「お妃様!」
「行ってはなりません!」
その声を振り払い、私はある場所へと向かった。
どうしてもそこに行きたい。
そこは宮殿の奥にあった。
――廟。
トルータン王族の墓。
アルトのおばあ様にお父様、お兄様、弟、妹も皆ここに眠っている。
「お待ちください!」
「ここでは大きな声を出さないで」
私はゆっくりと言った。
女官達は渋々口を噤んだ。
沢山の墓碑が並んでいる。
何か文字が刻まれている。トルータンの字は読めないから私は指でなぞった。
(アルバス……レクトリア……)
ふうん。
初代帝国王のものから順番に並んでいるのね。
ここある墓碑はどれも立派。
(あ)
隅っこにやられている墓碑。あの一角のものだけやけに質素だわ。
文字を読まなくても分かる。
アルトのおばあ様達のものね。
私は墓碑に手をやった。
(冷たい……)
まるで氷だわ。なんて冷たいのかしら。
(あなたは、誰?)
「!」
墓碑から小さな声が聞こえて来た。
「お妃様?」
「どうなされました?」
私の様子に女官達が後ろから声をかけて来た。
「……なんでもないわ」
良かった。女官達は気づいていない。
「少しだけお祈りをしたい気分なのよ」
私はそう言うと墓碑に向き直った。
(私は、セリ)
私は女官達に分からないように思考を開いた。
(あなたは……アルトの妹ね)
(ええ。私はルウルド)
ルウルドの思考が入ってくる。
私は思わず左手で顔を覆った。
(セリ、あなたが悔やむ事じゃないわ)
朗らかな声。
(でも)
ルウルドは私がここにさらわれて来たばかりに殺された。
(あなたが来ても来なくても、どの道私は殺されたわ)
そうね。でもきっとあと数年は生き延びれた。
(ルウルドは長く生きる事を望んだわけじゃないのよ。あなたには分かるでしょ)
(!)
また違う声が聞こえて来た。この声は……。
(ええ。私はアルトの祖母です)
おばあ様……。私と同じシリウスと地球のハーフ。
(私にはできなかった事を、あなたはしようとしてるのね)
(はい)
私は心の中で頷いた。
(お願いよ、セリ)
(ルウルド)
(私達の希望は同じよ、セリ)
(分かるわね)
ああ!
この人達はなんて暖かいんだろう。
自分達がこんな目に遭わされたというのに、誰の事も恨んでいないなんて。
(ごめんなさいね、セリ。あの子……アルトには私達の心が届かない)
(セリ、お願い。お兄様を守って)
(ルウル……)
――っ!
プツッと会話が途絶えた。
「そこで何をしている」
「!」
振り向くといつの間にか廟の入り口にアルトが立っていた。
「アルト!私……」
「くだらん」
ツカツカと近づくとアルトは墓碑に触れていた私の手を振り払った。
そして乱暴に墓碑に足を置いた。
「アルト!!」
「ここへはもう来るな」
「アルト!聞いて。私……!」
「妃を部屋へ連れて行け。結婚式まで部屋から出す事を禁ずる」
「御意」
アルトは私の女官達に厳しくそう言うと廟から出て行った。