それから私は毎日3度アルトと食事を共にした。

 断る事もできたけれどそれは愚かだわ。

 なるべくアルトと接触して、できる限り情報を読み取らなきゃ。

  

 彼らは結婚式を急いでいる。

 だけどまだ準備が必要みたい。

 そうね、少なくとも4、5日は大丈夫。

 その間に私は私にできる事をやらなきゃ。

 

 ――アルトに、この帝国に『愛』を。

 

 決して気づかれないように少しずつコントロールしながらゆっくりと送り込む。

 普段地球では使わないシリウスの力をフル活用しなきゃいけない。

 私には骨の折れる作業だけれどそれでもやらなきゃ。

 

「――妃」

「はい」

 呼ばれて私は顔を上げた。

私はシリウス星のロッポウに似た料理を口にしたところだった。

 

「いや……」 

 そう言うとアルトは下を向き食事を続けた。

 何事もなかったように私も食事を続ける。

 

 私の思考が読めなくて戸惑っているのね。

 ここに来た時私が思考を閉じようと思っても無駄だった。

 私の拙い閉じ方では彼らは簡単に破る事ができた。

 だけど今は彼らは私の思考を読む事ができない。

 急に私の思考の閉じ方がうまくなったわけじゃない。

 私は自分の脳の表面に傷をつけた。

 神経の一部を切断した。

 たったこれだけの事だけど私の思考はこれでずっと読みにくくなったはず。

 

「……妃」

「はい」

 アルトはまた私に声をかけた。

「ええと……なにか必要なものはないか?」

「何も。女官達が良くしてくれているから」

 私はなるべく無表情に答えた。

 少しの隙も作ってはならない。

「……そうか。あ、――どうだ?食事の後一緒に庭園でも歩かないか?」

「ええ」

 私の返事にアルトは少しだけ驚いた表情を見せた。

 

私が断ると思っていたのね。

ええ。勿論この帝国の妃になる覚悟をしたわけじゃないわ。

 

「皇帝陛下、食事の後はご予定が……」

 コキがそっとアルトに耳打ちをした。

「少しだけだ。口を挟むな」

「――御意」

 お辞儀をしてコキは後ろへ下がった。

 そしてジロッと私を睨んだ。

(シリウスの小娘め!)

 心の声が駄々洩れだわ。

 思考を読むまでもなく苛立ちが伝わってくる。

 私とアルトを接触させたくないわけね。

 でも引き下がらないわよ。

 

「散歩は2人でというふうに解釈して良いのかしら?」

 コキを無視し私はアルトに話しかけた。

「あ、ああ」

 居心地が悪そうにアルトは頷いた。