「瀬里ちゃん、一緒にせーへん?」

 放課後の校庭、新しいクラスメイトの喜美ちゃんが声をかけてきた。

 手にボールを持っている。

 見ると何人かの女子がにこにこ笑いながらこっちに向かって手を振っていた。

 ドッジボールをしていたのね。

「ありがとう。でもまだ引っ越しの片付けがあるから」

 私はそう言って背を向けた。

 付き合い悪いとか暗いとか思われた。

 だけど呑気に遊んでいく気にはとてもなれなかった。

                        

 3日前に神戸にあるこの学校に転入した。

 引っ越しなんかしたところで意味ない。

 いつあのトルータンからの追手が来るか分からない。

 名前を変えて周りの人の記憶をいじって元々ここで暮らしていた事にすれば少しは安全になるだろうけど今はシリウスの力をほんの少しでも使うわけにはいかない。

 マルが前の家から荷物を運んでくれたのがシリウスからの最大の配慮。

これからは今までよりもっとずっと気をつけて生きていかなければいかない。

シリウスの力を使えない私は自分でも呆れるほど無力で、パパまで巻き込んでしまった自分に無性に腹が立った。

パパは馴染みのないこの地で再就職先を自分で探さなければならなかった。

それだけじゃない。ママが星から出られなくなったって事はもうパパには会えないって事。

なのにパパは「お前の所為じゃないよ。いつかはこうなる運命だったんだ」と言ってくれた。

地球人の自分がいつまでもママと会えるとは思っていなかったらしい。でも違う。これは私のミスが招いた事態なのよ。

                        

「はあ」

 ため息をついて空を眺める。

「あ」

 シリウスをうっかり透視しそうになったのを慌てて止めた。

 ママ、ごめんね。ママと思考をつなぐ事も今の私には許されていないんだよね。

(遠いなあ……)

 シリウスは遠すぎる。

 私はとぼとぼと道を歩き出した。

 

「やあ、やっと見つけた」

 すれ違った男の人がつぶやいた。

「え」

 思わず振り向く。

 

(こいつ……!)

 にこにこした太った中年の姿をしているけど、この前のトルータンだ!!

 逃げようとした途端私の体が凍りつく。

 

 ヒュッとあの気持ち悪い舌が見えたかと思うと中年の男の姿はトルータン本来の姿に変わった。

  こんなところでなんて事するの!!

 と思って、私はやっと気がついた。

 昼間のこんな時間なのに大通りを誰も通っていない。

車さえ通らない。

結界を張られているんだ!!

 

(マル!)

 頭の中で叫んだ時には私はもうそこにいなかった。