体も含めてと言っていい。

石を観察している私をじっと見ていたシドニーは、その後も何度かまた頷き、これらの水晶をどう使っているのかまで話しはじめた。先に彼が話していた不思議な現象についても。やがて従兄弟になにか合図をしたようで、従兄弟は部屋の奥からまた一つ何かを持ってきた。
「・・・これが俺の持っているものの中でもっとも大切にしている水晶だ」

最初はただ水晶を見せてもらいに来ただけで、すぐに帰る予定だったのだが、ここで予定が大幅に変わった。

*フールズ・クロウのパイプとヘッドドレス~グランパからの宝物~につづく