その日の内に私の部屋が用意された。

 教室くらいの広さ。

 金ぴかのベッドは3人くらい寝られそうだし、彫刻が施された豪華なテーブルにチェア。

 隣には衣装部屋。ドレスにティアラ、それに歩きにくそうなハイヒールがずらり。

 

「どんな理由であれ帝国の妃が誕生するのだ。それなりの準備がいる」

 アルトはそう言った。 

 この帝国の正式な手順を踏んで結婚式を行い、その後で光の銀河連邦に報告するつもりだ。

 式が執り行われてしまったら私は宇宙法を破ったと見なされ地球から除籍される。

 15歳になってもシリウスからの居住許可を申請する事はできなくなり、私の身柄はこの地下帝国のものになる。

式がいつなのか分からないけれどそれまでに逃げる手立てを見つけなければ。

 

(だけどどうやって?)

ここから地上へワープはできない。

シリウスとコンタクトを取る事も不可能。

勿論光の銀河連邦は私が地球上にいない事は感知してくれているだろうけれどこの地下帝国にいる限り手は出せない。

  どうしたら良いの?どうしたら……。

 

「どこへ行かれます?」

 部屋から出るなりドアの前で立っていた2人のトルータンが立ちはだかった。

 彼女達は私の女官だそうだ。

「私は皇帝の婚約者なんでしょ。この宮殿の中を自由に歩いて良いはずよ」

「――御意」

 女官はお辞儀をした。

 そして私の後ろをついてきた。

 どうせ部屋にいたって見張られている。

私の行動は報告される。

だったらどこにいたって同じだわ。

 

「えっ」

 私はある人を見て目を疑った。

 庭園を挟んだ向こうの廊下をコキが歩いている。

 一緒に歩いているのは……

(都築先生!!)

 どうしてここへ?

 彼は地球人のはず。

「あ」

 あのスーツケースを持っている。

 2人はアルトの部屋に入っていく。

 私は急いで中の様子を透視した。

 

「計画は進んでいるか」

「はい、陛下」

「それか。例の爆弾は」

「はい。陛下の結婚の最高のはなむけになります」

 アルトとコキが話をしている。

 なんの話?私は彼らの思考を読んだ。

 

(なんて事!!)

 ――都築先生が持っているあれだけじゃない。

行方不明になったスーツケース核爆弾21個全てを彼らが保持しているなんて!

 都築先生の他にも操られている地球人20名が1つずつそれを隠し持っている。

彼らはそれを私とアルトの結婚式の余興に使おうとしている。21個の爆弾を世界各地で同時刻にスイッチを押す。

 そんな事をしたら光の銀河連邦が何千年もかけて徐々に高めて来た地球の波動が一気に下がってしまう!

 今まで光の銀河連邦がやってきた事が全て無駄になってしまうわ。

 

 しかもむかつくのはこの思考を私に読ませたのはわざと。

 私が会話を聞いているのも全部知っていて敢えて思考を読ませてくれたって事。

 どうせ私には止められない。

 私は無力だ。彼らの企てを知っても止められない。地球が核で汚れていくのをただ黙って見ているしかない。

 

「おや。そこにいるのは我が妃」

「!」

 部屋からアルト達が出て来た。

 私は飛んで庭園を横切りアルトの前に立った。

 

  パンッ

 

 私はアルトの頬を平手打ちした。

「皇帝陛下!」

 コキがアルトの前に立った。

「良い」

 アルトは言った。

「あんた達みたいのがいるから!だから地球が宇宙の兄弟になれないのよ!!」

 私はアルトの服を掴んだ。

 

 アルト達は地球人達の波動を下げようとしている。

『核兵器は必要だ』『核を持て』そう地球人の脳に直接訴えかけている。

 操られている事にさえ地球人は気づかない。

 そして本当の『平和』が何か分からないままでいる。

『平和』『平和』と言われている日本でさえ宇宙から見たら全然『平和』じゃない。

 日本が『平和』?

真の『平和』だったら自衛隊も警察もいらない。

何故気づかないの?

誘拐、強盗、殺人。事件、事故、それらがなくならないの何故か。

誰もが日々起こっている事件をどこか他人事と考えている。

どこかで多少の犠牲は仕方がないと思っている。

その思考を植え付けているのはトルータン達だ。

 

シリウスには病気や怪我すらない。

皆、寿命で死んでいくの。

幸せに死んでいくの。

地球人達に100年足らずの寿命を当たり前と思わせないで!!

 

「この帝国を維持する為だ」

 アルトは私の手を払いのけ悠然と歩き出した。

私はただ立ち尽くすしかなかった。