私はアルトの思考を映像として見ていた。
これはアルトじゃない。アルトのお父様の記憶――。
皇帝でありながら軟禁されて育ったお父様。
父親と会う事は許されず、いえ、彼に関われるのは極僅かな側近のみ。まるで捕虜のような待遇。帝国民には彼の存在すら公表されなかった。
質素な自室から出る事なく成人を迎えた。
そして成人するとすぐにシリウスへの居住許可を申請された。
光の銀河連邦からの返答は、『不可』。
帝国は仕方なく彼にトルータンのお妃様を迎え、子どもを何人か儲けさせた。
(アルトは隔世遺伝したのね)
おばあ様の血をより濃く受け継ぎ、お父様よりもわずかにシリウスの血が濃かった。
だからアルトが10歳の時に皇帝の座に即位するとお父様は殺された。アルトより血の薄かったお兄様と弟も殺された。
「!」
その時アルトの他に妹が1人残された。
アルトと妹は中継ぎだ。
よりシリウスの血の濃い子どもを得る為の道具。
帝国はアルトと妹に血族婚をさせようとしていたのね。
だけど事情が変わった。
私が現れたのだ。
用無しとなった妹は殺された。
私がこの地下帝国に来たその日の内に!!
(だから、なのね?)
アルトは私が憎いんだわ。
私さえ現れなかったら妹が殺される事はなかった。
この世でただ1人、心許せる妹が。
妹と私の違いは何?
アルトも私もシリウスの血が流れている。そしてシリウス以外の血が流れている。
それも宇宙の兄弟に未加入の地球人の血。
地下帝国は知らない。
光の銀河連邦から見たら地球とトルータンの違いは歴然。地球とのハーフは認めても、トルータンとのハーフが認める事は絶対にない。
お父様より血が濃いからってアルトに居住許可が下りる可能性はない。
例え私との間に子どもが生まれても同じだわ。
トルータンがシリウス人と結婚しても、シリウス人になれるわけじゃない。シリウス人がシリウスの権利を失うだけ。
トルータンと結婚した時点で私もシリウスの同胞と認められなくなる。私もトルータンと見なされる。
居住許可を申請する事自体ありえない話。
帝国はシリウスの血さえ濃ければそれができると信じているけれどアルトは無理だって分かっている。
ただそれを言ってしまったら自分はすぐにでも殺されてしまう。だから――。
「言ったろう。私には光の銀河連邦を恨む権利がある」
アルトは言った。
――手がわずかに震えている……。
「!」
バッ
私がその事に気づくとアルトは私の手を振り払った。
『何故おばあ様やお父様は殺されたのだ?何故光の銀河連邦は自分を救ってくれない?私だってシリウスの血を継いでいる。それなのに何故殺されるのを待つしかできない?』
手を放しても悲痛な思考が流れてくる。
(だって……光の銀河連邦は……地下帝国には手を出せないから……)
そんな事私が思考で言わなくてもアルトは分かっている。
「つまらぬ事をした」
アルトは私に背を向けた。
そして側近達と共に宮殿へ帰って行く。
今まで気づかなかった。
あれは『護衛』じゃなくて『監視』なんだわ。
アルトも軟禁されて育ったんだ。
お父様のシリウスへの居住を許さなかった銀河連邦の悪口を植えつけられながら。
私がここにさらわれて来るまで、ずっと。
(だからって光の銀河連邦を恨むなんて間違ってるわ!)
私はここへ来て初めて、
――アルトを救いたい。
そう思った。