こんな馬鹿な話はないわ。
アルトは本気で私を妃にしようとしている。
それも私のシリウスの血が欲しいが為に。
確かに私がトルータンの子どもを産めばその子は私と同じように15歳になったらシリウス星への居住許可を申請する事ができる。でも……。
「光の銀河連邦が居住許可を下すなんてありえないわ!!」
「やってみないと分からないだろう?」
アルトはギョロッとした目で言った。
「君も知っての通り、光の銀河連邦の所為で地球人の中にもシリウスやプレアデスの者達と交流する者が増えて来た。我々も生きにくい時代なんだよ」
宇宙の兄弟達が地球に接触するには厳しい規定がある。
だけど地球人とコンタクトが全く取れないわけではない。
規定に反しないようにママ達は地球に働きかけている。核を捨て地球を素晴らしい世界へ導こうとしている。
そうした働きの所為で地球の波動が徐々に高まり、波長の低いトルータン達は地上に住みづらくなり地下に移ったり故郷の星へと帰っている。
あと200年もすれば地球からトルータンは1人もいなくなると予想さえされている。
彼らが地球に住み続ける道があるとすれば光の銀河連邦の許可を求めるしかない。
その為にはトルータン星自体が認められなくてもトルータンの中から少なくとも1人は光の銀河連邦に加盟できる者が現れなければならない。
「だからってありえない!シリウス人とトルータンの結婚は光の銀河連邦で禁じられているはずよ!」
結婚が認められていない以上シリウスとトルータンのハーフが誕生するはずない。
「そう、地上では無理だ。でもここは違う」
「!」
――過去にも試した事があるんだわ。
千年ほど前、シリウス人と地球人のハーフを地上から誘拐して無理矢理トルータンとの子どもを産ませた。
でもその子はシリウスの血が薄くて光の銀河連邦からの許可が降りなかった。
過去に許可が下りなかったなら仮に私がトルータンの子を産んだとしても認められる確率は低い。
アルト達がやろうとしている事は無駄だわ。
「どうかな。僕と君の子どもならどう結論が出されるか分からない」
「あ」
アルトには……わずかだけれどシリウスの血が入っているんだわ。
「僕のおばあさまがね」
アルトはその時許可が下りなかった子どもの子ども。
誘拐されてきたおばあさまの記憶がアルトを通して入ってくる。
「なんて酷い……」
目から涙がこぼれた。
「それじゃ、あなたも被害者じゃない!」
アルトは冷たい目で笑った。
「そうだ。だから僕には権利がある。光の銀河連邦に復讐する権利がね。奴らは僕のお父様にシリウスで暮らす権利を与えなかった」
「違うわ!何故分からないの?恨むべきは光の銀河連邦じゃない!あなたのおばあ様を誘拐したこの地下帝国じゃないの!!」
「黙れ」
アルトはナプキンをテーブルに置いた。
「どうやら食事をする気分じゃないようだね」
アルトは後ろの男に目配せをするとドアが開いた。
「真紀!山ちゃん!」
入ってきたのは虚ろな目をした2人。
また『化け物』と罵られる!
そう思ったけれど、そんな事はなかった。彼女達にはもうそんな気力すら残っていない。
「酷い……」
思わず目を覆った。
2人は見てしまったんだ。地球人が料理にされるところを。
「君の返事次第で彼女達の処遇も変わるんだよ」
「!」
なんて汚い取引なの。
私がこの話を断れば2人を料理してしまうなんて。
「君さえイエスと言えば彼女達は記憶を消して地上に帰してあげよう」
2人を地上へ戻してあげなきゃ。
だけど――彼らは約束を守ってくれる?
いえ、仮に守ってくれたとしてもトルータンの血をシリウスに入れるなんてできない。シリウスにいる愛すべきファミリー達への裏切り行為だわ。
「厨房に連れて行け」
アルトが静かに言った。
「あああああ!!!」
山ちゃんが狂ったように叫んだ。
「ほら、立て」
引きずるように2人はドアへと連れて行かれる。
あっちは料理が運ばれてきたドア。
「待って!待って、お願い!!」
私は夢中で叫んだ。
「あなたと結婚します!!」
(あ……!)
私ったら何て事を!!
自分の口を押えた。
シリウス人として決して言ってはいけない一言だった。
だけど2人を見殺しにするなんて私……。
パチンとアルトが指を鳴らした。
私が入って来た方のドアへ真紀と山ちゃんが連れて行かれる。
「ありがとう。ディナーは終わりだ」
アルトはそう言うと席を立った。
私は力が抜け床にその場に座り込んだ。