気づくと私はパパの車の中だった。
――そうだ。私、塾で倒れて……。
「パパ」
「瀬里。起きたか。良かった」
パパは運転しながら後部座席に横たわる私をバックミラー越しに見た。
「ごめんね、仕事中だったのに」
まだ明日の会議の準備が残ってたのね。
そうなの。私、車に運ばれる間もずっと目を覚まさなかったの。
やだ、パパったら病院に向かおうとしてる。
「パパ、病院には行かないわ」
「え?でも……」
「病気じゃないのよ。ママのところに行かなきゃ」
「え?」
「ごめん。先に帰ってて」
車の窓から近くに人通りがない事を確認してから私はママの宇宙船にワープした。
「わあっ!」と驚くパパの姿が見える。
全く。一緒に宇宙船にワープした事だって何十回とあるのに、パパったらいつまで経っても慣れないんだから。
ごめんね、パパ。でもすぐに知らせないと。
「大変な事になったね、セリ」
「ひやひやしたわ」
宇宙船では険しい表情のママとティグルが待っていた。
「ごめんなさい」
ママ達が塾での出来事を全部見てたなんて気づかなかった。
「仕方ないわ」
え?シャットアウトされてた?あの先生に?
だってあの先生、地球人でしょ。
「だと思うよ。だから僕らも不思議に思った」
そうね。どんなに私の事が心配でもママもティグルも光の銀河連邦の許可なしでは地球に上陸できないものね。
「ママ、あれはなんだったの?あれは――」
先生の部屋にあったあれ。
あのスーツケースは……。
「ええ。あなたの考えてる通り、あれは核兵器。 『スーツケース核爆弾』よ」
ママが言った。
「『スーツケース核爆弾』!?」
私は思わず叫んだ。
やっぱり。あれは核兵器だったんだわ。
「セリが産まれるずっと前にね、ソ連という国があったの。その国が崩壊する時スーツケース核爆弾が20個ほど行方不明になったのよ」
「それは……地球での『行方不明』じゃないのね?」
なんて事なの。
地球人が見つけられなくなる『行方不明』はそんなに珍しい事じゃない。まして国が崩壊したならその混乱に乗じて何かを隠すなんて簡単な事だわ。
でもまさかそれが光の銀河連邦から見ても『行方不明』だなんて。
「ありえない」
私はつぶやいた。
光の銀河連邦は地球に直接介入してくる事はなくても地球の事は全部お見通しのはず。
まして核は光の銀河連邦が1番嫌っているもの。
その核がどこに、いくつ、どういったものがあるか、全部把握してるはず。
「あの20個のスーツケース核爆弾だけは違うの」
「光の銀河連邦すら感知する事ができないんだ。ずっとあの爆弾については光の銀河連邦でも調査してきた」
「そんな……」
光の銀河連邦が感知できない?そんな事地球人にはできっこない。
ハッ
まさか!
私は顔を上げた。
「そう。地球外生命体の介入が考えられるわ」
それもシリウス人同等、もしくはそれ以上の能力がなければ光の銀河連邦の目を盗むなんて事できないはず。
「塾は辞めなさい。セリ」
ママは言った。
ええ。分かったわ。あの先生には関わっちゃいけないのね。
「光の銀河連邦には既に報告しておいた」
ティグルが言った。
「それから、セリ」
ティグルの言葉に私は頷いた。
暫く私もこの宇宙船には来ない方が良い。
万が一にも宇宙の兄弟になっていない地球外生命体に私のワープを感知されるわけにはいかない。