「ごめんなさい」

「仕方ないわ」

「ごめん、シイ。僕ももっと気を配っておくべきだった」

「あなたの所為じゃないわよ、ティグル。巻き込んでごめんなさい。あなたはすぐ星へ」

「いや、今回の事は僕にも責任が……」

ティグルが言い終わらない内にママはティグルをシリウスにワープさせた。

「私がワープしちゃったのが1番まずかったわね」

ママが髪をかきあげた。珍しく苛立っている。

あのトルータンが私の事をどこまで感知したか分からない。

もしかしたら波動の高い地球人だと思われたかも知れない。

宇宙の血が入っている事に気づいたとしてもどこの星の血が入っているかまでは分からなかったかも知れない。

だけどママが現れた時点で私が宇宙と関わりがある者だという事は分かってしまっただろう。

でもママが私を連れに来てくれなかったらきっと私の思考は全部読まれた。

私がシリウスとのハーフだと分かったらトルータンはきっとシリウスや光の銀河連邦の情報を欲しがる。

ましてスーツケース核爆弾を見てしまった私を生かしておくとは思えない。

 

「あなたを奴らから隠さないと……。ああ、それからパパも」

 目の前にパパが現れる。

「え?うわあっ!――シイ……」

 思いっきり尻餅をついてからパパは不思議そうにママを見た。

(ああ!私ったらなんて事しちゃったの!)

 あれほど気をつけるように言われていたのに。 

 

「このまま暫く宇宙船で移動し続けるわよ」

 ママが言った。

「でも……

 と言いかけてやめた。ママは全部分かっているから。

 

 パパも私もママに面会する事を許されている。

 だけど面会する場所や時間は宇宙法で細かく決められている。

 長期間パパと私が地球から離れる事は宇宙法に反する。

 そんな初歩的な事私が言わなくたってママはちゃんと分かっている。

 だけどそれでもママは私をどうにかして守ろうとしてくれているんだ。

 ママはすぐに宇宙船を地球から遠ざけた。

 

 

――2人のシリウス人が宇宙船に現れるまで半日もかからなかった。

 

「これは明らかに規則違反だ」

 男の方のシリウス人が言った。

「ああ、シイ。なんて事なの」

 女の方のシリウス人が泣きながらママを抱きしめた。

 パパは恐怖で床に座りこんでいた。

 

「ごめんなさい」

 私は男のシリウス人、スグに頭を下げた。

「セリ、分かったと思うけど君が謝ってどうにかなる事じゃないんだよ」

 スグは言った。

「ごめんなさい」

 私はもう1度謝った。

 泣きそうになった。だけど泣いちゃダメだ。本当に辛いのはママだ。

 ママはシリウスに強制送還される。もう星から出る事は許されない。

 

「ママ」

「仕方ないわ。仕方ないのよ……」

 自分に言い聞かせるようにつぶやきながらママは私をしっかりと抱きしめた。それからパパの事も。

 そしてスグと一緒に消えた。

 

「はじめまして、セリ」

「はじめまして、マル」

 私は残った女のシリウス人マルとシリウス式のハグをした。

「残念だけどこれ以上宇宙にあなた達を置いておくわけにはいかないわ」

「はい」

 次の瞬間私達は地球に戻されていた。

 

 家の荷物がそっくりある。けれどここは私の家じゃない。

「これからの事は分かるわね?」

 マルが厳しい表情で私を見た。

「ええ」

 私は答えた。

 ここは神戸のある一軒家。これからは身を隠す為に1~2か月単位で引っ越しを繰り返す生活をする事になる。

あのトルータンはきっと仲間に私の存在を知らせている。今頃血眼になって私を探している。

 

「あなただけでも今すぐシリウスに連れていければ良いのだけれど」

 マルは言った。

 ありがとう、マル。

 でも分かってる。今すぐは無理。

 そうだね。マルの考える通り2年後私の居住許可が下りるまで逃げ切れさえすれば私はシリウスに行った方が安全だ。

 だけど今回こんな事をしでかしてしまった以上私に居住許可が下りるか分からなくなってきた。

 下りたところでますますパパを1人置いておくわけにはいかなくなったわ。

パパは大切な人だもの。

知らないわけじゃない。私を育てるのがどんなに大変だったか。

友達にも自分の親にも嘘をつき、シリウスの血の入った私を地球人として育ててくれた。特に自分の力を制御できなかった赤ちゃんの頃私を人目から隠すのにどんなに努力してくれたか。

そして今後ママと会えなくなるのがどれほど辛いか。

 

「シイには暫く連絡できないわ。何かあったら私に連絡して」

 マルは私の手をしっかり握ってから消えた。